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【弁護士監修】契約書の基礎知識

日本情報マート

2019.05.22

 契約とは、一方の「申し込み」と、もう一方の「承諾」によって成立する法律行為です。こういう表現をすると難しい感じがするものの、公私ともに私たちの活動の大部分で契約が締結されています。

 例えば、ビジネスの場面においては、会社と取締役の間には委任契約が締結されていますし、他の会社との取引を検討する際は、事前に秘密保持契約を締結します。また、オフビジネスの場面においては、コンビニエンスストアで飲み物を買う際には売買契約が締結されています。

 このように契約は身近な存在ですが、印鑑の押し方、収入印紙の貼り方などのこまごました点をはじめ、契約を締結するのに必要な知識を十分に持っているという人は思いの外少ないはずです。

 この記事では、契約の締結の前段階で知っておきたい、そもそもなぜ契約書が必要なのかという点に加えて、強行規定と任意規定などの契約と法律の関係、契約書と覚書の違いなどの基礎知識について、弁護士が解説します。

1 なぜ、契約書を作成するのか?

 一部の例外はあるものの、原則として契約は口約束でも成立するため、「契約書」(書面やデータ)は必要ありません。そのため、日常的な取引やスピードが求められる取引においては、わざわざ契約書を作成しないことも多くあります。とはいえ、ビジネスでは口約束だけで契約を締結することはリスクが高くなるため、契約書を作成するのが通常です。

1)契約内容を明確にする

 人の記憶は曖昧なものです。そのため、口約束だけで契約を締結すると、後になって「あのとき、○○と言って約束したはずだ!」「いや、そんなことは言っていない!」などと、契約内容を巡ってトラブルになるリスクが高まります。

 しかし、契約書を作成しておけば、後になっても契約書の内容に基づいて判断することができるため、少なくとも、お互いが根拠のない状態で主張し合うことはなくなります。

2)トラブル発生時に自社を守る

 口約束だけで細かな条件を決めることは難しく、必要事項の漏れが生じます。「商品を納品する日時・数量・料金の支払日」といった基本的なところが漏れることはないでしょう。しかし、納品物について目的物が契約に適合しない不備があったとき、いつまでに、どのような不備の補正が求められるのかといった点については、曖昧になりがちです。

 受注側は仕事が欲しいので、「ちゃんと対応しますよ!」などと安請け合いしますが、目的物が契約に適合しない不備があると、場合によってはいつまでもその対応に追われて、適正な収益が得られなくなります。他方で、発注側も契約書に記載がないと、目的物に不備があった場合に取引相手にどのようなことが主張できるかが明確ではなく、想定外の不利益を被る恐れがあります。

 こうしたことがないように、契約書で目的物が契約に適合しない不備があるときの補正内容やその期間を定めておけば、自社を守ることができます。

3)裁判時の証拠書類になる

 残念ながら、ビジネスにはトラブルがつきものです。契約当事者間で協議して解決できればよいのですが、場合によっては裁判になることもあります。

 契約書は、裁判において有力な証拠書類になり、契約書で合意していた内容やその妥当性が争点となります。契約書に定めていれば何でも大丈夫というわけではないものの、自社の正当性を示す上で大変重要です。

4)契約内容を慎重に検討することができる

 口約束だけだとその場の雰囲気や会話に流されて、内容を慎重に検討しないまま契約を締結してしまうことがあります。

 一方、契約書を作成するということになれば、事前に何度も契約内容を確認します。その際、社内の法務担当者や実際の事業担当者、時には弁護士などの専門家も交えて、全ての条項についてその妥当性を検討することによって、自社にとって不利な条件で契約を締結するリスクは低減されます。

2 契約と法律の関係

1)「契約自由の原則」とは

 契約と法律の関係に関する重要な考え方に、「契約自由の原則」というものがあります。簡単に言うと、「契約に関する事項は、契約当事者が自由に決めることができ、国家はこれに干渉しない」というもので、次の4つの自由からなります。

  • 相手方選択の自由:契約を締結する相手方を決める自由
  • 内容の自由:契約内容を決める自由
  • 方式の自由:書面か口頭かなど、契約の方式を決める自由
  • 締結の自由:契約を締結するか否かを決める自由

 契約は「誰と」「どのような内容で」「どのような方式で」締結してもよく、また「契約を締結するか否か」についても自由に決められるということです。このような観点から、原則として、契約で決めたことが法律に優先することになります。

2)公序良俗に反するものはダメ

 契約自由の原則には一定の制約があります。代表的なものが「公序良俗」です。民法では、「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」と定められており、公序良俗に反する契約内容は無効となります。

 例えば、建物の賃貸借契約において、「物件が天災、火災、地変その他の災害によって使用できなくなったときには敷金を返還しない」というように、借主の責任ではなく、貸主の責任や不可抗力による場合に敷金を返還しないとすることは、公序良俗に反するとして、裁判で無効とされたケースがあります。

3)「強行規定」と「任意規定」

 契約自由の原則に対する制約として、「強行規定」があります。強行規定は、公序良俗を具体的に定めたものであり、契約当事者の意思にかかわらず適用される規定で、強行規定に反する契約内容は無効となります。

 強行規定に対して、「任意規定」というものもあります。任意規定は、契約当事者の意思が不明確であるときに、不明確な部分を補充するための規定です。もちろん契約当事者間の合意があれば、その合意が任意規定よりも優先されます。

4)契約と法律の関係を整理すると……

 ここまで説明した内容を整理すると、優先順位は「公序良俗・強行規定 > 契約 > 任意規定」となります。ただし、実際には「どれが強行規定で、どれが任意規定なのか」といった判断が難しいことがあります。そのようなときは、弁護士などの専門家に相談しましょう。

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3 書面のタイトルと法的効力

 契約内容を証明する書面のタイトルには、「契約書」「契約証書」「覚書」などさまざまなものがありますが、タイトルが違っても法的効力は同じです。ただし、一般的には次のように使い分けられていることが多いので、覚えておくとよいでしょう。

  • 契約書、契約証書:契約当事者双方が権利・義務関係を明確にして、両者が連名で調印する場合
  • 念書、誓約書:一方の契約当事者だけが自分の義務履行を承認して、相手方に差し入れる場合
  • 覚書、協定書:契約条項の解釈や前提事実を明確にするために、主たる契約に付随して作成する場合

4 契約を締結できる人・できない人

1)法人の場合は、「契約を締結できる人」を確認する

 法人と契約を締結するときは、契約書に署名(本人が自筆で自分の名前を記すこと)または記名(パソコンの印字など、署名以外の方法で自分の名前を記すこと)押印する人が、契約を締結する権限を有しているかどうかを確認することがポイントです。契約締結権限を有する主な人は次の通りです。

1.代表者

 法人の代表者は法人を代表する権限を有しているので、契約を締結することができます。株式会社の場合、代表取締役が代表者であるのが一般的です。

 もっとも、法人によって代表者の肩書はさまざまであり、肩書だけでは、法人の代表者を判断できない場合もあるため注意が必要です。法人の代表者は、登記事項証明書で確認することができます。

2.支配人

 支配人とは、会社から本店または支店の主任者として選任された商業使用人のことをいい、商法において、その営業に関して会社を代表して契約を締結する権限が与えられています。なお、ホテルやレストランなどの責任者を「支配人」と呼ぶことがありますが、商法上の支配人とは必ずしも同じではありません。

 逆に、支配人という名称で呼ばれていなくても、商法上の支配人である場合もあります。商法上の支配人は、登記事項証明書で確認することができます。

3.事業の責任者

 事業本部長、営業部長など、事業の責任者であることを示す肩書が付されている場合は、その事業に関して一切の裁判外の権限があるものと見なされるので(実際には契約を締結する権限がなく、相手方がそのことを知っていた、または知らないということにつき重大な過失がある場合は除かれます)、事業に関する事項の契約を締結することができます。事業本部長などが有している権限の範囲は、登記事項証明書などで確認することができないので注意が必要です。

2)個人の場合は、「契約を締結できない人」に注意する

 個人と契約を締結するときは、「契約を締結できない人」に注意する必要があります。代表的なのは未成年者です。未成年者が対象の場合は、親権者などその未成年者に代わって契約を締結できる人(法定代理人)などと契約を締結するか、法定代理人などの同意が必要です。

 そして、高齢者の増加に伴って問題となっているのが、認知症を患っている人との契約です。重度の認知症を患っている場合、その人に意思能力(法律上の判断ができる能力)がないと認められるときは、契約を締結しても無効となります。また、成年被後見人なども契約を締結する権限に制限があるため注意が必要です。

3)契約当事者の確認方法

 契約当事者を確認するには、登記事項証明書を取得するなど、費用や手間がかかります。そのため、契約内容やその重要性、契約当事者との信頼関係などを踏まえて、確認方法を決めるようにします。ここでは基本的な確認方法を紹介します。

1.法人と契約を締結するとき

 法人と契約を締結するときは、登記事項証明書を取得します。登記事項証明書では、代表取締役をはじめとした全取締役や監査役などの氏名、本店の所在地などの登記事項を確認できるので、実在する会社なのか、契約書の署名人には、契約を締結する権限があるのかといったことが分かります。また、重要な契約である場合には会社実印を押してもらった上で、印鑑証明書をもらうことも考えられます。

2.個人と契約を締結するとき

 個人と契約を締結するときは、運転免許証、パスポート、個人番号カード(マイナンバーカード)などで、住所・氏名・生年月日などを確認するようにしましょう。また、押す印鑑は、登録印(実印)であっても認印であっても効力は変わりませんが、可能であれば、登録印を押してもらい、印鑑登録証明書も併せて取得するほうがよいでしょう。

4)契約当事者に代わって契約を締結できる代理人

 代理人は、契約当事者に代わって契約を締結することができます。代理人には「法定代理人」と「任意代理人」がいます。法定代理人は法律によって代理権があることが定められた人、任意代理人は法定代理人以外の代理人で、契約当事者から権限の委任を受けた人です。

 任意代理人と契約を締結するときは、「一定の代理権はあるものの、契約締結については、代理権の範囲外だった(代理権がなかった)」などということがないように注意しましょう。こうしたリスクを避けるためには、できるだけ契約当事者と手続きをするしかありません。

 また、どうしても任意代理人と手続きをしなければならない場合は、委任状に記載する委任事項について「○○との間で締結する『売買契約』に係る一切の権限」といったように、代理権を有する範囲を厳格に定める、不安に感じるところがあれば、すぐに契約当事者に確認するなどの対応をしましょう。

5 典型契約など民法に従うケース

 原則として、契約当事者は自由な内容で契約を締結することができます。にもかかわらず、民法などでは典型契約が定められているのはなぜなのでしょうか?

 典型契約は、「代表的な契約の種類を定めたものである」と説明されるように、私たちの生活に密接に関係するものが多く含まれています。例えば、消費者がお店で買い物をする売買契約や、友人と洋服を貸し借りする使用貸借契約などです。これらは日常の行為であるが故に、細かな条件を契約書で定めることはほとんどありません。こうした、ある意味曖昧な権利・義務関係において何らかのトラブルが生じた場合、判断のよりどころとなるのが典型契約なのです。

 とはいえ、典型契約は、基本的には任意規定なので、契約当事者が別の内容で合意していれば、原則としてそちらが優先されます。

 法人間の取引でも典型契約は同じような位置付けになるのですが、実務上は、契約内容の漏れを防ぐための確認事項として使うことができます。契約書をチェックする段階で、弁護士などの専門家に相談することに加え、自ら典型契約を確認すれば、契約書に盛り込むべき基本的な事項を把握することができます。

 なお、典型契約の詳細については、「民法改正で変わる13種類の典型契約。契約書の見直しが必要に!」の記事で詳細を解説しています。

 典型契約の他にも民法に従う事項があります(任意規定)。例えば、「時間」です。時間を日・週・月・年で定める場合、その期間が午前0時から始まるケースを除いて、初日は不算入となります。一方、100時間のように時間で期間を定めた場合は、即時から起算することになります。契約書を交わした年月日を明確に記載しないまま、「権利・義務の発生は契約締結の時からとする」といったように定めるケースもあるようですが、これは「時間」を含めてトラブルになる恐れがあるので、契約締結日や契約の効力が発生する日時については明確に記載するようにしましょう。

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以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年5月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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執筆:日本情報マート
監修:竹村総合法律事務所 弁護士 松下翔

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