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権力闘争という難問~守屋淳の、ビジネスに生かせる『論語』と『韓非子』(10)~

日本情報マート

2018.12.31

 うまく機能する組織、成員が幸せになる組織とはどのようなものか。この難問の答えを、まったく正反対の立場にある『論語』と『韓非子』を読み解きながら、守屋淳が導き出していくシリーズです。

1 犬に爪と牙を与えたら

 『韓非子』は、組織を一つにまとめるために法や権力を武器とし、さらに成果をあげる組織を作るために信賞必罰や、刑名参同などの仕組みを作ったということを前回まで述べました。

 これらは、考え抜かれた素晴らしい手法の数々なのですが、一つ大きな問題を抱え込むことにもなりました。それが「権力闘争」を呼び込んでしまうことなのです。

  • 権勢は以って人に借すべからず。上、その一を失わば、臣以って百をなす(権限を部下に貸し与えてはならない。トップが失った一のものを、部下は百倍にもして使う)『韓非子』
  • それ虎のよく狗(いぬ)を服する所以(ゆえん)の者は、爪牙(そうが)なり。虎をしてその爪牙を釈(す)てしめて、狗をしてこれを用いしむれば、則ち虎は反(かえ)って狗に服せん。人主なる者は、刑徳を以って臣を制する者なり。今、人に君たる者、その刑徳を釈てて、臣をしてこれを用いしむれば、則ち君は反って臣に制せられん(虎が犬を屈服させられるのは、爪や牙を持っているからだ。虎に爪や牙を捨てさせて、犬に用いさせれば、反対に虎が犬に屈服するハメになるだろう。君主という存在は、「刑罰」と「恩賞」で臣下を統制する者だ。いま、人の上に立つ君主が、その「刑罰」と「恩賞」という武器を捨て去って、臣下に与えてしまったら、君主がかえって臣下に統制されるハメになるだろう)『韓非子』

 「刑罰」と「恩賞」は、それを握った方が権力を持ち得るわけですから、弱いはずの臣下でも、もしそれを握れたなら、虎の爪と牙を持った犬のように力関係を逆転できるわけです。そうなると、君主はいかにそれを手離さないかに腐心し、臣下はいかにうまくそれを掠(かす)め取るかを考えるという、キツネと狸の化かし合いのような事態が始まります……。

 では、臣下の方はいったいどうやって権力を掠め取ろうとするのか。

  • 姦臣は、皆人主の心に順(したが)いて、以って親幸の勢を取らんと欲する者なり。ここを持って主に善する所あらば、臣従いてこれを誉(ほ)め、主に憎む所あらば、臣因ってこれを毀(そし)る(腹黒い臣下は、君主の心に取り入って、寵愛を勝ち取ろうとする。だから君主が気に入っているものであれば誉め称え、君主が気に入らないものであれば罵るのである)『韓非子』

 こうやってお気に入りとなったらどうするのか。よくあるのはこんな手です。

  • 田常、上は爵禄(しゃくろく)を請いて、これを群臣に行い、下は斗斛(とこく)を大にして百姓に施す(斉の国の田常という貴族は、君主のお気に入りだったことを利用して爵位や俸禄をたっぷりもらうと、他の家臣たちに気前よく分け与え、一般庶民には穀物をわざと大きな升で貸し出し、返してもらうときは小さな升を使うといったやり方で恩恵を施した)『韓非子』

 会社でたとえるなら、オーナーや社長のお気に入りとなって交際費などをたっぷり使えるようにしてもらった役員が、社内接待で自分の派閥を広げ、オーナーや社長の追い落としを謀るといった形とそっくり同じになります。

 さらに、次のような口車で権力の源泉を奪い取ってしまうという方法もあります。

  • 子罕(しかん)、宋君に謂いて曰く、「それ慶賞賜与(しよ)は、民の喜ぶ所なり。君みずからこれを行え。殺戮刑罰は、民の悪(にく)む所なり。臣請うこれに当たらん」。ここにおいて宋君刑を失いて、子罕これを用う。ゆえに宋君は劫(おびや)かさる(宋の国の子罕という貴族は、宋の君主にこう言った。「褒章や賜与というのは、民の喜ぶものですから、君主みずからお与えください。殺戮や刑罰というのは民の嫌がるものですから、私がこれを担当しましょう」。そこで宋の君主は刑罰の権限を子罕に与えた。その結果、宋の君主は子罕に脅かされることとなった)『韓非子』

 筆者もサラリーマンを10年やっていたので経験がありますが、査定のときに部下に悪い結果を伝えるのは誰しも嫌なものです。そうした心理をついて、刑罰の権限を取り上げてしまう形になるわけです。

 では、こうした動きに君主はどう対抗していけばよいのか。話はどんどんときな臭くなっていきます……

2 どのように真実を見抜くか

 もちろん家臣や部下のなかにも、権力奪取を狙う腹黒い人物もいれば、本当にこちらに忠誠を尽くそうとする人物もいるわけです。ただしそれは、表の態度や言葉だけではわかりません。そこで『韓非子』はこう指摘します。

  • 聴くに爵を以ってして、参験を待たず、一人を用いて門戸となす者は、亡ぶべきなり(相手の地位にこだわって、さまざまな情報を突き合わせず、寵臣一人だけを情報源としている。このような君主はわが身を滅ぼす)『韓非子』
  • 君の明らかなる所以の者は、兼聴すればなり。その暗き所以の者は偏信すればなり(明君の明君たるゆえんは、広く臣下の意見に耳を傾けることであり、暗君の暗君たるゆえんは、お気に入りの臣下の言葉だけしか信じないことである)『貞観政要』

 後者は『貞観政要』という、日本でもよく帝王学のテキストとして使われる古典からの引用ですが、つまり部下たちの発言を突き合わせて真実を見抜けと言っているわけです。お気に入りの発言ばかり信じていると、そのお気に入りが実は腹の黒い人物だった場合、やがては権力を奪われてしまうよというわけです。会社の社内抗争でも、「まさか、目をかけていたお前に裏切られるとは」といったセリフを吐いて追い落とされる権力者は少なくなかったりします。

 では、部下の発言を突き合わせればうまく部下たちの本性が見抜けるかといえば、これだけではダメなのです。なぜなら、すべての側近たちが口裏を合わせて、君主を欺いてくることも考えられるからです。ではどうするか。

3 トップには七つの「術」が必要

  • 七術とは、一に曰く、衆端を参観す。二に曰く、必罰、威を明らかにす。三に曰く、信賞、能を尽くさしむ。四に曰く、一に聴きて下(しも)を責む。五に曰く、疑詔詭使(ぎしょうきし)す。六に曰く、知を挟(さしはさ)みて問う。七に曰く、言を倒(さかさ)にして事を反す『韓非子』

一、部下の言い分をお互いに照合して事実を確かめること
二、法を犯した者は必ず罰して威信を確立すること
三、功績を立てた者には必ず賞を与えて、やる気を起こさせること
四、部下の言葉に注意し、発言に責任を持たせること
五、わざと疑わしい命令を出し、思いもよらぬことを尋ねてみること
六、知っているのに知らないふりをして尋ねてみること
七、白を黒と言い、ないことをあったことにして相手を試してみること

 ここで見るべきは、五以下の条。部下にさまざまな揺さぶりをかけて、本当のことを言っているのか、何が本当のことなのかを見抜いていけ、というわけです。権力闘争というのは、いったん始まると、本当に泥沼になっていくんですね……

 しかも、話はここで終わりません。たとえ部下の本性を見抜けたとしても、次のような問題が起こる可能性があるからです。

4 トップが警戒すべき六つの「微」

  • 六微とは、一に曰く、権、借して下に在り。二に曰く、利、異にして外に借る。三に曰く、似類に託す。四に曰く、利害、反するにあり。五に曰く、参疑、内に争う。六に曰く、敵国の廃置なり『韓非子』

一、権限を部下に貸し与えること
二、部下が外部の力を借りること
三、部下が誰かを陥れるためトップを騙そうとすること
四、部下が利害の対立につけこむこと
五、内部に勢力争いが起こること
六、敵の謀略や干渉に乗せられること

 注目すべきは二の指摘。権力の源泉は、組織内部で調達できなければ、外部から調達することも可能になるのです。会社でいえば、社内抗争に敗れた一派が、外部のファンドの力を借りて、会社の乗っ取りを謀るような構図でしょう。

 結局、「人が信用できない」という前提でよい組織を作ろうとするのは、どうしてもどこかに無理が生じざるを得ないのです。さらに、こうした『韓非子』流の統治法は、もう一つの大きなマイナス面を持っていました。それは現代にも通じる難問であり、古代においては秦王朝を崩壊させる原因にもなっていったのです。(続)

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年12月31日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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守屋 淳[もりや あつし]
1965年 東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
大手書店勤務を経て、現在は中国古典、主に『孫子』『論語』『老子』『荘子』などの知恵を現代にどのように活かすかをテーマとした、執筆や企業での研修・講演を行う。
中小から上場企業までの社長や第一線のビジネスマン、キャリア官僚等との勉強会を多数行い、常に最新の知見、情報を取り入れている。単なる古典の解説にとどまらず、時代背景や、現代の事例、エピソードを多々交えながらのスピード感ある飽きさせない講義に定評がある。
『最高の戦略教科書 孫子』(日本経済新聞出版社)は12万部、『現代語訳 論語と算盤』(ちくま新書)は11万部を超えるロングセラーに。『衆知』(PHP研究所)に「『今』に活かす中国古典」を連載中。

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