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海外ビジネスと法的トラブル(準拠法・紛争解決)/スタートアップのための法務(6)

日本情報マート

2018.11.01

 こんにちは、弁護士の緑川芳江と申します。シリーズ「スタートアップのための法務」第6回は、海外ビジネスを展開する上で避けては通れない法的トラブルへの備えについて扱います。

 スタートアップの中には、創業後のプランとして海外ビジネスの展開を予定しているところも多いでしょう。海外ビジネスを進める上で、欠かせないのは適切な契約書です。JV設立であったり、ライセンス取得であったりと、取引の種類は様々ですが、商慣習や法文化の違いを超えて取引を行う海外ビジネスでは、詳細な契約書を締結するのが一般的です。

1 ある日突然訴状が届く? 海外ビジネスの現場

 日ごろ、いろいろな国の企業にアドバイスをしていると、法的な紛争への対応もお国柄があることが分かってきます。日本企業同士の場合、法的な紛争が生じても長期間にわたって当事者間でじっくり協議するのが通常で、裁判所に行くのはあくまで最後の手段だということが多いのではないでしょうか。

 しかし、海外の企業は必ずしもそうではありません。極端な例としては、「和解交渉を有利に進める目的で、まずは裁判を起こしてしまう」ということもあり、ある日突然訴状が届くという事態も起こり得ます。

2 ビジネス紛争に備えて契約書では何を決めておくべきか?

 ビジネスパートナーと見解の相違が生じたり、相手方が支払いを遅延したりというように、法的な紛争が生じたとしましょう。そのような場合に頼りになるのが契約書です。

 海外ビジネスでの紛争に備えて、必ず契約書で規定しておくべきなのは、「準拠法」(governing law)「紛争解決」(dispute resolution)の条項です。内容が適切であれば、迅速かつ適切な紛争解決が期待できます。

 このことは貴重なリソースを次のビジネスチャンスに割くことができるか否かという、長期的な企業運営にも影響します。海外ビジネスで交渉を担当する人は、「準拠法」「紛争解決」の条項にも十分注意するようにしましょう。

 また、特に経営陣が認識しておきたいのは、法的な紛争解決も立派なビジネスの一部であるということです。そして、企業として、法務部門・管理部門をサポートする態勢を整えることが重要です。紛争解決の対応には、担当部署に相当な負荷がかかります。証拠を集めたり、関係者から事実関係を聞き取ったりするだけでなく、国際的なビジネス紛争の場合、海外の弁護士とのやりとりも発生するからです。

 米国企業などでは、法務部門のトップが経営陣に加わっていることが一般的ですし、紛争解決に必要なリソースを配分し、迅速な意思決定ができる環境になっています。経産省の報告書(「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」2018年4月公表)でも指摘されているように、国際的な活躍を目指す日本企業も、そのような姿勢が求められてきているのではないでしょうか。

3 準拠法条項

 さて、海外ビジネスでの紛争に備えて重要となる契約書の規定の1つ目が「準拠法」です。準拠法とは、契約を解釈する場合に基準となる法律です。例えば、日本法を準拠法とした場合、契約書に書いていない事項があれば、民法など日本の法律に従って判断されることになります。

 では、準拠法を規定しておかないと、どのような問題が起こるのでしょうか。

 裁判になった場合を考えると、「どこの国の法律に従って裁くか」という点が、裁判における大きな争点になってしまいます。その結果、「契約違反があったかどうか」「損害はいくらか」という本題の審理に入るまでに、多くの時間を要することになります。国によっては、裁判手続きに10年かかるということもあります。そのような国で、裁判手続きがさらに長引いてしまうような事態は避けなくてはなりません。

 海外ビジネスの場合、準拠法として英米法が選ばれることが多いですが、もし日本法で合意できるのであれば、そのようにしたほうが慣れ親しんだ法律に沿ってビジネスができ、紛争になった場合の帰趨(きすう)も予測しやすいというメリットがあります。

4 紛争解決条項:裁判か仲裁か

 海外ビジネスでの紛争に備えて重要となる契約書の規定の2つ目が「紛争解決」です。紛争が起こった場合に、どのような手続きを取るかについてあらかじめ決めておくものです。

 これも極端な例ですが、ひな型のままの内容で契約を締結して、紛争が起こった場合を考えてみましょう。自社のひな型には、「A国の裁判所で紛争を解決する」という条項と、「B国における仲裁で紛争を解決する」という条項が規定されていたとします。紛争解決条項として、契約を結ぶ前に、裁判か仲裁かのどちらかを選ばなくてはならないのに、十分な検討がなされず両方が規定されたまま契約が締結されてしまったという例もあります。そうなると、裁判と仲裁のどちらで紛争を解決すべきかを決めるために、何年もかかって裁判をしなくてはならないという事態に陥りかねません。

 では、契約書ではどのように規定しておくべきなのでしょうか。

 海外ビジネスの場合は、裁判よりも仲裁を選ぶほうが多いです。仲裁とは、当事者の合意により、中立の第三者である仲裁人に判断を委ねる紛争解決方法です。仲裁では、判決の代わりに「仲裁判断」が下されます。

 裁判よりも仲裁が選ばれるのには、国際条約が関わっています。仲裁については、150カ国以上の国が加盟している条約(ニューヨーク条約)で、外国で取得した仲裁判断を各国の裁判所で執行(相手方の財産を差し押さえて強制的に換金する方法)できる仕組みが整っています。

 他方、裁判については、そのように多くの国が参加している国際条約はまだありません。外国の裁判所が下した判決を他の国の裁判所が執行するかどうかは、個別の判断となります。例えば、中国の裁判所が下した判決は日本の裁判所では執行できないと判断されているので、中国企業との契約で、裁判を選択するのは好ましくありません。

5 ビジネス紛争と費用

 最後に、国際的なビジネス紛争と費用について触れておきます。一般的に、国際的な裁判や仲裁には多額の費用がかかります。しかし、費用がかかるので権利行使を諦めるというのでは、契約を結んだ意味が乏しくなってしまいます。

 重要なのは、(1)「勝てる権利」なのかどうかの見極めと、(2)効率的な費用管理です。

 (1)「勝てる権利」であるかどうかは、裁判や仲裁など正式な紛争解決手続きに入る前に、弁護士に自社の法的立場がどの程度強いのか分析をしてもらう(「メリットレビュー」ともいいます)ことにより見極めることができます。メリットレビューの結果、勝ち目がある、と判断された場合に限って裁判や仲裁に踏み切ればよいのです。

 (2)効率的な費用管理をするには、紛争解決方法や弁護士の選び方も重要です。外部資金の活用も検討に値します。中でも最近注目が高まっている紛争解決費用の調達方法として、サードパーティーファンディング(Third Party Funding; TPF)があります。

 TPFとは、専門ファンドに紛争解決に必要な費用を立て替えてもらい、裁判や仲裁で勝った場合には、獲得した賠償金の一部を成功報酬として専門ファンドに支払うというものです。国際的な裁判や仲裁では、TPFの利用が活発化していますので、紛争が発生したときには、メリットレビューに加えてTPFの活用を検討するのもよいかもしれません。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年10月31日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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執筆:弁護士 緑川芳江
日本企業の海外進出支援から国際的紛争解決まで、国際ビジネスに関する法務を手掛ける。日本およびシンガポールの大手法律事務所での勤務経験を基に、国際的な実務に即したアドバイスを提供している。国際取引や国際紛争分野の執筆・講演多数。
東京大学法学部卒業・同法科大学院修了、コロンビア大学ロースクール(LL.M.)修了。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)、2015年ニューヨーク州弁護士登録。日本仲裁人協会会員、英国仲裁人協会会員(MCIArb)。

国際法務分野の著書等
『よくわかる投資協定と仲裁』(商事法務、2018年(共著))
『ビジネス法体系 ビジネス法概論』((「国際的取引に関する法」担当)第一法規、2018年(共著))
「国際仲裁の世界的動向と活用術」(ザ・ローヤーズ、2016年)
「アジアに進出を始めたThird Party Funding – 訴訟・仲裁費用を投資でカバーする時代」(国際商事法務、2015年)
「仲裁における守秘義務 – 黙示の守秘義務をめぐる海外の判例からの示唆」(国際商事法務、2015年)

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