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民法改正で注意すべき契約書の記載内容~民法改正と契約書の見直し(1)

日本情報マート

2017.09.04

 2017年6月、民法の改正法が国会において成立し、公布されました。同改正は、2020年6月1日までには施行される予定です。今回の改正は、1896年に現行民法が制定されて以来の大改正です。本連載においては、民法改正に伴い、契約書をどのように見直す必要があるか、具体的に説明していきます。
 第1回においては、民法改正により、契約書の記載内容が重要になることについて解説いたします。

 なお、本稿の内容は、筆者の個人的な見解に基づくものであることをあらかじめご理解ください。

1 契約書における規定の仕方が重要に

 改正民法においては、「契約その他の債権の発生原因」と「取引上の社会通念」が重視されることになります。以下は、「錯誤」(民法第95条)、「債務不履行による損害賠償」(民法第415条)、「催告による解除」(民法第541条)に関する規定ですが、他の規定においても同様の文言が追加されているところです。

 「取引上の社会通念」とは、一般常識や取引慣行のことですので、これまでの取引における契約の解釈と変わるところはありません。

 これに対して、「契約その他の債権の発生原因」とは、契約の締結に至る経緯や当事者が契約に至った動機や意図のことであり、契約書における具体的な規定が各規定の解釈において影響を与える可能性があります。

(錯誤) 第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

(債務不履行による損害賠償) 第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

(催告による解除) 第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

 とりわけ、契約の締結に至る経緯や、当事者が契約に至った動機や意図を、契約書の「前文」や「目的」規定において明らかにすることが適切な場合も出てくると考えられます。

 例えば、売買基本契約において、以下の通り、目的規定において、「乙は商品を△△株式会社に継続的に各商品1個当たり金〇円で再販売する目的で甲から購入するものである」と規定した場合、甲の乙に対する商品の提供が履行不能となった場合には、乙は甲に対して、転売利益についても債務不履行に基づく損害賠償請求をしやすくなります。

【改訂前】 (目的) 第1条 甲は乙に対して、甲の製造する「●●●●」(以下「商品」という。)を継続的に売り渡し、乙は、これを継続的に買い受ける。

【改訂後】 (目的) 第1条 甲は乙に対して、甲の製造する「●●●●」(以下「商品」という。)を継続的に売り渡し、乙は、これを継続的に買い受ける。乙は商品を△△株式会社に継続的に各商品1個当たり金〇円で再販売する目的で甲から購入するものである。

 また、売買契約において、以下の通り、目的規定において、「なお、乙は、甲の所有する自動車に塗装されたアニメのキャラクター(〇〇〇〇)に着目して購入するものである」と規定した場合において、仮に、甲が売却前に、自動車の塗装を替えてしまった場合には、自動車の性能が変わらない場合にも、契約の内容に不適合なものとして、乙は、債務不履行に基づく損害賠償請求や契約の解除の他、契約内容に適合するように塗装をし直すことや、場合によっては代金の減額を求めることもできることになります。すなわち、自動車の性能が変わらない場合(客観的な瑕疵(かし)がない場合)にも、主観的な瑕疵を理由として、各種の請求ができることになります。

 なお、現行の民法ではこのような場合には、瑕疵担保責任として、損害賠償請求や解除だけが認められましたが、民法改正により、追完請求(塗装のし直し)や代金減額請求も認められることになることに留意する必要があります。

【改訂前】 (目的) 第1条 甲は乙に対して、甲の所有する自動車(ホンダ シビック 2015年製造)を売り渡し、乙は、これを買い受ける。

【改訂後】 (目的) 第1条 甲は乙に対して、甲の所有する自動車(ホンダ シビック 2015年製造)を売り渡し、乙は、これを買い受ける。なお、乙は、甲の所有する自動車に塗装されたアニメのキャラクター(〇〇〇〇)に着目して購入するものである。

2 必要以上に民法改正を恐れる必要はない

 もっとも、必要以上に今回の民法改正についてナーバスになることはありません。

 上記1においても記載した通り、改正民法においても、「契約書の内容」だけではなく、現行民法同様に「取引上の社会通念」も重視されるので、殊更に契約書の記載を今まで以上に詳しくする必要はないと考えられます。

 また、上記1で掲げた2つの事例に関しては、現行の民法においても同様の規定をすれば、買主の側で損害賠償請求や契約内容が不適合の責任を問うことができます。現行民法で定められていない追完請求や代金減額請求についても、契約書に規定すれば認められます。

 民法改正により、契約書の規定を大幅に改訂しなければならないという風潮がありますが、基本的には現行の契約実務が大きく変わるわけではないということにご留意ください。

 次回は、債務不履行に基づく損害賠償、解除、危険負担の制度見直しに伴う契約書の規定について解説いたします。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2017年9月4日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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執筆:弁護士 渡邉雅之
<経歴>
1995年 東京大学法学部卒業
1997年 司法試験合格
2000年 総理府退職
2001年 司法修習修了(54期)、弁護士登録(第二東京弁護士会)
2007年 Columbia Law School(LL.M.)修了
2009年 三宅法律事務所入所
<役職>
成蹊大学法科大学院 非常勤講師(金融商品取引法担当)
JALCOホールディングス株式会社 第三者委員会 委員長(2014.3~5)
株式会社王将フードサービス 社外取締役(2014.6~)
日特建設株式会社 社外取締役(2016.6~)

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