「人工知能」や「AI」というワードを見ない日はありませんが、一方でいまだにAIに対する間違った考えを持っている人が少なくありません。いち早くAIを導入した企業では、「こんなはずではなかった」というAIに対する失望感がまん延しているとも聞きます。

そのような状況だからこそ、改めてAIが得意とすることは何か、なぜ企業はAIを必要とするのか、AI導入で何を達成したいのかについて、正確な情報に触れることが重要だと考えます。長くAIに携わってきた筆者が、AIの可能性を分かりやすく紹介します。

1 AIは今、どのように利活用されているか?

チェスや囲碁でAIが人を打ち負かしたという話題は、人々をAIの世界に引き込む上で重要な役割を果たしました。この他にも、AIが14世紀から20世紀までの肖像画約1万5000点を学習した上で描画したこと、クラシック音楽を学習してバッハが作曲したものと区別がつかないほどの曲を創作したこと、高校野球の戦評やイニングのデータを学習して新聞記事を書いたことなどが話題となりました。

人間とAIの能力の比較において、AIの優位性が示された事例は数々あります。この他にも、以下のようなものがあります。

  • 投資家向けのアナリストリポートをAIが解析し、過去のリポートとの客観的類似度を評価する
  • 新卒採用時の書類をAIが効率的かつ迅速に選考する
  • 杜氏(とうじ)の経験を生かし、AIが米の膨らみを画像診断して酒の品質を保持するよう支援する
  • 化学プラント事故を未然防止するために、生産設備に取り付けたセンサーの情報をAIが解析し、異常予兆を検知する
  • 結婚相談所で成婚率やマッチング率を高めるために、登録者のプロファイルなどの表面的な情報だけではなく、当人の生い立ちや周辺環境といったあらゆる情報をAIが他の登録者と掛け合わせる
  • テストの点数だけではなく、一人ひとりの家庭での学習状況をAIが分析し、その小学生に合った最適な学習プランを策定する
  • 最大の売上を達成するために、アルバイトやパートのシフトの組み合わせを調整する

これらのAI利活用は、今までは取り扱うことができないほどの大量なデータから傾向値を導き出す「未来予測」という、AIが得意とする能力によって実現したものです。これにより、業務の効率化、継続性および安全性の担保、コスト削減などのメリットが生まれています。

とはいえ、AIが導き出した答えが100%正しいわけではありません。あくまで確率が弾き出されるだけで、最終的な判断は人間が下します。この点がAIと「システム」の明確な違いです。つまり、1+1=2であるとするのが「システム」、70%くらいの確率で1+1=2かもしれないと考えるのがAIです。最終的に2とするか否かは人間が判断します。

2 AIを進化させるための「点」のビジネスからの脱却

先に示したAIの導入事例は、AIを使って「点」の企業ニーズを実現したものです。日本でのAI導入は「点」のビジネスの実現のために進められていますが、この「点」のビジネスから脱却し、大きな視点で捉えることこそがAIを進化させ、人に優しく寄り添うAI世界を実現することにつながると考えています。

ここでは、「点」のビジネスから脱却して、AIを進化させることを考えてみましょう。例えば、「空き家」問題です。既に空き家になっている情報を管理しているだけでは将来の街づくり構想はままなりません。既に空き家となっているデータだけでなく、AIを活用した「空き家になりそうな家の予測データ」も加えることで、初めて街づくりを検討することができます。

つまり、現時点の家族構成、近隣者との関係、通院履歴、子どもの進学状況、生活に必要な物資の入手方法、治安状況、福祉システムの充実度、道路の劣化度などのあらゆる情報分析をAIで行うことで、今後、空き家になる可能性の高いエリアの予測が可能となり、それが街づくりに反映されるわけです。

そして、空き家にならないように、間を空けずに別の家族に住んでもらうための情報提供も、AIによって支援することができます。このようにして自治体は税収確保が実現でき、治安の良い安全で魅力ある街づくりの推進が可能になるのです。

また、企業においてはAI音声認識技術とAI自然言語解析技術を融合させる試みが進もうとしています。具体的には、会議やコールセンターで会話した音声データを、話者ごとに分離をしながらリアルタイムにテキスト化し、余計な会話内容を自動削除して要約したり、議事録にまとめたりして、関係部署に即座にデータ共有を図るという試みです。さらに、スマートスピーカーから取り込んだ音声をベースに、出張予約から会計処理までを、一気に完了させるというものもあります。

このように、「点」の企業ニーズから脱却し、大きな視点で「実現したいこと」を考え、AIの利活用を考えると、業種はもちろん業務の壁も取り除かれ、AIがあらゆるシーンで利活用される「変革」が生まれるのです。これこそがAIの大きな可能性であり、全てのビジネスをAIが変えるといわれるゆえんです。

3 AIの未来像

現在のAIは、全て決まった作業を遂行する「特化型AI」に分類されます。これと対比するものとして、「汎用型AI」というものがあります。「汎用型AI」とは、あらゆる目的や課題に対応して、人間のような知的な振る舞いを一通りこなすAIであり、これこそが「人工知能」と呼ぶに値するものでしょう。

「汎用型AI」を実現するプロセスとして、人間の脳の神経系ネットワークを丸ごと再現しようとする全脳エミュレーションというアプローチと、新皮質・基底核・海馬のプログラムを個別に解析し、後に結合するという全脳アーキテクチャーというアプローチがあります。

人間の脳には、約1000億個のニューロン、約100兆個のシナプスがあり、その全容解明には相当な時間がかかるといわれますが、今世紀末に人類がそれを手に入れると予測する人もいます。これはまさに第4次産業革命につながるといえるもので、「我が社の決算書を作成してほしい」「A社とB社のホームページを開発してほしい」「自動車産業の最近の動向を10ページにまとめてほしい」というようなリクエストに、瞬時に応えることができるでしょう。

また、人間の体内からの内分泌物質をシミュレートすることで、人間が持つ約4500もの感情表現を生成することも、現実味を帯びてきています。その他、医療分野では、7μm(マイクロメートル)程度といわれる人間の赤血球ほどの大きさのナノロボットにAIを搭載し、血管注射により体内に大量に送り込むことで、ナノロボットががん細胞を退治したり、動脈硬化や脳梗塞を体内から治療したりするといったことが期待されています。

さらに、そのナノロボットを脳のあらゆる毛細血管に送り込んでスキャンし、人間の記憶・人格・発想などをコンピューター上にアップロードすることで、「人間の身体は死んだとしても精神だけは生き続けられる」ということも可能になるのです。これらは、倫理面の課題を多く残していますが、科学技術的には実現可能なのです。

このようにAIは世界を変える可能性を秘めていて、必然的にAIが人間の知性を超越するシンギュラリティ(技術的特異点)に到達します。一方で、AIが暴走しないように「人間に寄り添うAIの世界」の実現を目指す必要があります。AIに携わる企業などは、こうした世界を実現することで、「AIが人類の未来を脅かす」といった意見や危惧が無用であることを示していくことが大切です。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年2月4日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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提供
執筆:AI Infinity 株式会社 代表取締役社長 最高経営責任者 春芽健生
慶應義塾大学 法学部 法律学科 卒業
富士通、日本ヒューレット・パッカードを経て、日本オラクルでは北海道支社長を務めるなどIT業界における要職を歴任。さまざまなビジネス・クリエーションを実現してきたIT業界におけるビジネス・スペシャリスト。人工知能AIを中核として、さまざまなAI技術要素を融合化させたソリューション・サービスを提供する AI Infinity 株式会社の代表取締役社長 最高経営責任者として 「人に寄り添うAI・汎用型AI(GAI:General Artificial Intelligence)の実現」 を目指す。東京都からの依頼により登壇講演した 「AIに不可欠なデータ精査の重要性」 や、韓国企業からの依頼により登壇講演した 「AIの未来像」 は記憶に新しく、他企業に対するプライベートセミナーでの講演やAI導入に関するコンサルティングも多数実施している。

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