
2023 中小企業の株主総会「株主総会にまつわるQ&A」
2023.05.24
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前回は「シード・ファイナンスで使える5つのスキーム」として、具体的なエクイティ・ファイナンスの手法を紹介しました。それを踏まえた上で、今回はスタートアップがエクイティ・ファイナンスを行う際に見逃されがちなポイントを紹介しつつ、手続的な注意点についても解説します。なお、エクイティ・ファイナンスで重要な資本政策については「エクイティ・ファイナンスで必ず押さえておきたい資本政策」を参照ください。
1)概要
エクイティ・ファイナンスとは、投資家からの出資の対価として、会社の株式等を発行するファイナンス手法です。株式等の発行については、会社法に詳細な手続の定めが置かれています。それを遵守した上で、最終的に登記までが完了しなければ、有効にエクイティを発行することができません。
スタートアップがエクイティ・ファイナンスを行う際の実務的な手続の流れは、概ね以下の通りです。
上記手続概要の2.と3.の間の期間については、全株主の承諾により省略することができるため(会社法300条)、理論上は、1.から5.の手続を1日で行うことも可能です。しかし、設立当初のエンジェルラウンドはともかくとして、スタートアップは成長につれてステークホルダーが増えていくため、現実的には、各ステークホルダーとの調整等も含め、1日で手続を行うことが困難であるケースが多いでしょう。
2)既存の契約条件の確認
エクイティ・ファイナンスを行うに際して、投資契約や株主間契約等の既存契約が存在する場合、
について確認を行う必要があります。
事前承諾事項については、特に既存株主にCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)が存在する場合、CVCの母体企業と事業上コンフリクトが生じうる新規投資家からの出資を避けるニーズが強いため、次回のファイナンスを具体的に進める段階で、早めに担当者に相談を行っておくべきです。
また、優先引受権の設定がされている場合は、契約書上に当該ファイナンスで発行される株式等の発行決議の「~日前までに」発行する株式等の内容と条件について事前通知を行う義務が定められていることが一般的なので、手続を懈怠(けたい)しないことはもちろん、スケジュールの設定に際してはこの期間を必ず考慮するように注意しましょう。
3)種類株主総会決議の要否
前回までのエクイティ・ファイナンスにおいて、種類株式が発行されている場合、種類株主総会決議の要否についても注意する必要があります。
以下の定款条項例のように、種類株主総会を要するケースで定款で網羅的に制限が付されている場合、他の種類株式を発行する場合を除き(会社法322条3項但書)、種類株主総会を要しないものと判断することができます。しかし、少なくとも、会社法199条4項(株主総会決議により募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社の場合は取締役会)に委任する方法を採る場合は同法200条4項も)の決議を廃していない場合には、種類株主総会決議が必要となります。仮に、必要な種類株主総会決議を行わずに手続を行った場合、株式等の発行自体が無効となるため、懸念がある場合は必ず専門家に相談すべきポイントです。
【定款条項例】
(種類株主総会決議)
A種優先株式について、会社法322条1項に関する決議を行う場合のほか、同法199条4項、同法200条4項、同法238条4項、同法795条4項等、法令上可能な範囲で、種類株主総会の決議を要しないものとする。
1)概要
投資契約又は株主間契約では、以下の条項例のように、次回以降のエクイティ・ファイナンスにおいて、当該契約の当事者である投資家に対する条件よりも有利な条件が設定された場合に、当該投資家に対しても有利な条件が自動的に設定される旨が規定されていることがあります。
【条項例】
(最恵待遇)
発行会社又は経営株主が投資家以外の第三者との間で、本契約の投資家に対する内容よりも当該第三者に有利である契約(但し、種類株式の内容は、含まれない。以下「有利契約」という。)を締結する場合には、本契約の内容は有利契約の内容に変更され、又は、有利契約の内容が本契約に追加されるものとする。
2)対応
そもそも、有利不利の判断自体が相対的な問題であり、このような契約管理に煩雑さをもたらす条項がスタートアップにとって望ましいのか、という問題があることは別として、実際に、このような契約条項が付されているケースは少なからず存在します。そのため、債務不履行や契約違反に基づく株式買取請求を避けるための対応をしなければなりません。
契約管理の実務対応として、エクイティ・ファイナンスを行う度に、各既存投資家に、どの部分が有利に設定されており、今後どの条項が追加されて……などと確認していくのは非常に煩雑であり(有利不利の相対性の問題から既存投資家ごとに判断が異なる可能性もあり得ます。)、契約管理において過誤を誘発する可能性が極めて大きいものといえます。
従って、最恵待遇の適用のある既存投資家と合意が取れるのであれば、エクイティ・ファイナンスを行う度に、既存投資家の契約書上の位置付けを工夫しつつ、最新の投資契約・株主間契約と同様の内容の契約を締結し直すという方法を採る方がはるかに現実的であると考えます。なお、既存投資家が追加出資する場合は単純に同一の投資契約・株主間契約を締結すれば済みますが、既存投資家が追加出資を行わない場合、投資契約書上の投資家としてそのまま契約を締結すると齟齬が生じるため、出資と株式等の引受けそのものに係る条項が適用されないような工夫が必要です。
みなし優先株式やJ-KISS、転換社債型新株予約権付社債が既に発行されている場合には、次回のエクイティ・ファイナンスが、これらの投資条件に定められている適格ファイナンス等に該当しないかを確認し、該当する場合には転換のための手続の準備を行っておく必要があります。
いずれも手続自体は単純なものですが(『シード・ファイナンスで使える5つのスキーム』参照)、J-KISSや転換社債型新株予約権付社債の転換により、発行される株式が種類株式となる場合には若干注意すべき点があります。
特にJ-KISSには、転換により発行される株式の種類及び数について、「その発行価額が転換価額と異なる場合には、1株あたり残余財産優先分配額及び当該種類株式の取得と引き換えに発行される普通株式の数の算出上用いられる取得価額は適切に調整される。」との一文が付されていることが一般的であり、転換社債型新株予約権付社債にも同趣旨の定めが付されていることがあります。
種類株式における残余財産の優先分配額や普通株式への転換比率は、出資額をベースに決定されることがほとんどであること、この一文の意味するところは、J-KISSや転換社債型新株予約権付社債の転換価額が発行される種類株式の発行価額と異なる場合(ディスカウントレートやバリュエーションキャップにより殆どの場合異なることになります。詳細は、『シード・ファイナンスで使える5つのスキーム』参照)、残余財産の優先分配額や普通株式への転換比率の内容を転換価額ベースに調整するということです。
従って、J-KISSや転換社債型新株予約権付社債の転換に伴い、種類株式を発行する場合には、適格ファイナンス等における種類株式とは別に、残余財産の優先分配額や普通株式への転換比率の内容を転換価額ベースとしたもう一つの種類株式を発行しなければならないことに注意が必要となります。
今回は、スタートアップのエクイティ・ファイナンスについて、手続的なポイントを中心に解説を行いました。ダウンラウンドの場合の希釈化防止条項の適用等、スタートアップのエクイティ・ファイナンスの実行に際しては、他にも留意すべきポイントはいくつもありますが、基本的な知識として経営者の皆様がきちんと理解していただくべき点は今回紹介したもので足りるところかと思いますので、基本を理解していただいた上で、専門家との円滑な協力のもとファイナンスを実行していただければと思います。
以上
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