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契約の解除・危険負担~民法改正と契約書の見直し(3)

日本情報マート

2018.06.29

 1896年に現行民法が制定されて以来の大改正となる民法。この改正で契約書をどのように見直す必要が出てくるのでしょうか。シリーズ第3回においては、民法改正のうち「契約の解除」と「危険負担」について解説いたします。

 なお、本稿の内容は、筆者の個人的な見解に基づくものであることをあらかじめご理解ください。

1 契約の解除

1)契約の解除の意義

 「契約の解除」とは、契約の相手方に「債務不履行」がある場合、すなわち、1.契約の履行を期限までにしない場合(履行遅滞)、2. 契約の履行の全部または一部が不能となった場合(履行不能)、3.契約の履行はしたがそれが不完全な場合(不完全履行)などに、相手方に対する意思表示により契約関係を解消する制度です。

 相当の期間を定めて催告をした上で解除をする「催告解除」と、催告なしに解除をする「無催告解除」とがあります。

2)改正内容(1):帰責事由が不要に(解除制度の考え方の転換)

 現行民法において、債務不履行による契約解除は、「債務者に対して債務不履行の責任を追及するための制度」と考えられているため、債務者(契約の相手方)の帰責事由(故意・過失または信義則上これと同視すべき事由)があることが要件となっています。

 すなわち、相手方の故意や過失なしに、すなわち、不可抗力などで履行遅滞や履行不能となった場合には、契約の解除はできません。

 民法改正により、債務不履行による契約解除は、『債権者に対して契約の拘束力から解放を認めるための制度』であると位置付けられます。これにより、債務不履行について債務者に帰責事由がない場合でも催告解除や無催告解除が可能になります。ただし、当然のことですが、債権者側に帰責事由がある場合には、債権者による契約解除はできません。

3)改正内容(2):催告解除において軽微解除ができないことに

 催告解除においては、契約の当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができます。

 なお、民法改正により、履行遅滞の場合であっても、「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は契約の解除ができなくなります。これは、裁判例において認められていた考え方を明確化したものです。

4)改正内容(3):無催告解除は契約目的が達成できないことが必要に

 無催告解除とは、債権者(契約の当事者)が、相手方に催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる場合です。

 無催告解除ができるのは、以下のような場合です。

  • 全部履行不能(債務の全部の履行が不能であるとき)、
  • 確定的履行拒絶(債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき)、
  • 一部履行不能(債務の一部の履行が不能であるとき)・確定的一部履行拒絶(債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき)の場合で残部では契約目的が達成できない場合、
  • 定期行為(特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合)の債務不履行、
  • その他債務者がその債務の履行をせず、債権者が催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかである場合

 一部履行不能・確定的一部履行拒絶の場合は、契約の一部を無催告解除できます。いずれも、「契約目的が達成できるか否か」が判断基準となります。

5)催告解除と無催告解除の関係

 民法改正により、催告解除は、「不履行が軽微か否か」が基準となるのに対して、無催告解除は、「契約目的が達成できるか否か」が基準となります。

 図表1の通り催告解除はできる(不履行は軽微ではない)が、無催告解除はできない(契約目的は達成できる)という場合があることにご留意ください。

催告解除と無催告解除の位置づけについて、「催告解除はできる(不履行は軽微ではない)が、無催告解除はできない(契約目的は達成できる)という場合」があることを紹介した画像です。

6)規定例

 契約の解除に関する規定は、以下の通り、無催告解除について規定している場合が多くなります。民法改正後も、下記のような場合には、「契約目的が達成できない」と考えられるので、契約条項の変更は特に必要ないでしょう。

(契約解除等)第〇条
 本契約の規定にかかわらず、下記各号のいずれかの事態が発生した場合、甲又は乙は本契約の全部又は一部を直ちに解除できるものとする。また、この解除の如何にかかわらず、相手方は甲又は乙に生じた損害を賠償するものとする。

(1)相手方の営業又は業態が公序良俗に反すると甲が判断した場合 (2)相手方が監督官庁から営業の取消又は停止処分を受けた場合 (3)相手方が自ら振出し若しくは引受けた手形又は小切手につき不渡処分を受ける等支払停止状態に至った場合 (4)相手方が差押、仮差押、仮処分、租税滞納処分を受け、又は民事再生手続の開始、会社更生手続の開始、破産その他これに類似する倒産手続の開始、若しくは競売を申立てられ、又は民事再生手続の開始、会社更生手続の開始若しくは破産その他これに類似する倒産手続の申立を自らした場合 (5)その他相手方の経営状態が悪化し又はそのおそれがあると認められる相当の事由がある場合 (6)相手方(相手方の社員・従業員を含む。以下本号、次号において同じ。)が、暴力団員等に該当した場合、又は次の1から5のいずれかに該当した場合

  • 暴力団員等が経営を支配していると認められる関係を有すること
  • 暴力団員等が経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること
  • 自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的又は第三者に損害を加える目的をもってするなど、不当に暴力団員等を利用していると認められる関係を有すること
  • 暴力団員等に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有すること
  • 役員又は経営に実質的に関与している者が暴力団員等と社会的に非難されるべき関係を有すること

(7)相手方が、自ら又は第三者を利用して、次の1から5のいずれかに該当する行為をした場合

  • 暴力的な要求行為
  • 法的な責任を超えた不当な要求行為
  • 取引に関して、脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為
  • 風説を流布し、偽計を用い又は威力を用いて甲の信用を毀損し、又は甲の業務を妨害する行為
  • その他1から4に準ずる行為

(8)相手方が本契約に違反し、合理的な期間内に是正しない場合

2 危険負担

1)危険負担の意義

 「危険負担」とは、双務契約において、債務者の帰責事由なしに契約が履行不能となった場合に、反対債務が存続するか否かを定める制度です。債務者の帰責事由なしに履行不能となった場合には、反対債務は存続する(債権者が危険を負担する)という考え方を「債権者主義」といいます。これに対して、反対債務は消滅するという考え方を「債務者主義」といいます。

 例えば、歌手Xが興行企画会社Y社との間で、同社の手配したAホールでコンサートに出演し、歌を歌うという役務を提供する契約を締結したところ、同ホールがY社と無関係の事由により火事で滅失してしまった場合に、Y社は歌手Xに対して役務提供の対価となる出演料を支払う必要があるかという問題です。

 この場合に、「歌手XのY社に対するAホールにおいて歌を歌う役務提供債務」が滅失することに伴い、「Y社の歌手Xに対する出演料支払債務」も滅失し、Y社は歌手Xに対して出演料を支払わなくてもよいとの考え方が「債務者主義」です。一方、この場合であっても、Y社は歌手Xに対して出演料を支払わなければならないという考え方が「債権者主義」です。

 一方の債務が帰責事由なしに消滅した場合に、反対債務も消滅するという「債務者主義」のほうが当事者間の公平に資する考え方といえます。

歌手Xが興業企画会社Y社との間で、同社の手配したAホールでコンサートに出演し、歌を歌うという役務を提供する契約を締結したところ、同ホールがY社と無関係の事由により火事で滅失してしまった場合の債務者主義と債権者主義の考え方を紹介した画像です。

2)改正内容(1):特定物の給付についての債権者主義の廃止

 現行民法においても、危険負担の考え方は当事者間の公平の観点から「債務者主義」が基本ですが、「特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合」には「債権者主義」が取られています。

 「特定物」とは「具体的な取引に際して、当事者がその物の個性に着目して指定した物」のことです。そうでない物のことを「不特定物」といいます。

 例えば、「Aさんの倉庫にある残り10キログラムのコシヒカリ」は特定物ですが、「コシヒカリ10キログラム」は不特定物です。BさんがAさんとの間で、「Aさんの倉庫にある残り10キログラムのコシヒカリ」を買う契約をした場合であって、同倉庫がAさんの帰責事由なしに失火により滅失し、同倉庫内の「コシヒカリ10キログラム」も滅失した場合に、現行民法では債権者主義が適用され、Bさんが依然として代金を支払わなければならないことになりますが、これは明らかに当事者間の公平に反すると考えられます。

 改正民法では、債権者主義が廃止され「債務者主義」に統一されます。すなわち、上記の例においてBさんは代金を支払う必要はなくなります。

Bさんが、「Aさんの倉庫にある残り10キログラムのコシヒカリ」を買う契約をした場合であって、同倉庫がAさんの帰責事由なしに失火により滅失し、同倉庫内の「コシヒカリ10キログラム」も滅失してしまった場合の債務者主義と債権者主義の考え方を紹介した画像です。

3)改正内容(2):解除制度との調整

 前述の「帰責事由が不要に(解除制度の考え方の転換)」で説明した通り、民法改正により、債務不履行による契約の解除のために、債務者の帰責事由は不要となります。この結果、「契約の解除」と「危険負担」が同じ場面で適用されることになります。

 改正民法においては、当事者の帰責事由なく債務が履行不能となった場合、契約関係は当然に消滅するのではなく、債権者は反対債務の履行を拒むことができるだけとなります。その上で、契約関係を解消したい場合は、債権者が契約の解除の意思表示をすることが必要となります。

 すなわち、前述したY社と歌手Xの例では、Y社は歌手Xからの出演料の請求を拒むことができますが、出演契約は当然には消滅しないので、出演契約を解消するためには契約解除の意思表示をしなければなりません。

 またAさんとBさんの例においても、BさんはAさんからの代金請求を拒むことができますが、売買契約は当然には消滅しないので、売買契約を解消するためには契約解除の意思表示をする必要があります。

債務者の帰責事由の有無による違いを、改正民法と現行民法で比較した画像です。

4)契約書の規定の工夫

 現行民法において、特定物の給付の危険負担は債権者主義となっていますが、当事者間の公平に反するので、実務上、売買契約書においては、下記のように目的物の引渡しなどで物権が移転した時点をもって債権者に危険移転する規定とし、債権者主義を制限的に適用する場合が多くなります。

(危険負担)第〇条
 甲又は乙の責めに帰すべき事由以外の事由による本件商品の滅失、毀損その他の損害は、納品のときをもって区分し、納品のときまでは甲の、納品以後については乙の負担とする。

 民法改正により、特定物の給付も債務者主義となりますが、目的物が相手方に給付された後は債権者主義となることについて当事者間の公平の観点から異論はないでしょう。 また、解除制度との調整を図るため、規定上は下記の通り変更することが考えられます。

(危険負担)第〇条
 甲又は乙の責めに帰すべき事由以外の事由による本件商品の滅失、毀損その他の損害は、納品のときをもって区分し、納品のときまで乙は甲に対する代金の支払いを拒むことができる。

 次回は、「定型約款」について解説いたします。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年6月29日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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執筆:弁護士 渡邉雅之
<経歴>
1995年 東京大学法学部卒業
1997年 司法試験合格
2000年 総理府退職
2001年 司法修習修了(54期)、弁護士登録(第二東京弁護士会)
2007年 Columbia Law School(LL.M.)修了
2009年 三宅法律事務所入所
<役職>
成蹊大学法科大学院 非常勤講師(金融商品取引法担当)
JALCOホールディングス株式会社 第三者委員会 委員長(2014.3~5)
株式会社王将フードサービス 社外取締役(2014.6~)
日特建設株式会社 社外取締役(2016.6~)

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