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委任契約(自己執行義務、履行割合に応じた給付を可能とする規定など)~民法改正と契約書の見直し(11)

日本情報マート

2019.06.03

 こんにちは、弁護士の安田栄哲と申します。シリーズ「民法改正と契約書の見直し」の第11回は、委任契約を中心に扱います。

 今回の改正では、委任契約について、1.自己執行義務(復受任者の選任)、2.委任契約が途中で終了した場合の報酬請求権(履行割合に応じた給付の可能化)、3.報酬の支払時期、4.委任契約の任意解除権に関する規定が変更されました。個別に確認していきましょう。

1 自己執行義務(復受任者の選任)

1)復受任者の選任に関する要件の改正

 現行民法では、委任契約は、当事者間の信頼を基礎とする契約であるため、受任者は原則として自ら委任事務を処理すべき義務(自己執行義務)を負うと解されていました。受任者が、さらに復受任者(受任者が委任された事務を処理するために自らの名において選任した者をいいます)を選任できるのは、例外的な場合に限られており、その要件は復代理に関する現行民法第104条の規定が類推されると解されていました。

 改正民法では、自己執行義務を維持しつつ、復受任者を選任できる要件を、1.「委任者の許諾を得たとき」、または2.「やむを得ない事由があるとき」(改正民法第644条の2第1項)と明記しました。

2)復受任者の権利義務

 現行民法では、判例上、委任者と復受任者との関係について、現行民法第107条第2項が本人と復代理人との間に直接の権利義務が生じると定めていることから、受任者と復受任者との間に委任に基づく権利義務関係が成立するとともに、委任者と復受任者との間にも直接の権利義務関係が成立すると考えられていました(最判昭和51.4.9民集30巻3号208頁)。

 改正民法では、委任者と復受任者の関係について明文化することとし、復受任者は、委任者に対し、その権限の範囲内で、受任者と同一の権利義務を有することとされました(改正民法第644条の2第2項)。

 なお、代理の場合と異なり、自己の名をもって取引を行う問屋や運送取扱営業等については、再委託を受けた問屋は、委任者に対し、当然には直接の権利義務を有しないと解されていましたが(最判昭和31.10.12民集10巻10号1260頁)、改正民法においてもこの解釈は変更されていません。

2 委任契約が途中で終了した場合の報酬請求権(履行割合に応じた給付の可能化)

1)履行割合型と成果報酬型の2類型

 現行民法では、受任者に帰責事由がなく委任契約が途中で終了した場合、受任者は既に行った履行の割合に応じて報酬を請求できるとされていました。

 改正民法では、報酬が支払われる委任契約を履行割合型と成果報酬型に分けることとし、それぞれ新たな規律を行うこととしました。なお、履行割合型と成果報酬型は、次のような違いがあります。

  • 履行割合型
    事務処理の労務に報酬を支払う場合。例えば、会計作業やその結果の入力事務の処理量に応じて報酬が支払われるような場合をいいます。
  • 成果報酬型
    事務処理の成果に対して報酬を支払う場合。例えば、弁護士に対して訴訟の委任を行い、勝訴の際に成功報酬を支払うとされている場合をいいます。

 履行割合型については、受任者は、1.委任事務の履行が不能となった場合や、2.委任契約が途中で終了した場合には、受任者の帰責事由を問わず、既に行った履行の割合に応じて、委任者に報酬を請求できるようになりました(改正民法第648条第3項)。これは雇用契約において、労働者の帰責事由によって雇用契約が途中で終了した場合でも、既に労務を行った期間の報酬請求権が認められていることと同様に考える趣旨です。

 成果報酬型については、受任者は、1.成果の完成が不能となった場合や、2.成果を得る前に委任契約が解除された場合、既に行った委任事務の履行の結果が可分で、かつ、その給付によって委任者が利益を受けるときは、その利益の割合に応じて、委任者に報酬を請求することができるとされました(改正民法第648条の2第2項、第634条)。成果報酬型は請負契約に類似する点があり、請負契約において、仕事の一部が既に履行された後に請負契約が解除された場合、既に行われた仕事の成果を分けることができ、かつ、注文者が既履行部分の成果の給付を受けることに利益を有するときは、既履行部分についての報酬請求権を認めた判例(最判昭和56.2.17判時996号61頁)を受けた改正です。

2)委任者の責めに帰すべき場合

 改正民法では、報酬請求権に「委任者の責めに帰することができない事由」との要件が課されていますが、これは、当事者双方に帰責事由がない場合と、受任者の帰責事由によって履行不能となった場合を指します。なお、委任者の帰責事由によって委任事務が履行不能となった場合には、報酬全額を請求することが可能です(改正民法第536条第2項)。

 改正前と改正後の規定を表で比較すると次の通りです。

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3 報酬の支払時期

 現行民法では、委任者の受任者に対する報酬の支払時期は、原則として委任事務を履行した後とされ(現行民法第648条第2項)、例外的に期間によって定めた報酬については、その期間の経過後に請求できるとされていました(同項ただし書、現行民法第624条第2項)。

 改正民法では、履行割合型については、現行民法と同様の規定となります。他方で、成果報酬型については、1.成果物の引渡しを要しない場合は、成果物の完成後に報酬の支払を請求でき(改正民法第648条第2項)、2.成果物の引渡しを要する場合は、成果物の引渡しと同時に報酬の支払を請求できるとされました(改正民法第648条の2第1項)。

4 委任契約の任意解除権に関する規定

 改正民法では、各当事者がいつでも委任契約を解除できるとし(改正民法第651条第1項)、1.相手方に不利な時期に解除したとき、または2.受任者の利益をも目的とする委任契約を委任者が解除したときは、やむを得ない事由があるときを除き、相手方に生じた損害を賠償しなければならないと定めました(改正民法第651条第2項)。

5 契約書の見直しについて

 委任契約に関する改正において、特に、委任契約が途中で終了した場合の報酬請求権や報酬の支払時期については、いずれも任意規定ですが、次の理由から、契約書の見直しを行うべきと考えられます。

 委任契約が途中で終了した場合の報酬請求権について、履行割合型か成果報酬型かにより、報酬請求権が認められる要件や範囲が異なり、いずれになるのかの判断が困難な場合があるため、契約書には途中で契約が終了した際の報酬請求の可否等を明記することが望ましいです。

 また、報酬の支払時期について、特に、履行割合型の場合には委任事務の終了時期が不明確となるため、委任事務の終了時期および報酬の支払時期を明記すべきです。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年6月3日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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執筆: のぞみ総合法律事務所 弁護士 安田栄哲
早稲田大学法学部卒業・慶應義塾大学法務研究科修了。2015年弁護士登録(第二東京弁護士会)。慶應義塾大学法務研究科講師(民事手続法)。企業法務(契約、知的財産、労働、名誉毀損等)・エンターテインメント法務を中心として、金融・決済に関する法務等を手掛けている。

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