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【2019年8月改訂】契約の解除と危険負担~民法改正と契約書の見直し(3)

日本情報マート

2019.08.05

 こんにちは、弁護士の村上嘉奈子と申します。シリーズ「民法改正と契約書の見直し」の第3回は、契約の解除と危険負担について扱います。

1 契約の解除に関する改正内容

 契約が約定通りに履行されない場合、契約の当事者(主に債権者)の立場からは、契約を解除して代金支払いなどの反対債務から解放されることが望まれます。

 このような契約解除(法定解除)の要件について、改正民法では現行民法と異なる定めが設けられることとなりました。

 以降では、主な改正点を大きく3つに分けて説明します。

1)法定の契約解除について債務者の帰責事由が不要に

 現行民法のもとでは、債務不履行が生じた場合の契約の解除は、これに関する損害賠償請求とセットで理解されており、債務者に帰責事由(故意または過失)がある場合にのみ可能というのが通説とされていましたが、改正民法においては、「解除」は当事者を契約に拘束することが不当である場合に、契約の拘束力から離脱させることを目的とした制度として新たに整理され、「債務者の帰責事由」が解除の要件から外れました。

 これにより、債務不履行の状態が生じた場合、債務者に帰責事由があるのはもちろんのこと、当事者のいずれにも責任がない場合にも、改正民法第541条または同第542条に基づき契約の解除が可能となります(なお、債権者に帰責事由がある場合には、改正民法第543条により法定解除ができないものとされますのでご留意ください)。

2)債務不履行が軽微であるときは契約解除できない旨が明文化

 また、改正民法においては、それまでの判例法理が改正民法第541条但書において明文化され、「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」に解除権が発生しないことが明らかにされました。

 これにより、債務不履行の部分が数量的に僅かである場合や付随的な債務の不履行にすぎない場合など、「軽微」であるときには、契約の解除(法定解除)ができないこととなります。

3)無催告解除ができる場合の整理

 さらに、改正民法は、事前の催告をすることなく直ちに契約を解除することができる場合を、次の通り整理しました。

【契約の無催告解除が可能な場合】

  • 債務の全部の履行が不能であるとき
  • 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
  • 債務の一部の履行不能等の場合で、残存する部分のみでは契約目的を達することができないとき
  • 特定の日時等に債務を履行しなければ、契約目的を達することができない場合で、債務者が履行せずに当該時期を経過したとき
  • その他債務者が債務の履行をせず、債権者が催告をしても契約目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき

【契約の一部の無催告解除が可能な場合】

  • 債務の一部の履行が不能であるとき
  • 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき

 なお、次の記事では契約書で解除条項を定める際のポイントや、契約解除の流れとトラブル時の対応などについて解説していますので、ご確認ください。

2 危険負担に関する改正内容

1)危険負担とは

 例えば、売主Aと買主Bが、Aの所有する自動車を500万円でBに売る約束をしていたところ、約束の引渡日の前に落雷があり当該自動車が大破してしまったとします。この場合、買主Bは売主Aに対して代金500万円を支払う義務を負うのでしょうか。

 このように契約当事者双方の責によらず、契約の目的物が滅失したり損傷したりしてしまった場合に、契約当事者のどちらがその負担をすべきか、というのが危険負担の問題です。

2)現行民法における危険負担の定め

 現行民法ではこのような場合、売買の目的物が「特定物」であるか「不特定物」であるかにより、結論が大きく異なりました。

 特定物とは当事者がその個性に着目した物、不特定物とは単に種類に着目し、個性を問わずに取引した物です。自動車を例とすれば、個別の車両ごとに状態が異なるクラシックカーは特定物にあたり、車両ごとに個性が認められない新車は一般に不特定物にあたると理解されます。

 現行民法においては、取引の対象とされた目的物が特定物の場合は、債権者Bにおいて危険を負担しなければならないこととされ、一方で目的物が不特定物の場合は、債務者Aにおいて負担するものとされていました。

 すなわち、先の例で現行民法に従うと、売買の目的物がクラシックカー(特定物)であった場合は、自動車が滅失しても買主Bは売主Aに対して代金500万円を支払わなければならず(債権者主義)、一方で売買の目的物が新車(不特定物)であった場合には、買主Bは代金支払義務を負わないという結論となりました。

3)改正民法における危険負担の定め

 上記の通り、現行民法においては、目的物が特定物であるか不特定物であるかによって危険負担の結論が相違し難解でしたが、改正民法においては、危険負担の定めが上記1でご説明した契約の解除に関する定めと併せて整理されて、大きく取り扱いが変化し、目的物が特定物であるか不特定物であるかによって結論に違いが生じなくなりました。

 すなわち、上記の通り改正民法においては、当事者双方の責めによらずに契約が履行不能となった場合、契約の解除(法定解除)が可能となります。

 これに加えて改正民法第536条1項は、当事者双方の責めに帰することができない事由によって、債務を履行することができなくなった場合に、債権者に反対給付の履行を拒む権利がある旨を定めました。

 よって、前述した例が改正民法で発生した場合においては、売買の目的物がクラシックカーであろうと新車であろうと、買主Bは売主Aに対して契約解除の意思表示をすることができますし、あるいは解除の意思表示を待つことなく、売主Aへの代金の支払いを拒絶することもできます。

 なお、債権者の反対給付の履行拒絶権は、反対給付に関する債務を消滅させるものではありませんので、買主Bが代金債務から解放されるためには、別途契約解除の意思表示を行う必要があることとなります。

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3 契約書の見直し

 これらの改正民法の規定を踏まえ、具体的に契約書のどのような点について見直しを検討すべきか見ていきましょう。

1)契約解除

 契約解除については、これまでも契約書に任意解除規定が定められる例が一般的であったものと解されます。

 前述した通り、債務不履行が軽微である場合に、法定解除が制限される旨が改正民法で明文化されたことなどをも踏まえると、引き続き任意解除規定を充実させて、解除事由や解除方法等について、後に争いが生じないよう明確に合意しておくことが有用と解されます。

 なお、任意解除規定が現行民法の法定解除を前提とした規定ぶりとされていた場合には、改正民法の法定解除よりも解除が制限される懸念もありますので、契約更新等のタイミングで点検を行うことが望ましいでしょう。

1.相手方の義務違反の場合の解約の定め

 相手方の義務違反の場合の解約の定めについて、現行民法下の法定解除を前提に、次に紹介するような例が法改正後もこのまま残存した場合には、改正民法の法定解除よりも債権者にとって不利な条項となってしまう懸念があります。

「本契約の当事者が、故意または過失により本契約の定めに違反した場合には、相手方当事者は違反当事者に対して書面により通知した上、本契約を直ちに解除することができる」

 改正民法の規定を踏まえた上で、当事者間の共通認識に沿った定めとされているか、留意して点検していただくことをお勧めします。

 さらに、当事者双方の合意により、改正民法に基づく法定解除の場合よりも解除の範囲を拡張し、契約の相手方の義務違反が生じた場合に、当該債務不履行の程度を問わずに契約を解除することを可能とする場合には、次に紹介するような任意解除規定を置くなどして、その旨を明確に定めておくことが想定されます。

「本契約の当事者が、本契約の定めの一にでも違反した場合には、相手方当事者は違反当事者に対して書面により通知した上、本契約を直ちに解除することができる」

2.倒産解除条項・反社会的勢力排除条項等

 現行民法下において契約書に定められることの多かった、いわゆる倒産解除条項(契約当事者に破産、民事再生等の申立てをはじめとした信用不安などの事態が生じた場合の契約解除条項)および反社会的勢力排除条項(契約当事者がいわゆる反社会的勢力に該当する場合の契約解除条項)等の任意解除規定は、改正民法においても、契約を解除できる範囲を拡張するものにあたりますので、当事者間の合意に基づき遺漏なく定めることが有益です。

2)危険負担

 前述した通り、改正民法における危険負担の定めは、契約解除に関する定めと併せて理解される必要があり、当事者の責によらず取引上の債務が履行不能となった場合には、債権者による反対給付の履行拒絶および契約解除がいずれも可能とされます。

 上記の改正の経緯からすれば、特に特定物の売買等における危険負担の制度が大きく変更されることとなり、特定物の売買を業とする事業者は、改正民法により大きな影響を受ける可能性があることに留意が必要です。

 もし従前通り、危険負担につき債権者主義として契約を締結したい場合には、その旨の危険負担の原則を契約において明確に定めるとともに、改正民法における買主の解除権をも併せて排除するために、契約解除が可能な場合を、当事者に故意・過失があったときのみに限る旨を併せて明確に合意するなどして、法定解除よりも狭い範囲に解除権を制限する必要が生じるものと解されます。

 また、契約の履行が段階的に行われる事例などにおいて、一定の債務(例えば目的物の納品等)の履行が完了した時点で、危険負担につき債権者主義を採用することが望まれる場合(例えば目的物の納品後は債権者において危険を負担し、代金支払い義務を免れない旨の合意が予定される場合)にも、危険負担の時期および効果を明確に定めるとともに、解除権の定めについても適切な定めを置いて整合性を保つことに配慮する必要があるでしょう。

 次回は、定型約款の定義と契約上の影響について解説いたします。

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民法改正と契約書の見直し

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年8月5日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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執筆:のぞみ総合法律事務所 弁護士 村上嘉奈子
2000年京都大学法学部卒業。2000年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2011年認定コンプライアンス・オフィサー資格取得。企業の危機管理、内部通報システム構築・運営対応、個人情報等の情報管理体制構築運営サポート、労務管理を手掛けるとともに、知的財産権・エンターテインメント関連法務(パブリシティー権、著作権、商標権、営業秘密・ノウハウ保護)、名誉毀損・プライバシー侵害案件に関する各種相談および法的手続き、消費者関連法などを取り扱う。

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