
第23回 福岡県商工部新事業支援課 山岸 勇太氏/森若幸次郎(J...
2021.08.31
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うまく機能する組織、成員が幸せになる組織とはどのようなものか。この難問の答えを、まったく正反対の立場にある『論語』と『韓非子』を読み解きながら、守屋淳が導き出していくシリーズです。
「信賞必罰」の徹底により、一つにきちんとまとまっていて、かつ成果のあがる組織を『韓非子』は作り上げようとしました。さらに、これを徹底するために、時代を2000年以上も先駆けた、ある手法を描いてみせます。少し長い文章ですが、まず次をお読みください。
このように部下の申告と実績をつきあわせて、一致しているかどうかによって賞罰を下す方法のことを「刑名参同」と言います。
まさしく現代における「目標管理制度」や「業績評価制度」を先取りした制度が、古代の中国では唱えられていたわけです。
ただし、お読みになって頂ければわかるように、まったく同じというわけではありません。一点大きな違いがあります。現代的な目から見ても、
「これだけはやりますと申告しながら、それだけの実績をあげなかった者は、罰する」
というのは、よくわかります。実際、少なからぬ数の会社員の方は、こうしたノルマ未達を避けようとしている面があるわけです。
しかし、
「これだけしかやれませんと申告しておきながら、それ以上の実績をあげた者も罰する」
これは、現代的にいえば、わけがわからない指摘でしょう。1000万円の売り上げ目標を立てていたのに、1200万円の売り上げを達成して喜んでいたら、減給や降格させられてしまうようなものですから……。
なぜ、こんな話になってしまうのか。ここには、性悪説――つまり、人を信用しないでうまくまわる組織を作ろうとすることの問題点が端的にあらわれています。
前にもご紹介したように、『韓非子』という古典には、
といった記述があります。つまり、そこには「部下は裏切るもの」「人は信用できないもの」という大前提がありました。
韓非の活躍した戦国時代の末期は、戦乱が行くところまで行きついたような時代であり、実際に下剋上や内乱が絶えない状況でした。ですから、これは仕方のないことなのですが、しかし、この前提はどうしても歪みを生んでしまうのです。角度を変えて言えば、
「部下からの裏切りを防ぐためには、決めたこと、約束したこと、言ったことの徹底的な遵守を求め、部下の裁量を極力排除する」
という条件と、
「組織として成果をあげていく」
という条件とが矛盾してしまった場合、一般の企業であれば後者に比重を置くわけです。言ったこと、決まったことをピンポイントで守るというだけでは、複雑な現実に対処し切れませんし、チャレンジ精神や前向きな気持ちというのは出にくいからです。
しかし『韓非子』の場合、裏切られれば、それは自分の死を意味するわけですから、時代状況からいって前者に比重を置くしかありませんでした。このため次のような一節が続きます。
「これだけしかやれませんと申告しておきながら、それ以上の実績をあげた者も罰する。なぜか。むろん、実績の大きいことを喜ばないわけではない。だがそれよりも、申告と実績の不一致によるマイナスの方がはるかに大きいからだ」
他人が基本的には信用できない以上、その裏切り防止が最優先にならざるを得ない――そんな歪んだ状況が、現代との違いを生んでいるわけです。
さらに、『韓非子』が「刑名参同」を導入した理由として、もう一つ次のような条件をあげることもできます。
「法や権力によって人々を縛り、しかも賞や罰を与える制度は、権力者や責任者が怨まれやすいので、それを回避する方策が必要となる」
もちろん、賞をもらって上を怨む人はいないでしょう。しかし、問題は罰の方です。例えば、権力者が恣意的に組織や部下の目標を設定し、それを下に強制してやらせたとします。しかし残念ながらそれは達成されず、皆が罰を与えられたとしましょう。こうなると、次のように考える人が出てもおかしくありません。
「上が勝手に押し付けてきたノルマで、こんなヒドイ目にあわされた。あの権力者は許せない、引きずり落としてやる」
現代であれば、こういった状況が続けば普通は転職という話になるでしょうが、下剋上や内乱が当たり前だった古代ですと、怨みのある権力者へのクーデターや暗殺などの元凶になってしまうわけです。
当然、上に立つ人間としては、こうした事態は最も避けたいわけです。では、どうするのか。そこで『韓非子』が考えたのは、目標を本人に決めさせる手法なのです。
「だって、その目標は自分で決めたものだよね。それを達成できないというのは、自分の責任でしょ。誰も怨めないよね」
こういうロジックで、権力者へ怨みを集中するのを避けようとしたと捉えることができるのです。
実は、『韓非子』という古典は、老荘思想として知られる『老子』という古典の影響をかなり受けていました。その『老子』には、こんな言葉があります。
そして『韓非子』にも、こんな言葉があります。
いわんとすることは、いずれも同じです。権力を持っていて、それをそのまま揮(ふる)っていれば、怨みをかって自分の身は安泰とはいえません。「信賞必罰」や「刑名参同」といったシステムを作って稼働させ、あくまで自分は関わりがないようなフリをして権力を揮い、組織を意のままに操るのが賢い君主のやり方になるわけです。
君主はこうした手法を駆使しつつ、部下を裏切らせず、かつ、成果のあがる組織を作っていくわけですが、しかし他人を信用しない組織というのは、どうしてもほころびが出ます。次回はそのほころびについて触れたいと思います。
以上
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