友人から、「事業を始めるので100万円の資金を提供してほしい」と言われました。その友人いわく、「今すぐに100万円を提供してくれたら、100%の確率で5年後に100万円を返す」とのこと。あなたがそれを信用した場合、友人に資金を提供しますか?

今の100万円と5年後の100万円の価値が同じであれば、資金を提供してもよいでしょう。しかし実際は、今の100万円は5年後の100万円に比べ価値がある、すなわち、貨幣には時間的価値があると考えます。これが「現在価値」の考え方のポイントです。


財務・会計の基本が分かる

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1 「現在価値」の考え方

1)貨幣の時間的価値

時間的価値を学ぶ前提として、複利計算について説明します。複利計算とは、現在の100万円が5年後にいくらの価値になるかという将来価値に換算する方法を指します。将来価値とは、以下のような式で計算することができます。

将来価値の計算式を示した画像です

PV:現在価値
i:金利
n:年数
FVn:n年後の将来価値

仮にあなたは友人に100万円を提供せず、代わりに年10%の利率の金融商品に投資したとします。100万円を引き出さずそのまま運用を続けた場合、5年後に得る金額は以下のように計算できます。つまり、この場合の将来価値は約161万円ということです。

将来価値の計算式を示した画像です

2)現在価値の計算式

今度は逆の考え方をしてみましょう。つまり、5年後の100万円が、現在いくらの価値を持つのかということであり、これが現在価値という考え方になります。現在価値は以下のように計算することができます。

将来価値の計算式を示した画像です

100万円が年10%の利率で殖えると、5年後には約161万円になります。逆に言うと、5年後の約161万円を年に10%の利率で割り引いたものが現在価値となります。ここで年に10%で割り引いている率を割引率といい、将来の金銭を現在価値に換算する1年当たりの割合をいいます。
冒頭の例に戻りましょう。友人に資金を提供すると5年後に100万円が返ってきます。この5年後の100万円にいくらの価値をつけるべきなのか。この場合の現在価値は以下のように計算することができます。

現在価値の計算式を示した画像です

約62万円が5年後の100万円の現在価値となります。そのため、「今すぐに100万円を提供してくれたら、100%の確率で5年後に100万円を返す」という友人に対して、あなたが提供できる資金は、最大で62.09万円までと考えることもできるのです。

2 「割引率とリスク」の考え方

ここまでの前提は、友人から100%の確率で100万円が返ってくるものでした(以下「シナリオ(1)」)。では、友人の事業が成功する確率は50%で、仮に失敗した場合は1円も返ってこないとしたら、あなたはいくらの資金を提供するべきでしょうか。支払いの不確実性(リスク)がある場合は、リスクに応じて割引率を調整し、投資の金銭的価値にリスクの影響を織り込みます。

シナリオ(1)の5年後に100万円の支払いが確実な場合(リスクがない場合)には、割引率が10%で、現在価値は62.09万円でした。一方、友人の事業が50%の確率で失敗する、つまり50%の確率で何ももらえないという前提で、シナリオ(1)と同様の5年後に100万円という期待値を達成するためには、残り50%の確率で200万円が必要になります(以下「シナリオ(2)」)。

2パターンのシナリオで5年後の支払額を示した画像です

ここで、5年後の200万円の現在価値が、シナリオ(1)の現在価値である62.09万円になるような割引率を、現在価値の計算式を利用して求めると、以下のように26.36%という高い値になります。

シナリオ(1)の現在価値の計算式を示した画像です

シナリオ(1)の割引率の計算式を示した画像です

そのため、100%支払いが確実な金融商品と、50%の確率で事業に失敗する友人の事業への投資の差を割引率の差として算定すると、10%と26.36%の差として表現できます(リスクの数値化は、実際にはより複雑な検討が必要となります)。

3 「継続価値」の考え方

新たに、毎年継続的に100万円の資金を受け取れる金融商品について検討してみましょう。この金融商品の現在価値は、以下のように1年ごとに得られる100万円の現在価値を計算し、合計することで算出できます(割引率は10%と仮定しています)。

1年ごとに得られる現在価値の計算を示した画像です

上記の計算式を解くと、以下のような簡単な式になります。

1年ごとに得られる現在価値の計算式を示した画像です

つまり、毎年100万円の資金を受け取れる投資の価値は、毎年受け取る資金を割引率で割った金額となります。

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4 「企業価値」の考え方

現在価値の考え方は、企業価値を評価する際にも使えます。企業価値とは、その企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの現在価値といえるからです。例えば、毎期100万円のキャッシュフローを継続的に生み出すことを期待される企業があるとして、実際にそうならないリスクを考慮した割引率を10%と仮定した場合、その企業の価値は、以下の式で計算することができます。

毎期100万円のキャッシュフローを生む企業の割引率10%の場合の企業価値の計算式を示した画像です

また、この企業が生み出すキャッシュフローが毎期継続的に5%ずつ成長すると考えた場合には、以下のような式で現在価値を計算することができます。

毎期5%成ずつ成長する場合の企業価値の計算式を示した画像です

上記の計算式を「継続価値」と同様に変形していくと以下の通り、簡単な式で現在価値を計算することができます。

毎期5%成ずつ成長する場合の企業価値の計算式を示した画像です

5 企業価値と密接に関係する資本構成

企業価値は、資本構成によって左右されます。元本返済を約束していない資本による調達の利回り(割引率)は高くなります。それに対して、借入金で資金調達した場合の利回り(割引率)は、元本返済を約束しているため低くなります。しかし、過度に負債を利用すると倒産などのリスクが高まるため、割引率が高くなり、企業価値を毀損することになります。これらの結果として割引率が変動するため、資本構成は企業価値に影響を与えるのです。

負債利用と企業価値の関係を示した画像です

ここで、割引率が変動した場合、企業価値がどの程度影響を受けるのかを検討してみましょう。毎期100万円のキャッシュフローを継続的に生み出す企業があったとします。その企業の企業価値は割引率によって、以下のように変動します。

割引率と企業価値を示した画像です

このように、資本構成が変動すると割引率も変動します。そのため、同じキャッシュフローを生み出している企業でも、企業価値が大きく異なる結果となります。

企業のライフサイクルや業種にもよるため一概には言えませんが、一般的に自己資本比率40%以上、フリーキャッシュフローで10年以内に返済できる規模が、財務健全性の観点からは望ましいといわれています。現在価値を利用した投資判断に加え、企業のステージやビジネスの安定性を考慮して、最適資本構成を検討することが望ましいと考えられます。

さらに、企業価値は投資の影響も強く受けると考えられるため、有利な投資機会が生まれたときに、必要な投資金額を機動的に調達できるようにしておくことが望ましいでしょう。企業のステージやビジネスの安定性なども考慮し、企業価値を最大化できる財務戦略の構築が不可欠です。


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以上

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執筆:グローウィン・パートナーズ株式会社
「プロの経営参謀」としてクライアントを成長(Growth)と成功(win)に導くために、(1)上場企業のクライアントを中心に、設立以来400件以上のM&Aサポート実績を誇るフィナンシャル・アドバイザリー事業、(2)「会計ナレッジ」「経理プロセスノウハウ」「経営分析力」に「ITソリューション」を掛け合わせた業務プロセスコンサルティングを提供するAccounting Tech® Solution事業、(3)ベンチャーキャピタル事業の3つの事業を展開している。
大手コンサルファーム出身者、上場企業の財務経理経験者、大手監査法人出身の公認会計士を中心としたプロフェッショナル集団であり、多くの実績とノウハウに基づきクライアントの経営課題に挑んでいる。

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