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学校教材がICT活用で有償に…著作権の新制度で利害関係者がもめている

日刊工業新聞

2019.08.24

 学校教育の教材で使う他者の写真や文章の著作権扱いが変わろうとしている。教室内であれば無許諾・無償で使えたが、情報通信技術(ICT)活用で有償となる。メールで予習教材を送ったり、欠席者や社会人がオンデマンドで学んだりする場合がそうだ。管理団体に「年間学生1人当たりいくら」と補償金を支払う仕組みが予定されている。しかし利用者と権利者の利害がぶつかり、調整に時間がかかりそうだ。(文=編集委員・山本佳世子)

「学生1人当たり」補償金、管理団体が集め資金配分
 論文や小説、写真や音楽などの他人の著作物を、印刷物としてコピーしたりインターネットで利用したりする場合は、個別に著作権者の許諾を得る必要がある。しかし非営利の教育機関での授業は、個人使用の場合とともに、著作権者の許諾なしに自由に使うことができる「例外規定」となっている。


 ところが印刷物のコピーは教室での受講生が使うにとどまるのに対し、ICTの発展でインターネットを介すると拡散しやすい。異なるキャンパスへ同時中継する遠隔合同授業はぎりぎり従来と同じ。しかしそれを越えた使い方では許諾が必要となる。授業を議論中心にするため事前に教材を提供する「反転授業」や、平日昼間と学びの時間をずらした社会人教育などが想定されている。

 しかし個別に著作権者とやりとりするのは、小中高大のいずれの学校にとっても手間がかかりすぎる。そのため「授業目的公衆送信補償金制度」に向けて2018年5月に著作権法が改正された。

 これは各学校の設置者である学校法人などが、指定管理団体を通じて「補償金」を支払い、同団体が著作権者に資金配分する仕組みだ。文化庁長官が指定する指定管理団体は一つだけだ。


 著作権関連団体が数年前から準備を進め、19年1月に一般社団法人「授業目的公衆送信補償金等管理協会」(SARTRAS=サートラス)を設立。2月に指定を受け、中心的な存在となった。

 現在、サートラスで補償金額や対象となる授業方式などを固めるべく、関係団体の意見聴取が進められている。その後、サートラスが学生・生徒1人当たりの補償金額を文化庁へ申請し、文化庁長官・文化審議会の諮問・答申を経て、運用スキームが確定する。


 意見聴取の舞台は「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」だ。サートラスの構成員である各著作権協会など権利者側と、国立大学協会や日本私立大学団体連合会など利用者側が参加。文化庁・文部科学省や有識者の助言を得ながら、環境整備に取り組んでいる。18年度に議論してきた四つの専門フォーラムを、19年度は統合して全体での議論に進んでいる。

適用範囲、合意形成急がれる
 いくつかの切り口のうち「大学教員の関心が大きいのは、どのような授業形式が対象になるか」(文化庁著作権課)だという。また学長ら経営陣にとっては、新たに出現した経費として、補償金の金額が重要だ。

 そもそも補償金の適用範囲や金額は、権利者側なら「より広く高く」、利用者側なら「より狭く安く」設定したいと思うもの。簡単には意見の一致が得られない。しかし使用者側の負担感が大きすぎると、個別の権利処理ですませたり、他者の著作物活用を極端に避けたりするケースが増えてしまう。新たな仕組みを生かすには、双方の納得が欠かせない。

 また大学では教員らが書籍や論文、顕微鏡写真、芸術作品などの創作活動を行っている。そのため山口大学の木村友久知的財産センター長は「新制度を機に『職務著作』の範囲を見直す大学が増えてくるのではないか」と指摘する。職務著作とは「教員が施設や設備など大学の資源を使って生み出した著作物を、個人活動ではなく職務によって生まれたと解釈する」ものだ。

 国立大学では04年度の法人化以降、教員の研究成果による発明が、個人発明から「職務発明」に変わっている。権利は個人ではなく大学にある形だ。しかし著作権は当時、「議論を進めるには時期尚早」と判断され、グレーのままだった。

 つまり現状では、大学の資源を使って個人が創作した著作物の権利は、多くの場合で個人にある。一方で学長裁量経費や研究プロジェクト予算による著作物では、権利は大学という場合が出てきつつある。

 これからの大学においては、どのような線引きがふさわしいのか―。著作権の対価の還元を促す新制度は、議論を起こすきっかけになりそうだ。

 新制度を含む改正法の施行期限は21年5月。利害の対立を越えた合意形成が急がれる。

日刊工業新聞2019年8月22日



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