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事業のルールを守る

事業の適法性を確保するための手段

日本情報マート

2020.07.28

 「事業の適法性」が確保されていない場合のリスクは、起業家が知っておきたい「事業の適法性」においてご紹介した通りです。これに続く今回は、事業の適法性を確保するための具体的な方法をご説明していきます。

1 公表されている資料等の活用

 インターネット上には様々な情報が存在していますが、事業判断の前提として信憑性の薄い情報源を用いることは避けるべきです。そこで、容易にアクセスが可能で信頼できる情報源のうち、代表的なものをご紹介します。

1)e-Gov法令検索

 事業において問題となりそうな法令の名称が分かっている場合には、総務省提供の「e-Gov法令検索」上で法令(法律・政令・府省令・規則)を検索することができます。掲載内容については、法改正の反映が遅れているものや、法令を所管する行政庁による確認が未了のものもあるため、官報に比べると最新性や正確性の点で劣りますが、基本的には信頼できる情報源といえます。

2)各省庁のガイドライン・リーフレット・Q&A等

 法令の条文は、複雑なものも多いため、それだけを見て内容を正確に理解することは難しいかもしれません。一方、法令を所管する行政庁が法令の内容を分かりやすく説明したガイドラインやリーフレット、Q&A等を公表していることがあるので、確認してみましょう。
 職業紹介事業を例に挙げると、職業安定法を所管する厚生労働省が、職業紹介事業者向けのガイドラインとして『職業紹介事業業務運営要領』を公表し、2020年3月30日施行の改正職業安定法を簡潔に説明するリーフレットとして『職業紹介事業者の皆様へ』を公表しています。また、2018年1月1日施行の同法の改正については『職業安定法改正Q&A』にて、疑問を生じやすい点がまとめられています。

3)規制のサンドボックス制度・新事業特例制度・グレーゾーン解消制度の活用実績

 各制度の詳細については後述しますが、いずれも「規制のサンドボックス制度、新事業特例制度及びグレーゾーン解消制度の活用実績」で過去の照会内容や結果が掲載されています。これら制度の活用実績の中に自社の事業と類似のものがあれば、適用のある法令の理解の一助となります

4)過去の行政処分の事例

 法令によっては、過去の行政処分の事例が公表されていることがあります。例えば、消費者庁は、「行政処分の状況を知りたい」で特定商取引法や景品表示法に関する過去の行政処分の事例を公開しています。消費者向けの広告を検討する際には、消費者庁が違法と考える事例を閲覧することで、その考え方を知る手掛かりになるでしょう。

5)有価証券報告書

 有価証券報告書は、金融庁が提供しているデータベース『EDINET』で閲覧することができます。有価証券報告書には、「事業等のリスク」に関する項目が設けられており、その企業の事業に適用され得る法令や法的論点に関する説明が記載されています。従って、自社と類似業種の上場企業の有価証券報告書を複数閲覧することで、適用され得る法令の洗出しをすることができます。
 もっとも、法令には改正がある他、有価証券報告書が作成された時期やその企業の背景事情によって、記載には濃淡があるため、あくまで参考程度の位置付けであることには注意が必要です。

6)裁判例検索システム

 裁判例は、最高裁判所が提供している「裁判例検索システム」により検索することができます。本来、法令の解釈適用に関する最終的な判断権は司法にあるため、行政解釈を掲載したガイドライン等よりも優先すべき資料といえますが、事業の適法性に関する判断が司法でなされるケースがあまり多くないこと、裁判例を検索しその内容を理解するためにはノウハウや前提知識が必要となること、検索システムに掲載されている裁判例は一部に過ぎないことから、若干優先度を下げてご紹介しました。

2 所管の行政庁への事前相談

 特に許認可の要否が問題となる事案では、法令を所管する行政庁の担当部署に対し、事前相談を行うことが可能です。もっとも、事前相談において、未確定な情報や不正確な情報を伝えてしまうと、行政庁から正確な回答が得られないばかりか、あらぬ疑いをかけられてしまうケースもあるため、事前相談を行う際には、きちんと社内で情報を整理した上で、正確に情報を伝えることが重要です。

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3 法令等に基づく照会制度および規制の例外制度

1)グレーゾーン解消制度

 グレーゾーン解消制度とは、産業競争力強化法に基づき、実施しようとする事業およびその関連事業に関する規制を定める法令の解釈、適用の有無について、経済産業省を介して、所管行政庁に対する照会を行うことができる制度です。

 所管の行政庁に申請書が受領されてから照会結果を得るまでに原則1カ月とされていますが、実際の照会では以下のような流れとなるため、検討段階から照会結果を得るまでに3カ月から半年程度の期間を要することが多いとされています。

  • 社内での照会対象の事業、法令の検討
  • 経済産業省への事前相談
  • 申請書案の作成
  • 再度、経済産業省への事前相談
  • 申請書の確定、申請
  • 所管の行政庁による照会結果の通知

 事前相談においては、会社から事業の概要や照会対象となる法令についての見解等の説明を行い、何度かやり取りを重ねながら申請書の内容を確定させていきます。並行して経済産業省から所管の行政庁への事前相談が行われることもあり、会社にとって不利益な照会結果が予想される場合には、事前に情報を共有してもらえることもあります。このような経過を踏まえ、最終的に申請の対象となる事業の範囲等を変更し、または申請を行わないといった対応を行うことも可能であるため、積極的に事前相談を活用してみても良いように思います。

2)新事業特例制度

 新事業特例制度とは、新事業活動を行おうとする事業者が、その支障となる規制の特例措置を提案し、安全性等の確保を条件として、企業単位で、規制の特例措置の適用を認める制度です。グレーゾーン解消制度同様、産業競争力強化法に基づく制度ですが、こちらの制度は法令の適用があることを前提に、その特例を認めてもらう点で大きく異なります。
 手続の大まかな流れは、グレーゾーン解消制度の場合と同様ですが、1.規制の特例措置を求める申請を行いその結果が出た後で、2.自社の事業についてその特例措置の適用を受けるために事業計画の認定を受ける必要があり、2段階の手続が必要となる点で、グレーゾーン解消制度の場合とは異なります。なお、既に自社の行おうとする事業について、特例措置が設けられている場合には、1.の手続は不要となり、2.の手続のみで足りることになります。
 検討段階から自社が特例措置の適用を受けられるまでの期間としては、内容にもよりますが、グレーゾーン解消制度の場合よりも長期間を要することが多いようです。

3)規制のサンドボックス

 規制のサンドボックスとは、生産性向上特別措置法に基づき、AI、IoT、ブロックチェーン等の革新的な技術の実用化の可能性を検証し、実証により得られたデータを用いて規制・制度の見直しに繋げる制度です。法令の適用があることを前提に、規制の特例措置を求める制度である点は、新事業特例制度と同様ですが、規制のサンドボックスは、あくまで実証のための制度であることから、実施期間が設けられる点で大きく異なります。
 なお、こちらの制度も新事業特例制度同様、グレーゾーン解消制度の場合よりも長期間を要することが多いようです。

4)ノーアクションレター(法令適用事前確認手続)

 ノーアクションレターとは、事業における行為について法令の適用の有無を照会するための制度であり、グレーゾーン解消制度と似ているところがあります。しかし、照会の対象となる法令が、罰則のある許認可制度に関するものなどに限定されています。また、法令に基づく制度ではなく、各行政庁に実施方法が委ねられているため、所管の行政庁ごとに手続を調べた上で申請等を行う必要です。これらの点で、上記3つの制度とは異なります。

4 活用に際して考慮すべきこと

 これらの制度を活用し、会社の事業が適法である旨の見解を取得し、または、規制の特例が認められれば、事業の適法性について大きな後ろ盾を得ることができます。投資家、顧客、買収者、引受証券会社、証券取引所等に対する事業の適法性に関する説明においては非常に有用といえるでしょう。
 一方で、これらの制度を活用する場合、最終的な結果が出るまで、一定の期間を要します。また、2020年3月末現在のグレーゾーン解消制度の申請件数は累計で161件であるのに対し、新事業特例制度および規制のサンドボックス制度の申請件数はいずれも10件前後にとどまっています(経済産業省のホームページ)。この2制度の申請件数が極端に少ない理由については明らかにされていませんが、最終的な結果が出るまでに期間を要すること、安全性等の確保のための体制を現実的に備えられる企業数が少ないことなどが考えられます。
 これらの制度を活用する場合、結果とともに、自社のビジネススキームも公となります。また、弁護士等の意見を踏まえ、法令の適用がない蓋然性が高いといえるにも拘わらず、敢えてグレーゾーン解消制度やノーアクションレターを活用すると、規制がないことが公になり、競業事業者の参入障壁が下がる可能性もあります。
 もっとも、これらの制度の有用性は高いため、以上の事情も考慮した上で、最終的に活用すべきかご判断頂くのが良いと考えます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年7月28日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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執筆:五三法律事務所 弁護士 猿渡 馨
弁護士登録後、スタートアップを中心的なクライアントとし、ファイナンスや上場支援、人事労務など、様々な企業法務を経験。現在は、企業(使用者)側の立場で、労働事件を主に取り扱う。
https://www.imlaw.jp/lawyer-2.html

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