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和の組織の功罪~守屋淳の、ビジネスに生かせる『論語』と『韓非子』(6) ~

日本情報マート

2018.12.17

 うまく機能する組織、成員が幸せになる組織とはどのようなものか。この難問の答えを、まったく正反対の立場にある『論語』と『韓非子』を読み解きながら、守屋淳が導き出していくシリーズです。

1 なぜ劉邦は天下を取れたのか

 さて、ここまで『論語』をベースとした「和の組織」の作り方を見てきました。その要諦を一言であらわすなら、

「お互いに育み合い、生かし合い、諫言(かんげん)し合う人材が、適材適所で動いている」

といった感じになります。では歴史上、本当にそんな組織が存在したのか、といえば、これに近い有名な実例があるのです。今回は、まずそれをご紹介しましょう。

 まず、ここまで取り上げてきた『論語』の主人公である孔子が活躍していたのは春秋時代の末期です。次の戦国時代になると、争乱状態はさらに加速していきますが、紀元前221年には秦が中国を統一しました。この結果、登場したのが有名な秦の始皇帝だったのです。

 ところがこの秦王朝、たったの15年で滅んでしまいます。そして、その後の覇権を争ったのが、司馬遼太郎さんの小説でも有名な項羽と劉邦でした。二人は対極的なキャラクターの持ち主だったといわれています。

 まず項羽は、名門の家の生まれで、戦の天才といわれています。しかし、活躍したのが30歳前後と若かったこともあり、他人を信用して使いこなすことがあまり得意ではありませんでした。

 一方の劉邦は、貧しい家の出で、戦に弱く、負けて逃げまわってばかりでした。しかし、貴賎を問わず相手とすぐ仲良くなってしまうようなコミュニケーション能力と、気前のよさがありました。

 普通、こうしたタイプが戦えば、戦の天才が勝って終わるはずなのですが、結果はその逆となりました。劉邦が勝って、漢王朝を興したのです。

 なぜこうなったのか。まず『史記』という歴史書には、天下を統一した後の、劉邦と部下たちのこんな問答が残されています。

 劉邦が部下にこう切り出した。

「皆のもの、隠さず本音を言って欲しい。わしが天下を取った理由とは何か、項羽が天下を失った理由とは何か」

 部下の高起(こうき)と王陵(おうりょう)がこう答えた。

「陛下は、傲慢な上に人を侮ります。一方の項羽は思いやりに溢れ、人を愛します。しかしながら陛下は、城や領土を部下に攻略させると、気前よく分け与えて独り占めなさいません。ところが項羽は、他人の人徳や才能に嫉妬しがちで、功績を立てた者は退け、賢者には疑心暗鬼になる始末。勝っても部下に報いず、領地は独り占めです。これが天下を失った理由ではないでしょうか」

 すると劉邦は、

「お前ら、一を知って二を知らんな。帷幄(いあく)のなかに謀(はかりごと)をめぐらし千里の外に勝利を決するという点では、わしは張良(ちょうりょう)にかなわない。内政の充実、民生の安定、軍糧の調達、補給路の確保では、わしは蕭何(しょうか)にはかなわない。百万もの大軍を自在に指揮して、勝利をおさめるという点では、わしは韓信(かんしん)にはかなわない。この三人はいずれも傑物といっていい。わしは、その傑物を使いこなすことができた。これこそわしが天下を取った理由だ。項羽には、范増(はんぞう)という傑物がいたが、彼はこの一人すら使いこなせなかった。これが、わしの餌食になった理由だ」『史記』

2 営業をやらせれば、誰にも負けなかったのに……

 この劉邦と臣下たちの問答を、現代の会社でたとえれば、こんな絵柄になります。

 会社を起業して、一部上場企業にまで育て上げた社長さんが、自分の人生を次のように振り返るわけです。

「自分にはたいした才能もなかったが、各ジャンルの素晴らしい専門家たちをうまく使いこなして、組織として力を発揮し、この会社を一部上場企業にまで育てることができた」

 一方、負けた項羽の方は、最後に自死する前に、次のように述べたといわれています。

「兵をあげてから八年、わしは七十余りもの戦闘に加わり、無敵の強さを誇っていまだ敗北したことがない。だから天下の覇権も握ったのだ。そんなわしが、これほど苦しむのは、天がわしを滅ぼそうとしているからなのだ」『史記』

 これも会社でたとえるなら、自分の会社を潰してしまった社長さんが、次のように述懐するようなものでしょう。

「私は営業をやらせれば、誰にも負けたことがなかった。そんな私の会社が潰れてしまったのは、景気のせいに違いない」

 問題は、組織全体として力を発揮できるか否かなのです。いかに希代の天才・項羽といえども、一人の力だけでは、劉邦側の何人もの力を結集した組織力にはかないませんでした。

 こうした実例もあって、「和の組織」は成果のあがる組織の端的な例として、古来考えられるようになったわけです。

 ただし、こうした組織はうまくまわれば確かに大きな成果も生み出しますが、逆に根深いマイナスをいくつか内包している面もあるのです。それは、「儒教的だ」「『論語』的だ」といわれる日本の会社の宿痾(しゅくあ)とも繋がってきます。最後に、その点に触れておきましょう。

 まず、主なマイナス面を箇条書きしてまとめると、以下の通りです。

1)徳の高い人物はそうそういない。今はいても、後々続かなくなる

2)徳を持った人物自体、変節してしまうことがある

3)現場の暴走や、逆にトップの暴走もやめる術がない

4)自分を育んでくれた先輩や上司が悪いことをしても、とがめられなくなる

 これらの根っこにあるのは、

  • 徳を身に付けられるか、身に付け続けられるかは、個人の問題になってしまう
  • 上司と部下の関係が、「徳と信頼」という絆でしか結ばれていない

という問題点なのです。

3 和の組織の問題点

 1)から4)には、それぞれ端的な例があります。まず、

1)徳の高い人物はそうそういない。今はいても、後々続かなくなる

という問題からいいますと、一時期素晴らしい人柄と能力の社長さんがいて、業績もよかったのに、何代かたつうちに「なんでこの人が?」という人物が社長になり、会社がボロボロになるという例は案外珍しくありません。

 実はここに絡むのが、

2)徳を持った人物自体、変節してしまうことがある

の問題でもあるのです。筆者はこんなことを言われたことがあります。

「どんな社長さんでも、60歳を過ぎると、自分の会社を血の繋がった人間に継がせたくなるんだよね。それまで、いくら会社は個人のものじゃないとか、皆のものにするとか言っていても、歳をとると変わるんだ。あれは本能なんだろうね」

 もちろん、血の継承が悪いという話ではまったくありません。しかし、人間歳をとってくると、考えが往々にして変わってしまうことがあるのです。

 そして、血の継承が必ずしも有徳者を呼ばないことは確かでしょう。さらに、社長を続けているうちに、権力の居心地のよさに目覚めてしまい、院政を敷いて会社をおかしくした、などという例もよく見るものです。

 さらにこれが、

3)現場の暴走をやめる術がない

の問題にも繋がってきます。

 もともと統治がゆるい「和の組織」において、「どうせ、後継ぎのボンボンだから、わからないだろう」「現場に任せきりだから報告なんていいだろう」と下から思われているような社長がいた場合、現場の暴走がやめられなくなってしまうのです。特に危機管理の際にこれが起こると、目も当てられません。

 そして、最後に、

4)自分を育んでくれた先輩や上司が悪いことをしても、とがめられなくなる

に関しては、粉飾決算が端的な例になります。実はこの粉飾決算、『論語』の観点からいえば、逮捕された社員は「いい人」という評価になるかもしれないのです。なぜなら、先輩の失敗を隠して、自分で処理しようとして罪を被った忠誠心溢れる人物になるわけですから……。

 ただし、もちろんそれが法律的に許されるはずもなく、会社の信用を大きく毀損する結果になってしまったのです。

 そして、こうした問題への解決として編み出されたのが、法家の思想でした。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年12月17日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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守屋 淳[もりや あつし]
1965年 東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
大手書店勤務を経て、現在は中国古典、主に『孫子』『論語』『老子』『荘子』などの知恵を現代にどのように活かすかをテーマとした、執筆や企業での研修・講演を行う。
中小から上場企業までの社長や第一線のビジネスマン、キャリア官僚等との勉強会を多数行い、常に最新の知見、情報を取り入れている。単なる古典の解説にとどまらず、時代背景や、現代の事例、エピソードを多々交えながらのスピード感ある飽きさせない講義に定評がある。
『最高の戦略教科書 孫子』(日本経済新聞出版社)は12万部、『現代語訳 論語と算盤』(ちくま新書)は11万部を超えるロングセラーに。『衆知』(PHP研究所)に「『今』に活かす中国古典」を連載中。

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