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【2020年1月 弁護士執筆】民法改正に伴うソフトウエア開発委託契約書の見直し~民法改正と契約書の見直し(12)

日本情報マート

2020.01.17

 こんにちは、弁護士の柴田睦月と申します。シリーズ「民法改正と契約書の見直し」の第12回は、請負契約と委任契約・準委任契約の典型例の一つであるソフトウエア開発委託契約書について、契約書の内容をどのような観点から見直すべきかについて考えていきます。

1 請負契約に関する改正のポイントと対応策

 請負契約では、受注者であるベンダーは、自らの裁量において仕事を遂行し、システムの完成等、仕事を完成させる義務を負います。

1)報酬の一部支払いの新設について

 現行民法では、システム等の目的物を完成させない限り、ベンダーはユーザーに対して、請負契約に基づく報酬を請求できませんでした。これが改正民法では、ベンダーは、目的物が完成しなくても、未完成部分のみでユーザーにとって価値があると認められる場合、報酬を請求できます(改正民法第634条)(以下、請負契約に関する改正点についての詳細は、本シリーズ第10回「請負契約」をご参照ください)。

 改正民法では、「注文者が受ける利益の割合に応じて、報酬を請求することができる」とされています。「注文者が受ける利益の割合に応じて」との文言に関して、紛争を予防するには契約段階でより具体的に決めておくことが考えられますが、法制審議会の検討では、仕事全体に占める出来高の割合を認定し、それに報酬額を比例させるという算定方法が参考になると考えられていました。

 また、要した時間を基にして客観的な基準を設けておくという方法も考えられます。しかしながら、契約段階において、当事者間で具体的にどのように割合を決めるのが適当かについては、個別事情を踏まえての合意形成が必要となるため、これからの課題といえるでしょう。

2)バグがあった場合の対応に関する条文について

1.代金減額請求権の新設

 システムにバグが生じた場合、そのバグが、システムの機能に軽微とはいえない支障を生じさせる上、遅滞なく補修することができないものであり、またはその数が著しく多く、しかも順次発現してシステムの稼働に支障が生じるような場合には、裁判例上、プログラムに瑕疵(かし)があるものと認められますが(東地判平成9年2月18日判タ964号172頁)、そのような場合であっても、現行民法では、明文上、代金の減額請求は認められておらず、判例上認められていたにすぎませんでした。

 しかし、改正民法では、上記のような瑕疵が見つかった場合には、現行民法上も行うことのできた瑕疵修補請求、解除、損害賠償請求に加え、ユーザーがベンダーに対して代金の減額を請求できることが明文化されました(改正民法第636条、第563条、第562条、第559条)。

 特にこの代金減額請求権については、「その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる」と改正民法で規定されていますが、実際にユーザーから代金の減額を請求される場面を想定すると、「不適合の程度」をどのように数値化するかという点で、ベンダーとの間で主張が食い違うことが考えられます。報酬の一部支払いと同様に、この点を契約段階で明確にしておくことが紛争予防の観点からは望ましいでしょう。個別事情を踏まえて、どのような基準で「不適合の程度」を客観的に算出するとして契約書を作成すれば、将来の紛争を予防できるのかという点については、契約当事者が検討すべき今後の課題といえます。

2.期間制限の長期化

 ユーザーがバグ等に気付くのは、ベンダーからシステムの引き渡しを受け、受入検査を実施したときと、実際にシステムを使ってみた後であることが圧倒的に多いでしょう。現行民法では、目的物に瑕疵が見つかった場合、瑕疵担保責任を追及できる期間は、引き渡されたときまたは仕事完成時から1年以内とされていました(現行民法第637条)。これが改正民法では、契約不適合を知ったときから1年以内という定めになり(改正民法第637条)、システムが納品されてから、実際に瑕疵が見つかるまでの期間は、期間制限の進行がスタートしないことになります。

 この点、現行契約が改正法と齟齬(そご)がある場合には、改定の要否を確認する必要があります。他方で、ユーザーが長期間放置していたのに、ある時点になって責任を追及することはベンダーにとって酷な場合もあり得ますので、修補請求をできる期間は引き渡しから最大5年以内とする制限も同時に設けられています。

 実際には、ユーザーが、瑕疵を発見してから1年近くもクレームを言わず稼働を続けていながら突如修補の要求をした場合に、ベンダーがこれに応じなくてはならないということも、ベンダーの負担が少なくないと思われます。また、一般的にソフトウエアのバグは稼働開始から1年程度で出尽くすことが多いといわれています。そこで、ベンダーの立場では、次のように修補の要求に応じる期間を、瑕疵の発見時と検収合格時を起算点にしてそれぞれ規定しておくことが望ましいでしょう。

「第●条(瑕疵修補)
ユーザーが、本件成果物の瑕疵を発見したときから○カ月以内に請求した場合、ベンダーはこれを補修する。ただし、ベンダーは、瑕疵の修補を、本件成果物の検収合格時から○年以内に限り行う。」

3.瑕疵の修補を請求できる場合の限界

 現行民法では、「瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは」瑕疵の修補を請求することができないと規定されていました(現行民法第634条第1項但書)。そもそも修補に過分の費用を要する場合には、修補による履行が物理的には可能であったとしても、履行が法律上不能であると評価され、損害賠償の請求のみが認められる余地がありますが、当該条文の規定により、請負の場合には、たとえ修補に過分の費用を要したとしても、修補が物理的に可能である限り、重要な瑕疵については修補を行わなくてはならないという結論が導かれ得ることとなっていました。

 しかし、このように請負人に過大な履行義務を負わせることは合理的でないと考えられたため、改正民法では、他の契約類型と同様に、履行(瑕疵修補)を請求することができる場合の限界を、履行請求権の一般原則に委ねることとなりました。

 改正民法下では、「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは」履行の請求をすることができないと規定されています(改正民法第412条の2)。そうすると、実際に瑕疵修補請求が問題となる場面では、当該ケースが「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能である」場合に該当するのかという点が、解釈に委ねられることになりますから、例えば次のように当該契約において「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能である」と言えるのは具体的にどのような場合であるかを契約書で定めておくと、将来の紛争解決に資することとなるでしょう。

「第●条(瑕疵修補請求)
本件成果物に瑕疵が生じた場合、ベンダーは、当該瑕疵を修補しなくてはならない。ただし、当該瑕疵の修補に、○○円以上の費用を要する場合はこの限りではない。」

 また、ユーザーの立場からは、次のように明記して、費用が過分であるため履行不能に該当すると解釈されて修補を拒まれるリスクを下げることも検討するべきでしょう。

「本件成果物のうち○○に関して不具合が見つかった場合、ベンダーは、費用に関わらず当該不具合を補修して、ユーザーに引き渡す。」

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2 準委任契約に関する改正のポイントと対応策

 システムエンジニアに一定の行為や作業を委託する契約等は、「準委任契約」と呼ばれ、原則として、システム完成自体は必ずしも要求されず、依頼された仕事を遂行することが契約上の義務の内容となります。

1)成果完成型の新設について

 改正民法では成果完成型と呼ばれる類型が導入されました(改正民法第648条の2)(詳しくは、本シリーズ第11回「委任契約」をご参照ください)。この成果完成型準委任契約では、ベンダーは、ユーザーに対して、請負契約と同様に仕事の完成に対する報酬を請求できます。この成果完成型を採用する場合には、次のように、契約上でその旨を定めておく必要があります。

「第●条(報酬)
1 ベンダーが、第●条に定める事務の履行によって同条に定める成果物(以下、「本件成果物」という)をユーザーに引き渡した場合、ユーザーはベンダーに対して、○○円を報酬として支払う。
2 前項に定める報酬は、第●条に定める検収に合格後、○日以内に支払う。」

 なお、改正民法では、成果完成型準委任契約の報酬は、引き渡しと同時とされていますので、報酬の支払日を契約上で定めなかった場合、ユーザーは、引き渡しと同日に報酬を支払わないと債務不履行となってしまいます。そのため、特にユーザーは、実際に支払うことが可能な日付をあらかじめ特定して記載しておくようご留意ください。

2)一部報酬請求に関する改正について

 履行の途中で委任が終了した場合、現行民法では、ベンダーに帰責事由がない場合に限り、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができました(現行民法第648条第3項)。これが改正民法では、受任者(ベンダー)に帰責事由がある場合でも、一定の場合に、履行した部分の報酬を請求できることになりました(改正民法第648条第3項)。請負契約における一部報酬請求と同様に、「既にした履行の割合」をどのように算定するのかが明確になるように契約書に記載をすることが有用です。

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以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年1月17日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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執筆:小島国際法律事務所 弁護士 柴田睦月
中央大学法学部卒業・中央大学法務研究科修了。2014年弁護士登録(第一東京弁護士会)。国内大手メーカーにてインハウスローヤーとして勤務した後、のぞみ総合法律事務所を経て、現事務所所属。企業における不祥事対応、独禁法・労務に関する対応等を手掛けた他、現在では、渉外案件を中心としたM&A、事業承継、インバウンド・アウトバウンドの海外進出・撤退等企業法務全般を手掛けている。

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