企業の成長を応援する情報メディア りそなCollaborare

Copyright (c) Resona Bank, Limited All Rights Reserved.

事業のルールを守る

債務不履行に基づく損害賠償請求~民法改正と契約書の見直し(2)

日本情報マート

2018.03.12

 1896年に現行民法が制定されて以来の大改正となる民法。この改正で契約書をどのように見直す必要が出てくるのでしょうか。第2回においては、民法改正のうち債務不履行に基づく損害賠償請求について解説いたします。

 なお、本稿の内容は、筆者の個人的な見解に基づくものであることをあらかじめご理解ください。

1 債務不履行に基づく損害賠償とは?

 「債務不履行に基づく損害賠償」とは、何らかの契約(売買契約や賃貸借契約など)があり、この契約に基づく約束(債務)を履行しなかったという場合に生じる損害賠償です。契約責任や契約不履行と呼ぶこともあります。

 これに対して、特に契約などがない関係において、違法性のある行為自体によって生じるのが「不法行為に基づく損害賠償」です。

 債務不履行には、履行遅滞(履行が可能であるのに履行期を徒過した場合)、履行不能(契約時は履行可能であったが、その後に履行が不可能になった場合)、不完全履行(履行はあったものの、給付が不完全な場合)の3類型があります。

 債務不履行に基づく損害賠償については、民法第415条において定められています。

 なお、債務不履行にかかる帰責事由(債務者の責めに帰する事由)が債務者にないことの立証責任は債務者が負います。

2 改正内容(1):債務不履行に基づく損害賠償(改正法第415条)

 大きな改正点は、上記1で説明をした債務者の帰責事由(債務者の責めに帰する事由)の有無について、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されることとされた点です(改正法第415条第1項)。

 現行法では帰責事由について「故意・過失または信義則上これと同視すべき事由」により判断されることとされています。これは「過失責任主義」とも呼ばれます。

 これが改正により、契約の内容のみならず、契約の性質、当事者が契約をした目的、契約の締結に至る経緯をはじめとする契約をめぐる一切の事情を考慮し、また、取引上の社会通念も考慮して、帰責事由の有無が判断されることになります。すなわち、従来の過失責任主義ではなくなります。シリーズ第1回「民法改正により契約書の記載内容が重要になる~民法改正と契約書の見直し(1)」で説明した通り、契約書の内容が重要となりますが、第1回においても解説した通り「契約書の内容」だけではなく、「取引上の社会通念」も同様に重視されるので、これまでの過失責任主義における帰責事由の判断から大きくは変わらないでしょう。

(注:法務省は「改正法案は……従来の通説的見解からは過失責任主義の表れとされている債務者の帰責事由という要件をそのまま維持している」「改正法案は従来の通説的な考え方やこれに基づく実務運用などを否定するものではない」との見解です。出所:2017年5月9日参議院法務委員会会議録)

3 改正内容(2):法定利率(改正法第404条)

 もう一つの大きな改正点は、法定利率の変更です。

 現在の法定利率は、年5%の固定金利ですが、低金利時代において高過ぎるとの意見が多くありました。

 改正により、年5%の固定金利の法定利率は廃止され、改正法施行当初の法定利率は年3%となりますが、3年を1期として、変動するように定められました。変動方法の詳細については、今後、法務省令で決定されますが、日銀公表「貸出約定平均金利」の過去5年分の平均値を基準として1%以上の増減が発生した場合には、法定利率もそれに応じて1%単位で増減する仕組みが導入されます。

 また、商事法定利率(年6%)は廃止され、民法の法定利率に統合されます。

 なお、金銭の給付を目的とする債務不履行の損害賠償額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率によることとされました(約定利率を定め法定利率を超える場合を除く)(改正法第419条)。

 ただし、改正法の施行日前に利息が生じた場合におけるその利息を生ずべき債権に係る法定利率は、従前の法定利率(年5%)によることになります。

4 その他の改正

 損害賠償の範囲(改正法第416条)の特別損害(通常生ずべき損害ではなく特別の事情によって生じた損害)については、「予見し、又は予見することができた」が「予見すべきであった」に改められました。当事者が現実に予見することが可能であったか否かではなく、債務者が予見すべきであったか否かという規範的な評価を問題とすることとされました。実務上の影響はあまりないと考えられます。

 過失相殺(改正法第418条)に関しては、「債務の不履行に関して債権者に過失があったとき」が「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったとき」と改められました。これは、従来の判例で認められている損害軽減義務的な要素を明確化したものです。実務上の影響はあまりないと考えられます。

 また、将来において取得すべき利益(例:交通事故で死亡した者に係る逸失利益)についての損害賠償の額を定める場合、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、控除することになりました(改正法第417条の2、中間利息の控除)。これも判例法理の明確化であり、実務上の影響はありません。

5 規定の見直し

 シリーズ第1回「民法改正により契約書の記載内容が重要になる~民法改正と契約書の見直し(1)」でも解説した通り、転売利益や主観的な損害については、契約書において契約の目的を明確にしたほうが損害賠償請求をしやすくなります。これは、前述した通り、改正により、帰責事由が過失責任主義ではなく、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されることになったことによります。

 帰責事由について、「故意若しくは過失又は信義則上のこれに同視すべき事由」と規定している場合には、以下の通り、「当該債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由」と改めるべきでしょう。

(改正前) 本契約における義務の履行に関して、相手方に損害が発生した場合には、相手方に対して損害賠償責任を負う。ただし、当該当事者に故意若しくは過失又は信義則上のこれに同視すべき事由がない場合はこの限りでない。

(改正後) 本契約における義務の履行に関して、相手方に損害が発生した場合には、相手方に対して損害賠償責任を負う。ただし、当該債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときはこの限りでない。

 損害賠償の範囲については、今回の改正において大きな影響はありませんが、損害額やリスク分担の明確化の観点からは、以下の通り、損害賠償額に上限を設けたり、具体的な損害項目を列挙したりすることが考えられます。

【損害賠償額に上限を設ける規定例】 当事者の義務違反により損害が生じた場合、相手方は1,000万円を上限として損害を賠償するものとする。

【具体的な損害項目を列挙する規定例】 当事者の義務違反により損害が生じた場合、相手方は相当因果関係の範囲内の損害を賠償するものとする。この損害の範囲には裁判費用及び弁護士費用を含むものとする。

 次回は、「契約の解除」および「危険負担」について解説いたします。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年3月12日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】 inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト http://www.jim.jp/company/をご覧ください)

執筆:弁護士 渡邉雅之
<経歴>
1995年 東京大学法学部卒業
1997年 司法試験合格
2000年 総理府退職
2001年 司法修習修了(54期)、弁護士登録(第二東京弁護士会)
2007年 Columbia Law School(LL.M.)修了
2009年 三宅法律事務所入所
<役職>
成蹊大学法科大学院 非常勤講師(金融商品取引法担当)
JALCOホールディングス株式会社 第三者委員会 委員長(2014.3~5)
株式会社王将フードサービス 社外取締役(2014.6~)
日特建設株式会社 社外取締役(2016.6~)

RECOMMENDATION

オススメの記事