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【後編】第3回 LINE株式会社 Developer Relations室 室長 砂金信一郎氏/森若幸次郎(John Kojiro Moriwaka)氏によるイノベーションフィロソフィー

日本情報マート

2019.08.26

かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し「イノベーション哲学」を体系化し、皆様のお役に立ちたいと思います。

今回ご登場していただきましたのは、数々のイベントで登壇し、LINEの魅力を国内外で広く発信している「LINE株式会社」のプラットフォームエバンジェリスト、砂金(いさご)信一郎氏(以下インタビューでは「砂金」)です(以下の内容は、インタビューした時点のものとなります)。前後編に分けてお送りします。今回は後編です。前編はこちらからご確認ください!

8 少なくとも、「自分が楽しめるフィールド」は自分で作っている(砂金)

John

砂金さんは、規模の大きな組織の中でとても目立つ存在の方だと思います。そうすると、失礼ですが、砂金さんの事を大好きな人とアンチの人と、両方いらっしゃるのではないかとも思います。賛成派と反対派、という感じかもしれません。そうした中で、どのようなコミュニケーションを取られているのでしょうか?

砂金

おそらく僕の個人的なスキルの1つだと思いますが、僕は、人にあまり嫌われにくいという特性があります。逆に言えば、「ものすごく(僕の)ファンです」という人が多いかというと、超一流のロックスター的な方々に比べれば、そうした「とんがり感」はないかもしれません。ただし、人に嫌われないというのは、1つ特性としてあるのかなと思っています。

僕自身は結構いい加減な人生を送っていて、いい加減にいろいろなことをやっているのですが、困っている人たちの課題解決を、割と親身にするほうかもしれません。課題解決できないときは「課題解決はできないですが、きっとあなたはこういうことで困っているのですね」というように、課題を整理して分解する。これは、僕が過去に身に付けてきたスキルですので、そういうことはずっとやってきたかなと思います。

John

邪魔してくるような人はいないということでしょうか?

砂金

人間的にはいないです。ただ、環境といいますか、例えば私が昔、推進していたクラウドビジネスではよくありましたね。クラウドビジネスは、お客様からの支払がサブスクリプション(月次払い)になるので、ライセンスの売上をプロジェクトの初期に大きく立てたい営業担当者からすると、見込んでいた売上を短期的には大きく失うことになります。そうなると、味方だと思っていた営業担当者から「せっかくここに2億円のビジネスあるのに、(砂金が)クラウドだったら安くできると言うから200万円になってしまった。どうしてくれるんだ」と文句を言われたりすることはありました。

ただ、そうした状況は、その後サティア・ナデラがCEOになったことで大きく変わりました。目の前の利益を追い求めるライセンス販売から、お客様の成功にコミットするクラウドに事業を大きく転換し、マイクロソフトは大きな成功を収めています。ライセンス販売に依存していた営業担当の方々の態度も、そのタイミングでだいぶ変わりましたね。

John

そういうときは、相手も一生懸命やっておられると思いますし、砂金さんご自身も間違ったことをしているわけじゃないじゃないですか。その場合、気持ちの整理はどのようにされていたのでしょうか?

砂金

正直に言えば、気持ちが萎えることはあります。ただ、皆、悪意を持ってやっているわけではありません。それぞれが皆、一生懸命にやっているのです。ですので、先ほどの話を例に挙げれば、「この人はなぜ目の前の2億円の売り上げに固執するのか」ということを考えて、その案件の影響で今期予算の達成が難しくなったということなのであれば、「他の案件を一緒にやりましょう」と言って課題解決してきたつもりです。

John

砂金さんは今まで、本社が外国の大企業でお仕事されていることが多いと思いますが、そこで自由に振る舞うとは、どのようなことなのでしょうか?

また、外国の会社を日本に持ってきた場合のカルチャーの作り方や、日本人のいい部下の集め方などに関して、アドバイスなどはありますか?

砂金

まず、基本的に外資系はシンプルで、結果さえ出していれば比較的自由にしていられます。与えられた売上などのKPIをしっかり達成していて、「達成しているので、あとは好きにしていいですよね」ということを何回か繰り返していると、信頼とともに自分の自由度は高まっていきます。

また、僕はマイクロソフトを退職する前のタイミングで、「これからの日本でのマイクロソフトを強くしていくには、もっと外部から人をいれなければならない」ということで、外部から人を採用するための特殊チームに召集されました。なぜ僕が呼ばれたかというと、エバンジェリストとしてさまざまな活動をしていく中で、外部にいらっしゃるキラキラした能力の高い人と一緒にお仕事をする機会が多くて、そういう人たちを一人ずつ口説いて仲間にしていったからだと思います。ある方が、「砂金さんたち(のようなエバンジェリスト)は、タレントマグネットで、何らかの能力を持った人たちを引き寄せてくれる」と言ってくださいました。

John

いい言葉ですね!

砂金

ありがとうございます。そう言っていただいて、確かにそうかもしれないと思いました。そして、これは、さまざまなところで役に立つ能力かもしれないとも思ったのです。

John

そうした能力は特殊なものですよね。「自然と人に好かれる」ようなイメージです。普通の人は、どのようにして(そうした能力を)育てていけばよいのでしょうか?

砂金

おそらくエバンジェリストという仕事もそうですし、今僕がやっていることもそうかもしれませんが、まずは、本人が心の奥底から楽しくやっていることが大切なのだと思います。

僕が心掛けているといいますか、多分これは性格なのですが、「やるべきこと」と「やりたいこと」があったとしたら、僕は「やりたいこと」のほうに比重を置いて、少なくとも自分が楽しめるフィールドは自分で作っていると思います。

John

そうなのですか。これまでお仕事されてきた各社とも、楽しかったですか?

砂金

そうですね。今振り返ると全部楽しかったです。後から言うといくらでも格好よく盛れるじゃないですか。しかし、当時は当時ですごくもがき苦しんだり、嫌だったりしたことももちろんあります。全てがバラ色だったというわけではないですが、その苦しんだプロセスも含めて、全部楽しかったですね。

砂金氏との対談の様子を示した画像です

9 「ユーザーの困りごと、課題に立脚している」というのは、(LINEの)どこのチームもブレないです(砂金)

John

今の1日の過ごし方はどのような感じでしょうか? CTO直轄で、上司はいるものの、全部自由に動いているイメージですか?

砂金

自由度は高い方だと思います。CTOは、日本以外の地域もマネジメントしているので日本にいるのは月に2週間ほど。その間にさまざまな相談事をしています。1日の流れでいうと、まず、朝活的に政府CIO補佐官として内閣官房に行ってからLINEに出社することが多いです。

John

これもすごいことですよね! 砂金さんがこうした活動をされることは、LINEの価値を上げていると思います。

砂金

ありがとうございます。ただ、僕がそれをやるだけで全てが変わるわけではなくて、さまざまなプロジェクトとの相乗効果ではないでしょうか。我々は、LINEが「楽しい」「かわいい」というだけではなく、役に立つ生活のユーティリティとして「なくてはならないもの」にしようということをやっています。しかし、通常のやり方だけでは物事が進むスピードが十分に確保できないこともあります。そういう意味では、政府CIO補佐官としての見方ができて、LINEとしての見方もできるというのは、非常に良い機会をいただいていると思っています。

John

LINEでは、去年(2018年)8月にブロックチェーンによる新サービスを発表されました。新しいサービスは誰が作っているのでしょうか?

砂金

ブロックチェーンに関してはBlockchain Labにいるメンバーがプラットフォームの開発をしていますが、LINEグループ内のサービスで利用することも検討してます。LINEには、新しいサービスを作っている人たちがたくさんいて、企画職という立場の方々がコンセプトを考えていることが多いです。

John

なるほど! 企画職のみなさんが、「エンドユーザーには、本当はこういうものが必要なのではないか」ということを、エンジニアの方々に提案しながら一緒に進めていくのですか?

砂金

そういうケースは多いですね。ただ、僕は、本当の始まりは形がないところからだと思っています。技術検証から始まることもありますし、それこそ経営層の思いつきから始まることもあるでしょう。さまざまなプロセスを経ているとは思いますが、「ユーザーの困りごと、課題に立脚している」というのは、どこのチームもブレないですね。

John

なるほど。「ユーザーの困りごと」は、どのようなところから拾い上げてくるのでしょうか?

砂金

それには、いくつかのパターンがあります。もちろん、自分自身が一ユーザーとして困っている点を基に仮説を立てて、それを確かめていくというパターンのプロダクトもあります。また、私たちは、裏で統計データを取っていますので、それを分析すれば、改善のポイントが分かります。「こういうことでみんな困っているのだな。では、それを改善しよう、もっといいサービスにしよう」ということを、割とデータドリブンでやっているイメージです。誰かの思いつきももちろん大事ですが、それだけでは走りません。どちらかというと、仮説を立てて、それを検証しながら、「データを見てみたら全然違うことが起こっていた」というようなことも含めて、データドリブンで真面目に作っています。真面目に作っていますが、出てきたプロダクトやキャラクターがファンシーでキャッチ―なので、あまり「真面目に作っている」ようには見えないかもしれないですね。LINEは、裏側では、割と愚直なものづくりをしています。

John

それは素晴らしいですね! タイ、台湾、インドネシアの地域のエンジニアともサービスを一緒に作ったりするのでしょうか?

砂金

LINEが日本で大成功を収めたのは、「日本人が日本人のために、日本だけのこと」を作ったからです。要は、ハイパーローカライズすることができたのが成功の鍵であったと認識してます。したがって、タイで展開するとき、台湾で展開するときにも、必ず現地のニーズはあって、それを分かっているのは、現地の人なのです。そのため、「日本で作ったこの機能を、タイや台湾でも使ってくれ」ということは、基本的にはありません。

もちろん、タイや台湾で展開していく中で、「日本で作っていたこのプロジェクトを使うと効率的なので、使ってもいいか」というような話はあります。ただ、やはり起点は、一番ユーザーに近いところの人が、自分たちのマーケットに必要なサービスを考えます。そのフィロソフィーといいますか、ものづくりの考え方は、割とグローバルで浸透しているのではないでしょうか。

John

なるほど。来年(2020年)の五輪に向けて、大ヒットしているLINEだからこそ、外国人のお客様が増える可能性もあると思いますが、いかがでしょうか?

砂金

具体的ではないかもしれませんが、日本の文化や日本そのものの面白さが、その後(2020年の後)もよりよく伝わるための努力をしたいと思っています。今、日本人や、アメリカ人もそうかもしれないですが、スマホを使ってデジタルで新しいことをやろうとすると、多くの人がスマホ先進国である中国の深センなどに視察に行きますよね。そういう深センのような存在に、日本がなってくれたらすごくいいですね。日本には、伝統的な芸能や文化、食事などさまざまなものがありますが、「日本にはLINEというものを中心としたやり取りがあって、すごく先進的だよね」と思ってくださる人が出てくるようにチャレンジしていきたいです。

John

それは面白いお考えですね! 各国からのゲストがLINEのスタンプを送り合っていたりしたら面白いです!

砂金

確かに面白いですね。例えば海外からVIPなゲストをお招きしたときに、「日本の通勤ラッシュを経験する」というアトラクションの一環で、銀座線や山手線に一緒に乗ってもらうのもよいかもしれません。そうすると、電車はギューギューに混んでいるのに、皆、スマホを開いてLINEでスタンプ送っているという、ある意味「異様な光景」がそこにあるわけです。こうした状況を、見てもらうだけでも意味があるかもしれませんね。

10 LINEを通して世の中の家族や友達、上司などの絆を近付ける、手助けする。できますよね?(John)

John

震災のときに使えるサービスや、シェアリングエコノミーサービスとの連携など、今後、LINEを使ってイノベーションが起きそう、あるいは「起こしたい」といったことはありますか?

砂金

震災防災に関しては、僕はそのポジションをやっているわけではないのですが、LINEとして取り組んでいることはあります。東日本大震災のとき、電話はつながらなくなりましたが、アプリ上であれば通話・会話ができたという状況でした。LINEはそのような状況の中生まれてきたのです。したがって、震災防災に関しては、儲かる儲からないではなくLINEのできることは全部やろうとしています。

例えば、LINEでは、トーク画面の「誰と会話している」という部分の一番上に、広告エリアの提供を開始しています。最初から広告を出すと、人によっては嫌がられてしまいますので、今は、その地方の天気予報や、その人がそのタイミングで必要としてそうな情報も出すようにしています。

その広告エリアのことを、我々は「Smart Channel」という名称で呼んでいます。そこは、ユーザーが一番目にするところであり、それこそマンスリーアクティブユーザー8100万人の多くの方々が見る画面です。この規模感は、テレビでも成し遂げられないことですよね。

そのSmart Channel画面に、緊急速報があればそれを流しますし、ないことを祈りますが万が一災害が起こってしまった場合に有益な情報はここで得られますと通知する。そうすれば、テレビよりLINEのほうが役に立つチャネルになれるのではないかと思いながら、LINEではさまざまなことを準備しています。それぞれ個別のサービスの中でLINEを進化・発展させていきます。

また、先ほど、他のところでお話したことを、Johnさんに触れていただいたので改めてお伝えしたいと思いますが、僕らはあまり、「ブロックチェーン」という言い方はしません。裏側ではブロックチェーンの技術を使っていますが、「トークンエコノミー」という言い方をしています。

「NAVERまとめ」でも、ニュースピックスでピックしてくれたものや社外のサービスでもいいのですが、「そのピックするなどの行動によって皆が便利になった」あるいは、「いい情報を得られた」「楽しい気持ちになった」とすれば、そのエコシステム全体の価値は上がるはずですよね。そのことを表現するのに、トークンエコノミーはとても便利なのです。今は1LINK(LINEのトークンエコノミーの名称はLINK)かもしれませんが、その活動をずっと続けていけば10LINKになるかもしれないわけです。情報を一方的に受け取って消費するだけではなくて、「いいね」を押すだけでもいいので、一人ひとり皆が情報発信側になり、なんらかの情報を「生産する側」に、皆を切り替えていきたい。これが、僕らがLINEとして成し遂げたい世界観であり、トークンエコノミーを推進しようとしている背景です。

LINEは、ブロックチェーンの技術や仮想通貨で儲けようと思っているわけではありません。皆が助け合える、そしてそのときに「ありがとう」という気持ちを、現金ではなく法定通貨でもない「何か」、最終的には法定通貨に還元できる価値のある「何か」で伝える。その「何か」は、運営母体であるLINEに制約を受けずに透明性が高く、誰もが参加できる。そうしたネットワークとして、LINKを作ってみようとしているのです。

この試みがうまくいくかどうかは全然分かりませんが、ネット社会がさまざまな取り組みを試行錯誤してきた中で、ようやく皆がやりたかったものに対して技術的に追いついてきたような気がしています。ですので、ここは頑張ってみようかと思います。

John

本当に、すごいですね! LINEを通して世の中の家族や友達、上司などの絆を近付ける、手助けする。できますよね?

砂金

我々のコーポレートミッションは「CLOSING THE DISTANCE」です。海外のメッセンジャーアプリも便利ですが、彼らは情報を送るツールです。それに対して、僕らがやっているのは気持ちを送るサービスです。ですので、これをやり続けると気持ちが近づくので、僕らのミッションにとてもマッチしているサービスといえます。

気持ちが近づくのはもちろん人間同士でもいいですし、「ブランドと人」という捉え方をすると、「ブランド広告」という形になります。「お金と人」であれば、決済など金融系のサービスになります。こうして、「ちょっと心の距離感のあるもの」に対して、「いや、そんなことないですよ」という提案をし続けるのがLINEの務めだと思いますね。

LINEのコーポレートミッションを示した画像です

11 視野を広げることと、視座を高めることには、とてもこだわっています(砂金)

John

砂金さんの以前のインタビューを拝見しましたら、「LINEを使って元気な日本に」というお話をされていました。「楽しい」や「元気になる」とはどのようなことを指すのでしょうか? どのような日本の姿を描かれていますか?

砂金

楽しいということに、理由は多分ないのかもしれません。「何が楽しいのか」ということを真剣に議論せずに、素直な感覚として皆が楽しいと思えることが大切なのではないでしょうか。例えば僕らが成し遂げたい、「人々の日常生活を支えるユーティリティとしてLINEが広まる」ということも、「面倒くさい事務処理」を「面倒なこと、楽しくないこと」のままどうにかしたいのではなく、「楽しんでいるうちに自然に終わっちゃった」というくらいな快適なユーザーエクスペリエンスを提供したいということです。

John

その「楽しいもの」はどのようにして作っていくのですか? 楽しんで作るということでしょうか?

砂金

そうです。作っている側、企画している側、広めようと思う人たち自身が楽しめるものでなければ、絶対つらい話になってきてしまいます。

John

なるほど、料理と一緒ですね。美味しいものを作る、ということと同じなのでしょうね。聞いてよかったです。ありがとうございます。

最後の質問をしたいと思います。これまで砂金さんが、キャリアを積まれる中で行動されてきたこと、決断されてきたこと、ご自身の中で確たる哲学があったことと思います。砂金さんのイノベーションの哲学とは、一言で言うと、何でしょうか? 大切にしているものでもいいと思います。

今までのお話をお伺いしていると、単に技術だけを広めようとするのではなく、砂金さんにはエモーショナルな部分や人をハッピーにする部分など、やはり何か「核」があると思います。そういうものがあるので、砂金さんは人から好かれたり広く知られたりする存在になっていかれたということなのではないでしょうか。

砂金

哲学というとなかなか難しいところがありますが……。僕は、「視野を広げることと、視座を高めること」には、とてもこだわっています。「自分から見えていることが全てではない、今見えていることが不完全である」ということを前提に、他の人であればこの現象をどのように考えるのかというように、他のさまざまな人でシミュレーションをする。視野を広げるというのは、たぶんそういうことだと思います。

そして、視座を高めるというのは、経験豊富な人や立場が上の人の考え方を身に付けるということでしょうか。いろいろなことを経験したりその責任ある立場に追いやられたりしないと、そういう人たちのシミュレーションはできませんが、たとえ自分の立場が上にならなくても、そういう人たちの考え方を身に付けておきさえすれば、実行できると思います。「遠くを見る」という感じでしょうか。

「今僕がやりたいことは、最終的なマップとしては、全体でどのような感じなのか」ということを、僕は先に描いています。そしてそのマップを、最大限に良い状態で実現するには、意思決定権者的な目線で考えなければならないのか、現場ではどのような苦労があるのか、その中で自分は今何をしなければならないのか。こうした視点の上下は、割と繰り返していると思います。

こうしたことは、普段はあまり自分では意識していません。自然にやっていることです。あえて言語化して表してみると、新しいものを目指すときは、見えている範囲をとにかく広げる。広げる中で特殊な領域が見えてきたら少しだけでも掘り下げて、全体を俯瞰することは、とても心掛けていると思います。

John

なるほど、オーケストラの指揮者みたいですね。もしくは、船長なのかもしれません。大航海に行く地図を自分で描くことができて、距離感もつかみ、目的地にはどこからどのように航海するべきか。どのような船員とチームを組み、何を蓄え、そしていつまでに着くのか。そうした目標設定が素晴らしいのですね。

砂金

どうなんでしょうか。自分では、あまり指揮者や船長を意識したことはありませんが、そうかもしれないですね。

John

何歳までに何をやるということを、決めているのでしょうか?

砂金

全然ないです。僕が苦手なのは、時間軸の整理ですね。僕にとって楽しいチャレンジとは、今まで見えていなかったことがどんどん広がって見えていくという状況であり、その瞬間です。マーケットポテンシャルの広がりかもしれないし、技術的な応用の可能性かもしれないし、人との出会いの広がりかもしれない。どのようなことでもいいのですが、さまざまなものが広がっていき、かつ、「昨日の自分ではできなかったが、今日の自分であればこの人の視点で考えられるようになったぞ」ということが楽しいのです。要は、上にも下にも、範囲の振れ幅が広がっていくこと自体が僕にとっては楽しいことです。ファン(fun)というより、インタレスティング(interesting)のほうですね。

そういう視点を持っていると、常に新しいことを探索していますし、これはと思えるものに出会える思考パターンなのではないかと思います。

John

本当に幅広いですよね。砂金さんの哲学は、「視野を広げる」と「視座を高める」。素晴らしいと思います! ありがとうございます。

LINEのコーポレートミッションを示した画像です

12 中小企業にエバンジェリストを育てるには?(John)

John

最後に、私への質問は何かありますか?

砂金

Johnさんのようにビジネスを広げていく方は、手広いといいますか、扱っている範囲が広いですよね。一見するとバラバラなことをやっているように見えて、何らかの「筋」があるのだと思うのですが、いかがでしょうか?

John

私の場合は、付き合った人、関わった人から「やってほしい」と言われたら一緒に楽しいこと、世の中を良くするために事業をやるだけです。出会ったCEOやリーダーの夢やビジョンを叶えるサポートをする事で、企業、病院、大学、団体が成長し、世界をより良くする手助けになると信じてます。

砂金

人間的なつながりがあり、信頼できる人から言われたら、一緒に働きたくなるということですか?

John

信頼できる人というよりは、困っている人を助ける、支えるという感じだと思います。それから、憧れた方から言われたときもそうかもしれません。私の場合はそういう形なので、砂金さんの素晴らしいキャリアがとても羨ましいと思ったりもします。

砂金さんは技術がしっかり分かっていて、その上でエバンジェリストとしてサービスを広げられているのだと思います。今日のご説明も、とても分かりやすかったです。私は、そういうことはできないので、そういうことができる方を格好いいなと思いますし、いろいろな賢い方やすごい方にお会いしてお話を聞いて、手伝うだけでもとても楽しいのです。

私の中の1つの軸としては、自分が「好きだ」と思える人でなければ関わらないということです。ただ、このことについては、賛否両論あるとも思っています。周りの人、皆とうまく関わって、大きいことを動かせるようになったほうがいい、といったご意見もあるでしょう。

砂金

そういう意味で言えば、僕は割と楽観的かつ性善説なのでしょうね。本当に性根から悪い人もいるかもしれませんが、そういう人たちとは距離を置いているつもりです。そうすると、僕にいろいろと言ってくる人は、(性根が悪いわけではないので)「なぜそう言ったか」という理由を考えます。きっと、そうせざるを得なかった状況があったのではないかと。

ローランドベルガーにいたとき、ある方がおっしゃっていたことがあります。それは、「二流三流のコンサルタントは表面的な数字やロジックを分析する。しかし、一流のコンサルタントは、人の心の中をロジカルに理解する」ということです。例えば、独裁的な経営者の会社でなければ、経営者も役員もお互いそれぞれの責任を持っている方なので、対立する方もいれば、いろいろなことを言ってくる方たちもいます。例えば、経営会議の場で、誰かが癇に障る発言をしたとしても、「なぜその方は、そういうポーズをとらなければならなかったのか」という感じで、ビジネスの状況や人間関係などから、その人の心の中を紐解いていくと、「あの場ではそういうことを言いそうでしたよね。それを予見できなかった我々の分析が甘かった」ということになります。

Johnさんは、アントレプレナータイプのキャリアをいろいろやられているのでお分かりだと思いますが、ゼロイチのタイミングでは、メンバーの多様性はあまり重要ではありません。同じタイプの人たちが密度の濃い時間を過ごしたほうが、生産性が高まることが多いです。その後、10を100にするというタイミングで初めて、多様性が必要になってくるのではないでしょうか。最終的に100を目指す、1000を目指すのであれば、最初から多様性の種を入れておかなければならないかもしれませんが、あえてそこにこだわらないのであれば、同じタイプのメンバーで気心知れた仲間でやったほうが、絶対に楽しいのです。ですので、Johnさんの「自分が『好きだ』と思える人でなければ関わらない」という軸は、それはそれで一環したビジネススタイルだと思います。

John

私の今年(2019年)からのテーマは、「海外起業」です。今年は海外で勝負したい、完全移住して起業したいと思っています。他の人がやっていないこと、他の人と違うチャンスを見つけて、小さくてもたくさん作っていこうかと思っています。この先がとても楽しみです。

話は変わりますが、1つ、砂金さんからアドバイスをいただきたいことがあります。それは、「どのようにして、日本の中小企業にエバンジェリストを育てるか」ということです。これはとても重要なことだと思っています。

自社のことをしっかりと世界に伝え、広めて、いい人(仲間)を連れてくることができる、ユーザーも増やせる。そうしたエバンジェリストのような存在が、日本の中小企業にも必要だと思います。今の現状では、経営者以外ではほとんどいないと思います。こういう状況の中で、日本の中小企業は何をすれば良いでしょうか? 砂金さんでしたら、どのように中小企業内に、エバンジェリスト改革を起こしますか?

砂金

それでいうと、割とスタートアップピッチという起業家が投資家に対して5分程度の短時間で行うプレゼンテーションにおける「ひな型」はとても応用性が高いので、それに則って考えることができると思います。例えば、中小企業であろうと、規模にかかわらず、とにかく会社として存続していて、自分たちが提供している価値にお金を払ってくれている取引先やお客様がいるわけです。要は、取引先やお客様の何らかの課題を解決しているということです。

自分たちがやっていることは何の課題を解決しているのか。10年、20年、あるいは50年も続けてきたら、そういうことを改めて言葉にするのも恥ずかしいかもしれませんし、誰も口にしなくなるでしょう。しかし、それをあえて、言葉にすると次のようなイメージにまとめられるかもしれません。

「ここには大きな課題があります。私たちは世の中のこの課題を解決するソリューションを提供しています。それにはこういう難しさがあるが、それを社員のパッション、特殊な技術、昔からの地域のコネクションといった他社にはない差異化ポイントで解決していて、今、創業50年の会社になっている。今はここまでしかできていないが、この技術を使って何か協業したら新しいことを生み出せそうだと思いませんか。興味ある人は連絡してください」

こうしたスタートアップピッチのようなものは、会社の外でやってもいいし、中でやってもいいと思います。ただ、最初からプレゼンテーションを社外で、というと難しいかもしれないので、まずは日本語で行われている課題解決型スタートアップのピッチをたくさん見ることから始める、というのはどうでしょうか。経営者がやってもいいでしょうし、若手社員ができるかもしれないし、パートの方ができるかもしれません。立ち位置は重要ではなくて、「そういう(広め方の)手法がある」ということを知るのが大切です。

自分たちの価値を相手に伝えて、2分あるいは5分といった中で「面白い! 出資したい」って言わせしめるための「守破離」の「守」の型がある。それを徹底的に実践する、というのが、中小企業にエバンジェリストを育てるために、まずは必要かもしれませんね。

John

なるほど~。これだけで、中小企業向けの新しいサービスが一緒にできそうですね。日本を再生するためのサービスが作れそうですね!

今日は、お忙しいところ、本当に長い時間、とても勉強になるお話をたくさんお聞かせいただきました! 第3回目のイノベーションフィロソフィーも、大成功です! 素晴らしいお話ばかりでした。砂金さん、本当に愛りがとうございます!

砂金氏のイノベーション哲学を示した画像です

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年8月26日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】 inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト http://www.jim.jp/company/をご覧ください)

●砂金信一郎(いさご しんいちろう)/LINE株式会社 Developer Relations室 室長 兼 AIカンパニー LINE BRAIN室室長
LINEでDeveloper Relations全般を担当。botやAI、決済サービスなどを通じて、ユーザー同士、ユーザーと企業や世の中の距離を縮めようと奮闘中。スタートアップ支援も可能な限り継続します(Facebook自己紹介より)
東工大を卒業後、日本オラクルの新規事業開発担当、ローランドベルガーのコンサルタント、リアルコム勤務、マイクロソフトのエバンジェリストなどを経てLINE株式会社へ。

●森若幸次郎(もりわか こうじろう) / John Kojiro Moriwaka
シリコンバレーと日本をつなぐイノベーションプロバイダー兼イノベーションフィロソファー、講演家。
オーストラリアで7年半の単身留学を経て、2010年8月家業である株式会社モリワカの専務取締役に就任。2014年4月イノベーション事業部を設立し、CIOに就任後、病院と大学との連携で医療機器開発を開始。
2015年11月株式会社シリコンバレーベンチャーズを創業し、代表取締役兼CEOに就任。国内外のスタートアップ、中小、大企業向けに経営アドバイス、学術研究都市にオープンイノベーションのアドバイス、大学や高専にてアントレプレナーシップ教育、シリコンバレーの現地ツアーなどサポートを行う。
シリコンバレーにてスタートアップワールドカップのアンバサダー、全米1位のライフサイエンスに投資をするエンジェル投資協会のメンバー、アルケミストアクセラレーターのメンターも務める。
2018年3月シリコンバレーにてStartupFire Inc.を設立し、CEOに就任。シリコンバレー、日本各地で「#StartupFire」というスタートアップを支援し、イノベーションを起こす目的のイベントを運営。
2019年1月和光市にて、Angel Acceleratorを設立し、起業を目指す大学生、スタートアップCEO、大企業のオープンイノベーション事業部の受講生向けに、アントレプレナーシップ教育を開始。
2019年1月東京にて、GoogleがスポンサーであるStartup Grind TokyoのCo-chapter directorに就任。Startup Grindは、シリコンバレー発のイベントで、世界120カ国、350都市、100万人の起業家をつないでいる。東京では渋谷PnPで Startup GRIND TOKYOのFireside Chatを毎月開催。
2019年1月シリコンバレーにて、YuzuVision Inc.を設立し、CEOに就任し、5月ルクセンブルクにて当スタートアップがアクセラレーターブートキャンプに採択され受講。
ハーバードビジネススクールPLD(リーダーシップ開発プログラム)修了、スタンフォード大学経営大学院にてM&A、シリコンバレーのBlackbox(アクセラレーター)受講、スタンフォード大学の夜間やハス・ビジネススクール(UCバークレー)でベンチャーキャピタル、Yコンビネーターでエンジェル投資を学ぶ。
コラムニストとして、りそコラに「イノベーションフォレスト」を毎月寄稿している。

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