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「権力」をいかに握り、使いこなすのか~守屋淳の、ビジネスに生かせる『論語』と『韓非子』(8)

日本情報マート

2018.12.24

 うまく機能する組織、成員が幸せになる組織とはどのようなものか。この難問の答えを、まったく正反対の立場にある『論語』と『韓非子』を読み解きながら、守屋淳が導き出していくシリーズです。

1 そもそも「権力」とは何か

 法やルールを守らせるためには「権力」が必要であると『韓非子』では指摘していると、前回記しました。

 では、そもそも「権力」とは何でしょう。案外わかったような、わからないような言葉なのですが、面白いことに、兵法書の『孫子』にその定義をズバリ記したような一節があります。

  • 善く戦う者は、人を致して人に致されず(戦上手は、相手をこちらの意のままに操り、こちらは相手の意のままにならない)『孫子』

 つまり、こちらは相手を自由にコントロールできるが、相手の意のままにはならずに済む。この状態が、「権力」を握った状態になるわけです。

 ちなみに『孫子』の場合、これは「権力」の要件を描いたものではなく、「主導権」の要件を述べたところなのです。つまり、平時における「権力」と、戦時における「主導権」とはかなり似た概念なのです。

 では、どうやって相手を意のままにコントロールするのか。『孫子』にはこんな手段が記されています。

  • よく敵人をして自ら至らしむるは、これを利すればなり。よく敵人をして至るを得ざらしむるは、これを害すればなり(敵に作戦行動を起こさせるためには、そうすれば有利だと思い込ませなければならない。敵に作戦行動を思い止まらせるためには、そうすれば(作戦行動を起こせば)不利だと思い込ませることだ)『孫子』

 「利」と「害」――これはアメと鞭、エサと毒と言い換えてもいいでしょう――を二本の操縦かんのようにして操れ、というのです。では「権力」を駆使するための「利」と「害」とは何か。歴史的にいえば、次の要因があげられます。

  • 軍事力・裁判権:「利」言うことを聞けば生かしておくよ/「害」聞かないと殺しちゃうよ
  • 財力:「利」言うことを聞けばお金をあげるよ/「害」聞かないとあげないよ
  • 人事権:「利」言うことを聞けば出世させるよ/「害」聞かないと左遷・クビだよ

 他にも「依存関係(言うこと聞かないと依存させないよ)」「情報格差(言うこと聞かないと教えてあげないよ)」など、さまざまなパターンがありますが、こういった要因を源泉にして、相手をコントロールするのが「権力」の実相なのです。

 こうした「権力」行使の端的な実例に、民主党が政権をとったときに唱えた「政治家主導」があります。そのとき、官僚たちを操縦する手法としていわれていたのが、次の内容でした。

「金の流れと人事を握れ」

 まさしく「財力」と「人事権」という権力の源泉を握ってコントロールしよう、という話だったわけです。

 こうした「権力」を駆使して、

「法やルールを守らない者は厳罰に処す・殺す」

という形を作ることが、まず『韓非子』にとって組織をまとめる大前提としてありました。

2 権力関係をいかに見抜き、利用するか

 こうした「権力」や、それをもとにした「権力関係」は、濃淡はありますが、さまざまな組織や人間関係で見られるものです。卑近な話でいいますと、こんな例があります。

 昔よく、

「戦後、家庭におけるお父さんの権威が甚だしく低下した」

といわれていました。今では当たり前過ぎて話題にもあがらなくなった感もありますが、ではなぜそうなったのか。ユニークな理由として、「給料が銀行振り込みになったから」という説があります。

 もちろん、どこまで本気かわからないような内容ですが、「権力」の源泉の問題を考える限り、これはあながち間違いとは言い切れない面があります。

 もし給料が手渡しであるならば、月に一回お父さんたちは、

「自分が『財力』という力の源泉を握っている」

と、自分の権力を家族に示すことができるわけです。

 ところが銀行振り込みになると、そんな機会はなくなります。そうなると、専業主婦の妻も子供も「お金は勝手に口座に振り込まれるもの」と考えるようになってもおかしくありません。実際、世の妻のなかには、自分の夫のことを「ATM」と揶揄(やゆ)して呼んでいる人もいたりするわけです……。

 さらにもう一つ、ビジネスでこんな例があります。

 筆者が中国で大成功をおさめたビジネスマンに取材したとき、こんなビジネスの成功のコツを聞いたことがありました。

「どんなビジネスでも、相手から信用されたいと思ったら、まずこちらが信用してかかるのが大前提。こちらが信用もしていないのに、相手から信用されようなんて虫のいい話は通用しません。
 だから、まずビジネスのパートナーに対しては信用してかかるのですが、しかし同時に、裏切られたときの保険をかけておかないと商売は始まりません。
 ある人と商売を始めようと思ったら、その人の知り合いで、その人を抑えられる人間を探しておくわけです。例えば、ある地区の消防署長と仲良くなって一緒に商売を始めようと思ったら、さらに偉い消防署長と知り合っておきます。その上で、その人を抑えることの保証をとってから商売を始めるわけです。
 信用はするけれども、保険はかけておく、この二枚腰が中国のビジネスでは絶対に必要になるのです」

 権力関係をいかに見抜き、それをうまく使って保険をかけておくことが重要かというわけです。さらに、こうした手法は――ちょっと違った切り口になりますが――企業間提携においても使われることがあります。ドラッカーにこんな指摘があるのです。

《「最後に、意見の不一致をいかに解決するかについて、事前に合意しておかなければならない。」
 企業間提携においては、トップ・ダウンの指示は機能しない。最善の方法は、紛争が起こる前に、提携の当事者双方が知っており、尊敬しており、かつその裁定が最終のものとして受け入れられるような調停者を決めておくことである》『未来企業―生き残る組織の条件』ピーター・F・ドラッカー 上田惇生、田代正美、佐々木実智男訳 ダイヤモンド社

 権力や権威を背景とした関係をいかに見抜き、また、いかに利用するかが人や組織の生き残りには欠かせないわけです。

3 信賞必罰

 ただし、厳しい罰によって、組織が一つになったとしても、それでは単にまとまっただけ。「成果をあげる組織」にはなりません。この状態に、「成果を出せる仕組み」をさらに組み込んでいく必要があります。

 その鍵となるのが「信賞必罰」として知られる手法でした。

  • 明主の導(よ)りてその臣を制する所の者は、二柄(にへい)のみ。二柄とは刑徳なり。何をか刑徳と謂(い)う。曰く、殺戮これを刑と謂い、慶賞これを徳と謂う。人臣たる者は、誅罰を畏(おそ)れて慶賞を利とす。故に人主、自らその刑徳を用うれば、則ち群臣その威を畏れてその利に帰す。故に世の姦臣(かんしん)は然らず。悪(にく)む所は則ち能くこれをその主に得てこれを罪し、愛する所は則ち能くこれをその主に得てこれを賞す(名君は、二本の操縦かんによって臣下を統制する。二本の操縦かんとは刑と徳のことだ。では、刑と徳とは何か。殺戮を刑といい、賞を徳という。部下というのは罰を恐れ賞を喜ぶのが常である。だからトップが罰と賞との二つの権限を握っていれば、震えあがらせたり、手懐けたりして、意のままに操ることができる。腹黒い部下は、そこにつけこんでくる。気に入らない相手は、トップになり代わって自分が罰し、気に入った相手には、やはりトップになり代わって自分で賞を与える)『韓非子』

 簡単にいいますと、

  • 主に成果をあげさせるための手段――信賞
  • 主に組織をまとめるための手段――必罰
の二つを駆使して、一つに団結し、かつ成果もあげられる組織を作り上げようとしたのです。さらに『韓非子』は、この手法を徹底するために、時代を2000年以上先駆けたある仕組みを導入しようとしました。(続)

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年12月24日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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守屋 淳[もりや あつし]
1965年 東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
大手書店勤務を経て、現在は中国古典、主に『孫子』『論語』『老子』『荘子』などの知恵を現代にどのように活かすかをテーマとした、執筆や企業での研修・講演を行う。
中小から上場企業までの社長や第一線のビジネスマン、キャリア官僚等との勉強会を多数行い、常に最新の知見、情報を取り入れている。単なる古典の解説にとどまらず、時代背景や、現代の事例、エピソードを多々交えながらのスピード感ある飽きさせない講義に定評がある。
『最高の戦略教科書 孫子』(日本経済新聞出版社)は12万部、『現代語訳 論語と算盤』(ちくま新書)は11万部を超えるロングセラーに。『衆知』(PHP研究所)に「『今』に活かす中国古典」を連載中。

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