
第28回 ベイシス株式会社 代表取締役社長 吉村公孝氏/森若幸次...
2023.01.11
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うまく機能する組織、成員が幸せになる組織とはどのようなものか。この難問の答えを、まったく正反対の立場にある『論語』と『韓非子』を読み解きながら、守屋淳が導き出していくシリーズです。
信用や信頼をベースにした理想的な組織とは、どのように作っていけばよいのか――今回からは、この実現法について『論語』をもとに考えていきたいと思います。
まずは、孔子の描いた理想の組織像を端的にあらわしているのが、次の言葉です。
一言でいえば、トップやリーダーとは北極星であり、その求心力の中心は「徳」だというのです。「徳」の磁力に引かれて、他の星々は北極星であるトップやリーダーを信頼し、そのまわりをクルクルまわっているのです。
では、「徳」とは何なのか。これはいろいろな解釈が可能ですが、『論語』での使われ方を筆者なりにまとめると、こんな感じです。
「対人関係のなかでのよき行動のルール」
例えば、人名にも使われる「諒」という徳目があります。これは一言でいえば、約束を守ること。確かに、社会人として遅刻しない、締切りを守るといった事柄は、よき行動のルールとなるわけです。こうした徳目を、「無意識にできる」「当たり前にできる」というレベルまで会得するのを「修己」――つまり、徳を身に付けたといいます。
こうした「徳」は数多くありますが、なかでもトップやリーダーが信頼されるために身に付けるべき徳目があります。
『中庸』という古典と『論語』には、それぞれこんな指摘があります。
「知」「仁」「勇」という三つこそ、トップやリーダーには最も重要な「徳」であり、これらを身に付ければ、いざというときも迷わないというのです。この三つは、現代のビジネスでたとえると、新規事業などの立ちあげに必要となる、次の三段階に対応しています。
単純な話にも見えますが、それぞれを探究していくと、結構、奥深い中身が見えてきます。
まずは「知」について。『論語』にこんな言葉があります。
子路(本名は仲由、字が子路)とは、孔子の高弟の一人。この一節は、われわれ日本人の「知」のありようを知る上でも――当然、『論語』の影響があるわけです――示唆に富む言葉に他なりません。
まずこの言葉からわかるのは、「知」であるためには、自分の知っていること、知らないことの区分けが必要である、ということです。確かに、
「あるジャンルにおいて、その人が本当に一流か否かの分け目は、そのジャンルの限界を語れるか否かだ」
と言われたりしますが、確かに限界を語れるのは、そのジャンルの知るべきことは知りつくしているからこそ。こうした意味からも、『論語』の指摘の妥当性を見ることができます。
さらに、こうした考え方からは、
「よくわからないことを、ペラペラしゃべらない」 「自分が不案内なことには、口をはさまない」
といった態度こそ、知的であるという観点も生まれてきます。
この点で、とても面白いことに、欧米、特にアメリカでは、「知」に対してこれと対極的な考え方をとっています。『日本辺境論』などのベストセラーで有名な内田樹さんが、『ためらいの倫理学』という本のなかで、こんなことを書いています。
当時はユーゴで悲惨な内戦が起こっていた時期なのですが、アメリカの高校生はこの戦争についてはっきり意見を述べる、と聞いた内田さん、こんな指摘をするのです。
《アメリカの高校生だってユーゴの戦争についての知識は私とどっこいどっこいのはずである。それにもかかわらず、彼らはあるいは空爆に決然と賛成し、あるいは決然と反対するらしい。なぜそういうことができるのか。たぶんそれは「よくわからない」ことについても「よくわからない」と言ってはいけないと、彼らが教え込まれているからである。「よくわからない」と言うやつは知性に欠けているとみなしてよいと、教え込まれているからである。》『ためらいの倫理学』内田樹 角川書店
「わからない」ことでもはっきり意見を述べられることが知性である、と考えているわけです。まさしく、『論語』的な知のありようとはまったく逆なのです。
実際、筆者はアメリカ人や、アメリカで子育て経験のある日本人を取材したことがあるのですが、
「自分なりのユニークな意見を持ち、それをきちんと他の人に主張できることが重要」
との考え方で、先生たちが子供たちに接しているそうです。こうした指導の前提には、
「とりあえず自分の意見を持って、他人と議論を闘わせるなかから、より真実に近いものが見えてくる」
という、いわば議論型の「知」のあり方があります。
一方の日本では、ちょっと変わったことをやる園児がいると、すぐに親が呼ばれて、
「なぜ他の子と同じ行動ができないんでしょう、家庭できちんとしつけてますか?」
と言われてしまうことが往々にしてあります。あれこれ言う前に、まずは自分を高めておくことが「知」の要件という考え方であり、これはまさしく『論語』的なのです。
さらに『論語』にはもう一つ、「知」のあり方に関わる重要な教えがあります。少し長くなりますが引用します。
一言でいえば、いずれも「情報の大量入力と選別」こそ重要という指摘に他なりません。これは現代のビジネスにおいても、マーケティングを行うような際、当たり前の考え方と言ってよいでしょう。この指摘に、先ほどの子路への教えを合わせると、
「情報を大量に仕入れ、確実なものと、確実かどうかわからないものをきちんと選別する。そして、確実だと思える情報をベースにして現状認識や未来予測を行う」
という「知」のあり方が浮かびあがってきます。こうした認識の土台を作った上で、「仁」と「勇」を発揮していくわけです。
以上
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