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創業3年後までに経営者が学ぶべき計数感覚

日本情報マート

2019.07.09

 起業したての経営者は、温めてきたビジネスプランで「0→1」を実現することに夢中でしょう。苦労は多いですが、夢の実現に向けた取り組みは楽しく、充実した日々を過ごしていることと思います。

 一方、ビジネスでは“お金”がついて回ります。創業資金、業容拡大に伴う追加投資資金や、日々の増加運転資金などの金策は避けては通れません。しかし多くの経営者は財務や会計の専門家ではないので、起業したての経営者は数字のことで苦労します。

 経営者が経理担当のような細かい財務や会計の知識を得る必要はありません。経営者は、経営者の立場と視点で財務や会計に向き合えばよいのです。このシリーズでは、起業から1~3年の経営者に注目し、経営者に必要な財務・会計の知識を紹介していきます。

1 起業した経営者に必要な財務の知識

 起業後は定期的に決算を行って税務申告をします。もちろん、社内外の専門家に任せればよいのですが、経営者が内容を知らないでは済まされません。また、資金調達では、調達先がベンチャーキャピタル(以下「VC」)であっても、銀行であっても、将来の財務予測を含めた事業計画書の提出が求められます。

 では、経営者は簿記や会計を学ばなければならないのでしょうか。答えは「No」です。経営者は多忙です。特に起業から1~3年の間、経営者はビジネスを軌道に乗せるための大変な時期を過ごします。現場で陣頭指揮を執りつつ、バックオフィス(業務)も行う経営者が簿記を覚える機会損失は大きなものです。それよりも大切なことを紹介していきます。

2 ビジネスプラン(経営戦略)と財務数値は表裏一体

 起業したとき、どのような想いがあったでしょうか。市場にどのようなニーズがあるかを考え、どのようなお客様に、どのような価値を提供しようかと考え抜き、ビジネスプランを具体化していったはずです。

 では、そうして生まれたビジネスがお客様に認められているか否かを、どうやって検証しますか? 売上や、それを分解した「お客様の数×客単価」で確認し、検証するのではないでしょうか。

 また、売上を確保するためには、さまざまな活動が必要です。具体的には人を雇う、広告を打つなどの活動には経済的犠牲が伴います。これが費用です。

 同様に、ビジネスを始めるには一定の投資も必要です。店舗を構える、工場を建てる、車両を持つなどです。これが会社の資産となります。資産を持つには資金が必要で、この資金をどのように調達するかを表したものが負債、純資産となります。

 このように財務諸表は、突然どこからか登場した数字の羅列ではなく、経営者である皆さんが練ったビジネスプラン、戦略を数字で表現したものなのです。だからこそ、財務数値は経営者に責任があるのです。

ビジネスプラン、戦略と財務の関係を示した画像です

 ビジネスプランと財務数値は車の両輪ではなく、表裏一体の関係です。ビジネスの表はビジネスプランです。お客様が喜んでくれるワクワクするようなプランが、こちらが何と言っても大事なのです。ただ、その裏では一つ一つのビジネス活動にひも付いて数字が動いているのです。経営者はこの関係をしっかりと理解しなければなりません。

3 決算書の財務諸表は経営者の成績表 PDCAのCの肝

 決算で作成される財務諸表は、経営者の1年間の成績表です。ビジネスの提供価値が市場、お客様に果たして認められたのか(売上の問題)、価値を提供するための活動は適正だったか(費用の問題)、資金繰りに問題はないか(貸借対照表上の問題)。こうしたことが財務諸表で検証できるのです。

 「年に1度(あるいは数回)の決算時に検証できてもね……」と考える経営者がいるかもしれませんが、その通りなのです。1年に1度(あるいは数回)では検証の価値がありません。そこで、実際には月次など、より短いサイクルで検証し、その結果に基づいて経営戦略を練り直す必要があります。また、ここまでの話が納得いただけたなら、こうした財務数値が迅速に経営者に届くことが必要だということもご理解いただけるでしょう。

 よく「PDCA(Plan-Do-Check-Action)のサイクルを回す」と聞きますが、果たしてどのようにしてPDCAサイクルを回していけばよいのでしょうか。お客様の声を聴くなどいろいろあるでしょうが、短いサイクル、高い頻度で、定期的に検証するのは難しいものです。そこで、戦略、ビジネスの実行の結果が表れる財務数値を使って検証することが有効なのです。ビジネスシーンでよく登場するPDCAですが、「C(Check)」を行うには、財務諸表が読めなければなりません。

 財務諸表の具体的な内容、財務諸表のどこをどう見ればそうした検証ができるのかは、次回以降で説明していきます。

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4 予測財務諸表を含む事業計画書の作成には経営者の魂を込める PDCAのPの肝

 VCや銀行がビジネスプランについて興味を持ってくれたようなのに、ミーティングの終盤で「長期の事業計画書を出していただけませんか」などと言われ、「また堅いことを言ってきたな」と肩を落とすのは、経営者の“あるある”でしょう。

 経営者はげんなりするかもしれませんが、VCや銀行としては、「ストーリーとしてのビジネスプランは面白い。経営者はこのビジネスでどれくらい売れると考えているのだろう? 今後どれくらい資金が必要だと考えているのだろう? 何年くらいで投資を回収するつもりでいるのだろう?」と、よりビジネスの内容を理解しようと興味を持っていることもあります。

 ところが、経営者の中には「そんなのやってみないと分からないだろう。最終形が分かるビジネスなんてない」と受け止めてしまうことがあるようです。お互いにとって好ましくないコミュニケーションですね。

 財務数値はビジネスプランによって決まります。VCや銀行は事業計画書の財務数値に表れる経営者の想いを詳細に読み取りたいと考えているのです。「なるほど、2年後に人員増強するのか。5年後には設備更新が必要なのだな……」といった具合です。

 従って、事業計画書を用意してくださいと言われたら、実はチャンスかもしれません。財務数値からビジネスプラン、戦略をより詳細に読み取ろうと考えているのですから、ここは経営者の魂を込めて作成したいところです。そう、事業計画書の作成には経営者の魂を込めなければならないのです。

 どのような活動をして(費用をかけて)、それだけの商品やサービスをいくらの値段でどれくらい売ろうと考えているのか(売上)、そのためにどのような投資がいつ必要になるのか、借り入れはどれくらいで返済できる予定か(これが決まらないと何年の融資をしてよいかも決まりません)は、経営者でなければ語れません。これを事業計画書に落とし込むのです。

 一方、社内外の財務や経理の専門家に指示すれば、経理的には正しい事業計画書ができるでしょう。しかしそれは、どこにでもあるような「毎年〇〇%成長していく予定です」といった事業計画書になってしまうことがあり、VCや銀行などに「見る価値がない」と判断されてしまうかもしれません。

 仮に、経営者自らが作成しない場合でも、前提条件は示しましょう。財務予測は経営者が練りに練ったビジネスプランを反映した前提条件の設定が全てなのです。また、他人が表計算ソフトで作った表の印刷物は、なぜその数字になったのか計算式がよく分かりません。事業計画書に盛り込む財務予測には、作成の前提条件が分かる一表を添付することをお勧めします。前提条件が全てだと申しましたが、これは財務諸表がどのようなメカニズムで作成されているのかが分からないと、なかなか現実には難しいですよね。この点も、次回以降で説明していきます。

 しっかり書類は提出しているのに、その先に話が進まない、あるいはそういう経験のある経営者は、ぜひこの観点でご自身の会社の事業計画書を見直してみてください。

 事業計画書作成における財務予測は、自らが考えたビジネスプランを可視化、定量化したものです。利益が少ない、資金がかかりすぎるなどの問題点を発見し、戦略を練り直すという作業を繰り返すことで、戦略の妥当性、有効性を検証し、ビジネスプランを磨き上げていくのが予測財務諸表を作成する意義です。

5 最後に

 一見、経営者が手掛けるビジネスとは離れたところにありそうな財務の世界ですが、PDCAサイクルを適切に回していくためにも重要な役回りを果たしていることがお分かりいただけたでしょう。また、「財務数値をうまく使えばビジネスプラン、戦略の成功確率を上げられそうだ」「経営課題の早期発見に使えそうだ」など、何かお感じいただけたところはあったでしょうか。

 次回以降は、財務諸表がどのようなもので、どう読めばよいのか、どういうメカニズムで作成されているのかを回を分けて解説していきます。

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以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年7月9日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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執筆:グロービス経営大学院教授 松本泰幸(まつもとひろゆき)
九州大学法学部卒業。東京証券取引所一部上場の事業会社2社で財務部長、関連事業部長、外資系コンサルティングファームで金融サービスコンサルタントとして活動し、投資顧問会社・コンサルティング会社を傘下に持つHCAグループの設立に参画。現在は、農業経営コンサルティング業の株式会社日本アグリマネジメント代表取締役社長。他に経営コンサルティングを行う株式会社LonePine代表取締役社長。株式会社丸八ホールディングス非常勤取締役。石本酒造株式会社顧問、グロービス経営大学院教授(アカウンティング、ファイナンスなど)。

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