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【2019年11月弁護士再監修】売買契約(瑕疵担保責任から契約不適合責任へ)~民法改正と契約書の見直し(7)

日本情報マート

2019.11.08

 こんにちは、弁護士の佐藤文行と申します。シリーズ「民法改正と契約書の見直し」の第7回は、売買契約、その中でも特に、今回の民法改正で大きく法律の考え方が変わった担保責任を中心に扱います。

1 担保責任とは

 例えば、A社がB社から従業員用にスマートフォン50台を購入したものの、実際に納品されたスマートフォンの数が45台しかなかったり、納品されたスマートフォンのタッチパネルの感度が悪かったりした場合、A社はB社に対してどのような請求が可能なのでしょうか。

 このように、物の売買などにおいて、その物に欠陥(数量不足を含みます)があった場合に、売主が負う責任のことを担保責任といいます。改正民法では、この担保責任について、以下にご説明するように、「契約不適合責任」として整理をしています。

 なお、改正民法では、担保責任が認められる場合には、通常の債務不履行に基づく損害賠償請求や契約の解除も可能ですので、買主としては、これらの中から最も自分にとって望ましい対応手段を選択することになります(詳細については本シリーズ第2回「債務不履行に基づく損害賠償請求」および第3回「契約の解除と危険負担」をご参照ください)。

2 担保責任の改正内容

1)瑕疵から契約不適合へ

 現行民法では、「売買の目的物に隠れた瑕疵(かし)があったとき」に、売主の担保責任が認められていました。

 しかし、「瑕疵」という言葉の意味は分かりにくいですし、客観的にキズがあれば、常に売主は担保責任を負うとの誤解を招きかねません。そこで、改正民法では、売買の目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない場合」に、売主の担保責任を認めることとしました(契約不適合責任)。

 「契約の内容に適合」するか否かとは、要するに、売主と買主とが契約で合意した品質や数量の品物が実際に引き渡されているかどうか、ということです。従って、先の例では、スマートフォンの台数不足が契約不適合となることは明らかです。タッチパネルの感度不足については、もっと感度の良いタッチパネルを使用したスマートフォンを納品することが契約で合意されていたのであれば、契約不適合となります。

2)契約不適合の場合の買主の対抗手段

 それでは、売買の目的物に契約不適合があった場合に、買主は、担保責任の追及としてどのような対抗手段をとることができるのでしょうか。

1.買主の追完請求権

 この点について、改正民法では、まず、買主が売主に対して、一定の場合を除き、その物の修補や代替物の引渡し等を請求できることが明文化されました(追完請求権)。先の例では、A社は、スマートフォンの修理や交換、不足分の追納を求めることができます。

 この追完請求権は、追完の方法が複数ある場合には、買主の希望する方法によることを原則としていますが、買主に不相当な負担を課すものでないときは、売主がその方法を選択できることとされています。ただし、契約不適合が買主の責任である場合には、追完を求めることはできません

2.買主の代金減額請求権

 また、買主が追完を求めても売主が追完をしない場合や、そもそも追完が不能である場合には、買主は、売買代金の減額を請求できることも改正民法で新たに規定されました(代金減額請求権)。先の例では、A社はB社に対して、スマートフォンの代金の減額を求めることができます。もっとも、納品された台数が不足する場合であれば、不足分のスマートフォンの代金相当額を減額するのが通常でしょうが、タッチパネルの感度不足の場合にいくら減額するのが妥当なのかは、なかなか難しい問題です。

 なお、契約不適合が買主の責任である場合に代金減額を求めることができないのは、追完請求権と同様です。

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3 契約書の見直し

 次に、これらの改正民法の規定を踏まえて、具体的に売買契約書のどのような点について見直しを検討すべきか見ていきましょう。

1)売買の目的物の品質等の特定の程度

 先に述べた通り、「契約の内容に適合」するか否かとは、売主と買主とが契約で合意した品質や数量の品物が実際に引き渡されているかどうか、ということです。従って、今後は、これまで以上に、当事者の合意内容を記載した書面である契約書にて品物の品質や仕様などを具体的に定めておくことが、契約不適合の有無に関する紛争を防ぐために重要となります(ただし、実際には、合意内容は、契約書の文言だけではなく、契約の目的や契約締結の経緯、取引通念なども考慮されます)。具体的には、仕様書を契約書別紙として添付しておくなどの対応が考えられるでしょう。

2)追完請求権について

 改正民法では、追完の方法について、一定の場合に売主がその方法を選択できることとされています。しかし、買主としては、修補で対応してもらうのではなく、あくまで同等の品質の新品をあらためて納品してもらいたい場合もあるでしょう。

 このような場合には、買主の立場からは、以下のように、売主の方法選択権を排除しておくことが考えられます(なお、改正民法の担保責任に関する規定は、当事者の合意によって排除・変更することが可能であると考えられます)。

本件動産が種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、本件動産の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができるものとする。この場合、売主は、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることはできないものとする。

 他方で、売主の立場からは、新品を確保して納品するよりも修補により対応したほうがコスト的に優れているということもあると思いますが、法律の規定では、買主から新品の納品を求められれば、原則としてこれに応じなければなりません。そこで、以下のように、買主の追完請求権を制限しておくことが考えられます。

本件動産が種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、修補又は不足分の引渡しによってのみ履行の追完を請求することができるものとする。

3)代金減額請求権について

 買主が代金減額請求権を行使するためには、まず売主に対して追完を求めることが必要となります。しかし、売主側の修補や代替物の確保に長時間を要することが見込まれる場合など、買主が直ちに代金減額により解決を図りたいケースもあるかもしれません。

 このような場合には、買主としては、以下のように、催告を要せずして代金減額請求をなし得るようにしておくことが考えられます。

~(略)~。この場合、買主は、売主に対し、履行の追完の催告をすることなく、直ちに、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

 他方で、売主の立場からは、このような代金減額請求自体を排除しておくことが考えられますが、その場合であっても、通常の損害賠償請求を受ける可能性はありますので注意が必要です。

 次回は、消費貸借契約について解説いたします。

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民法改正と契約書の見直し

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年11月8日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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執筆: のぞみ総合法律事務所 弁護士 佐藤文行
早稲田大学法学部卒業・同法科大学院修了。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。訴訟等の紛争案件を中心とした企業法務を軸として、倒産・事業再生関連法務、債権回収・サービサー法務、エンターテインメント法務(商標権、著作権、ライブイベントビジネス等)、BCP策定を中心とした企業の危機管理支援等を手掛けている。

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