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今から2000年以上前の業績評価制度~守屋淳の、ビジネスに生かせる『論語』と『韓非子』(9)~

日本情報マート

2018.12.27

 うまく機能する組織、成員が幸せになる組織とはどのようなものか。この難問の答えを、まったく正反対の立場にある『論語』と『韓非子』を読み解きながら、守屋淳が導き出していくシリーズです。

1 刑名参同

 「信賞必罰」の徹底により、一つにきちんとまとまっていて、かつ成果のあがる組織を『韓非子』は作り上げようとしました。さらに、これを徹底するために、時代を2000年以上も先駆けた、ある手法を描いてみせます。少し長い文章ですが、まず次をお読みください。

  • 人主(じんしゅ)、まさに姦を禁ぜんと欲せば則ち刑名を審合すとは、言と事なり。人臣たる者は陳(の)べて言い、君はその言を以ってこれに授け、専らその事を以ってその功を責む。功その事に当たり、事その言に当たらば則ち賞し、功その事に当たらざれば則ち罰す。故に群臣その言大にして功小なる者は則ち罰す。小功を罰するに非ず。功、名に当たらざるを罰す。群臣その言小にして功大なる者もまた罰す。大功を説ばざるに非ず。以爲(おもえ)らく名に当たらざるは、害、大功あるよりも甚だしと、故に罰す
    (部下の悪事を防ごうとするならば、トップは部下に対して「刑」と「名」、すなわち申告と実績の一致を求めなければならない。まず部下がこれだけのことをしますと申告する。そこでトップは、その申告にもとづいて仕事を与え、その仕事にふさわしい実績を求める。実績が仕事にふさわしく、それが申告と一致すれば、賞を与える。逆に、実績が仕事にふさわしくなく、申告と一致しなければ、罰を加える。これだけはやりますと申告しながら、それだけの実績をあげなかった者は、罰する。実績が小さいからではない。申告と一致しないから罰するのだ。これだけしかやれませんと申告しておきながら、それ以上の実績をあげた者も罰する。なぜか。むろん、実績の大きいことを喜ばないわけではない。だがそれよりも、申告と実績の不一致によるマイナスの方がはるかに大きいからだ)『韓非子』

 このように部下の申告と実績をつきあわせて、一致しているかどうかによって賞罰を下す方法のことを「刑名参同」と言います。

 まさしく現代における「目標管理制度」や「業績評価制度」を先取りした制度が、古代の中国では唱えられていたわけです。

 ただし、お読みになって頂ければわかるように、まったく同じというわけではありません。一点大きな違いがあります。現代的な目から見ても、

「これだけはやりますと申告しながら、それだけの実績をあげなかった者は、罰する」

というのは、よくわかります。実際、少なからぬ数の会社員の方は、こうしたノルマ未達を避けようとしている面があるわけです。

 しかし、

「これだけしかやれませんと申告しておきながら、それ以上の実績をあげた者も罰する」

 これは、現代的にいえば、わけがわからない指摘でしょう。1000万円の売り上げ目標を立てていたのに、1200万円の売り上げを達成して喜んでいたら、減給や降格させられてしまうようなものですから……。

 なぜ、こんな話になってしまうのか。ここには、性悪説――つまり、人を信用しないでうまくまわる組織を作ろうとすることの問題点が端的にあらわれています。

2 部下の裁量を極力排除する

 前にもご紹介したように、『韓非子』という古典には、

  • 人主の患いは人を信ずるに在り。人を信ずれば則ち人に制せらる(君主がしていけないことは、相手を頭から信用してかかることである。そんなことをすれば相手からいいように利用されてしまう)『韓非子』
  • 上下(しょうか)は一日に百戦す。下はその私を匿(かく)して用(も)ってその上を試し、上は度量を操りて以ってその下を割く(君主と臣下とは、一日に百回も戦っている。臣下は下心を隠して君主の出方をうかがい、君主は法を盾に取って臣下の結びつきを断ち切ろうとする)『韓非子』

といった記述があります。つまり、そこには「部下は裏切るもの」「人は信用できないもの」という大前提がありました。

 韓非の活躍した戦国時代の末期は、戦乱が行くところまで行きついたような時代であり、実際に下剋上や内乱が絶えない状況でした。ですから、これは仕方のないことなのですが、しかし、この前提はどうしても歪みを生んでしまうのです。角度を変えて言えば、

「部下からの裏切りを防ぐためには、決めたこと、約束したこと、言ったことの徹底的な遵守を求め、部下の裁量を極力排除する」

という条件と、

「組織として成果をあげていく」

という条件とが矛盾してしまった場合、一般の企業であれば後者に比重を置くわけです。言ったこと、決まったことをピンポイントで守るというだけでは、複雑な現実に対処し切れませんし、チャレンジ精神や前向きな気持ちというのは出にくいからです。

 しかし『韓非子』の場合、裏切られれば、それは自分の死を意味するわけですから、時代状況からいって前者に比重を置くしかありませんでした。このため次のような一節が続きます。

「これだけしかやれませんと申告しておきながら、それ以上の実績をあげた者も罰する。なぜか。むろん、実績の大きいことを喜ばないわけではない。だがそれよりも、申告と実績の不一致によるマイナスの方がはるかに大きいからだ」

 他人が基本的には信用できない以上、その裏切り防止が最優先にならざるを得ない――そんな歪んだ状況が、現代との違いを生んでいるわけです。

3 自己申告による目標設定

 さらに、『韓非子』が「刑名参同」を導入した理由として、もう一つ次のような条件をあげることもできます。

「法や権力によって人々を縛り、しかも賞や罰を与える制度は、権力者や責任者が怨まれやすいので、それを回避する方策が必要となる」

 もちろん、賞をもらって上を怨む人はいないでしょう。しかし、問題は罰の方です。例えば、権力者が恣意的に組織や部下の目標を設定し、それを下に強制してやらせたとします。しかし残念ながらそれは達成されず、皆が罰を与えられたとしましょう。こうなると、次のように考える人が出てもおかしくありません。

「上が勝手に押し付けてきたノルマで、こんなヒドイ目にあわされた。あの権力者は許せない、引きずり落としてやる」

 現代であれば、こういった状況が続けば普通は転職という話になるでしょうが、下剋上や内乱が当たり前だった古代ですと、怨みのある権力者へのクーデターや暗殺などの元凶になってしまうわけです。

 当然、上に立つ人間としては、こうした事態は最も避けたいわけです。では、どうするのか。そこで『韓非子』が考えたのは、目標を本人に決めさせる手法なのです。

「だって、その目標は自分で決めたものだよね。それを達成できないというのは、自分の責任でしょ。誰も怨めないよね」

 こういうロジックで、権力者へ怨みを集中するのを避けようとしたと捉えることができるのです。

 実は、『韓非子』という古典は、老荘思想として知られる『老子』という古典の影響をかなり受けていました。その『老子』には、こんな言葉があります。

  • 太上は下これあるを知る。その次は親しみてこれを誉(ほ)む。その次はこれを畏(おそ)る。その下はこれを侮る(最も理想的な指導者は、部下から存在すら意識されない。部下から敬愛される指導者はそれよりも一段劣る。これよりさらに劣るのは、部下から恐れられる指導者。最低なのは部下から軽蔑される指導者だ)『老子』

 そして『韓非子』にも、こんな言葉があります。

  • 人主の道は、静退をもって宝となす(君主の道というのは、静かに身を退けて状況をうかがうこと)『韓非子』

 いわんとすることは、いずれも同じです。権力を持っていて、それをそのまま揮(ふる)っていれば、怨みをかって自分の身は安泰とはいえません。「信賞必罰」や「刑名参同」といったシステムを作って稼働させ、あくまで自分は関わりがないようなフリをして権力を揮い、組織を意のままに操るのが賢い君主のやり方になるわけです。

 君主はこうした手法を駆使しつつ、部下を裏切らせず、かつ、成果のあがる組織を作っていくわけですが、しかし他人を信用しない組織というのは、どうしてもほころびが出ます。次回はそのほころびについて触れたいと思います。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年12月27日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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守屋 淳[もりや あつし]
1965年 東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
大手書店勤務を経て、現在は中国古典、主に『孫子』『論語』『老子』『荘子』などの知恵を現代にどのように活かすかをテーマとした、執筆や企業での研修・講演を行う。
中小から上場企業までの社長や第一線のビジネスマン、キャリア官僚等との勉強会を多数行い、常に最新の知見、情報を取り入れている。単なる古典の解説にとどまらず、時代背景や、現代の事例、エピソードを多々交えながらのスピード感ある飽きさせない講義に定評がある。
『最高の戦略教科書 孫子』(日本経済新聞出版社)は12万部、『現代語訳 論語と算盤』(ちくま新書)は11万部を超えるロングセラーに。『衆知』(PHP研究所)に「『今』に活かす中国古典」を連載中。

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