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第11回 あずさ監査法人 パートナー・公認会計士の轟 芳英氏/森若幸次郎(John Kojiro Moriwaka)氏によるイノベーションフィロソフィー

日本情報マート

2020.05.27

かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。

第11回に登場していただきましたのは、上場企業からスタートアップ企業までの幅広い監査を主な業務とし、株式上場アドバイザリーを通じて成長企業が組織的経営を行うためのコーポレートガバナンス構築、ディスクロージャーのための社内体制の整備、IPOを見据えた財務諸表監査サポート等を推進されている轟 芳英氏(以下インタビューでは「轟」)です(インタビューは2019年12月時点)。

1 「仕事もそうですが、いつも楽しくないといけないと思っています」(轟)

John

轟さん、本日はお忙しいところ、本当に愛りがとう(愛+ありがとう)ございます!
お話をお伺いすることを楽しみにしておりました。よろしくお願いします。

轟さんは、スタートアップ支援も積極的に行われていますよね。私が作った「エンジェルアクセラレーター」という埼玉県和光市の短期起業家育成プログラムでも、個人的に轟さんにご協力していただきました。私が教えられるのはマインドの部分ですので、スキルの部分は轟さんに多くを教えていただき、大変感謝しております。

轟さんは、お忙しい中、なぜスタートアップ支援に参加されているのでしょうか?

ジョンさん、ありがとうございます。
私は基本的に新しいもの・発想が好きですし、情熱のある若者が好きなのでそういったものに積極的に関わっていきたいという気持ちがあります。監査法人は社会的使命が高い仕事で、どうしても堅い付き合いが多くなりがちなのですが、若者の感覚から刺激を受けたいですね。そういう意味でスタートアップも好きなのだと思います。Johnさんと知り合ったイベントもそうですが、新しい発想の熱意のある人が集まる場に参画していると、楽しいです。

もう1つは、自分の持っている知見を、社会や若い世代に還元したいという思いがあります。私は会計分野のプロフェッショナルとして長年ビジネスの世界にかかわってきたので、そこで培った知見を若い世代に還元したいですね。

John

轟さんのように、情熱を持って、蓄えられた知見を還元してくださる方がいらっしゃるからこそ、次世代が進化していくのだと思います。

そして、素晴らしいキャリアやご経験をお持ちなのに、若者にも優しく、常に自然体で接してくださいます。そして、いつも本当に楽しそうにされていらっしゃるのが印象的です。若者に懸ける想いがあるのでしょうか?

仕事もそうですが、いつも楽しくないといけないと思っています。私は若者に接している時間が楽しいですね。若い世代に何を期待しているかというと、「将来はもっと元気な日本になってほしい」という思いがありますので、将来を担う若い世代に頑張って活躍してもらいたいと思っています。

John

私も同じ想いです。様々な大学などで講演させて頂くことがありますが、学生さん達を少しでも元気にして、将来活躍してもらいたいという想いがあります。轟さんからみて、どのような若者が特に面白いと思われますか?

仕事柄かもしれませんが、感性が研ぎ澄まされているといいますか、自分に無い感性を持っている人に会うと、面白いと思います。

John

確かに、独自の感性を持つ若者は、魅力的ですよね。
次に、轟さんが今取り組んでいるお仕事についてお話していただいてもよろしいでしょうか。

私は公認会計士で監査法人に所属してまして、監査が主な業務です。会計監査という仕事ができるのは、公認会計士の資格を持っている人あるいは監査法人だけです。まず、会計監査について簡単に説明したいと思います。

上場企業は発表する決算の財務諸表に対して、監査証明を付ける必要があります。厳密な表現ではありませんが、わかりやすさを優先して説明しますと、監査証明がないと、会社の経営層が自らの会社の決算について表現をするときに、必ずしも会計について詳しくないこともあり間違ってしまったり、たまにはちょっと見栄を張ったり、一般的でない言葉で表現してしまったりする可能性があります。

上場会社の場合、第三者である株主が投資をしています。投資家が実情をよく知らない会社の財務諸表を見て、「良さそうな会社だ」と思って投資をしたのに、間違っていたり見栄を張ったりした状態であることが分かると、「違ってたの?」「騙された!」などとなってしまい資本市場が縮小してしまいます。

そのため、会社とは独立した第三者の公認会計士が会計監査のプロとして、株主や潜在的投資家に代わって会社の状況をチェックして、「会社が公表している財務諸表などは信じるに足るものですよ」と証明しています。市場で皆さんが株式を買うときに、安心して買えるように証明書を付けるのが、公認会計士の仕事なのです。

私は皆さんが知っているような大きな会社の監査もしていますが、個人的にはこれから上場していくような会社を応援したいですし、若者と一緒に仕事をしたいと思っていますので、今はIPOを準備している会社の会計監査を主に行っています。

John

轟さん、愛りがとうございます。轟さんのような公認会計士の方々が会計監査を行なってくださるお陰で、投資家達は安心して投資を検討することが出来るのですね。

責任重大なお仕事ですし、新人のころは、緊張されたのではないでしょうか?

もちろん緊張しました。先輩たちとチームで仕事をしていましていろいろ指導してもらいましたが、監査する会社の方に依頼や質問をするたびに怖かったです。「若造が適当な質問を…」なんて思われるのではないかとひやひやしていました。

John

監査は同じような仕事内容を繰り返すことが多いのですか? それとも、担当する会社によってプロセスが違ったりするのでしょうか。

公認会計士の良いところは、ずっと同じ会社の監査をしているわけではない点です。仕事としては監査であることには変わりませんが、さまざまなクライアント、さまざまなプロジェクトを担当します。

例えばメーカーの担当になれば、製品がどのように開発され製造されているのか、工場や事業部の管理がどのようになされているのかなどが学べます。私は保険会社も担当しましたが、それまで保険に加入していたものの、保険ビジネスの仕組みは分かっていなかったことに気付きました。保険会社を担当することで、保険の役割や、保険料を集めるところからはじまり、それがどのように運用されているのか、事故後の保険金の支払いなど一連の流れを知ることができました。そのようなことを知るのは、ちょっとした感動ですよね。監査の仕事をしていると、さまざまなビジネスや会社を知ることができます。

John

これから上場を目指す会社を手伝う際も、いろいろなビジネスを理解していることは強みになっていますか? どのようにアドバイスをしているのでしょうか?

コーポレートガバナンスの構築やディスクロージャーのための社内体制の整備に関しては、私の本業の一部になりますので、アドバイスできることはたくさんあります。また、社長や経営層とお話をする中で、「こちらのほうが良いのではないでしょうか」などのちょっとしたアドバイスをすることもあります。
そういう意味では、大企業を知っている公認会計士は、ベンチャー・スタートアップの会社の方々に、将来像を見据えた話ができると言えます。

John

お仕事柄、轟さんはスタートアップの10年先の姿を見ているわけですからね。

そうですね、私は「大きくなった会社はこういう組織になっています」ということを知っていますので。スタートアップの経営者に、大きな会社を目指すなら何をすべきかをコメントすることができます。例えば、50人の会社の社長が従業員にメッセージを発信するのと、1000人、1万人の会社の社長が従業員にメッセージを伝えて組織に浸透させていくのでは、伝える仕組みが違います。従業員が100人になれば、社長の目が届きにくくなります。1000人になったら、フロアも分かれるので、社長だけでは絶対に目が届かなくなります。

John

実際に大きくなった企業の内部を知っている人の言葉は、教わる側もとてもありがたいですよね。今度、「それぞれの企業規模に合わせた社内メッセージの伝え方」をテーマにご教授いただきたいです。私自身もとても興味があります。

先ほど、轟さんは、若いころ先輩方とチームで仕事をしていたというお話がありましたね。今は、轟さんがさまざまな場面で組織を率いる立場にいらっしゃいますが、公認会計士として仕事をする上で、いいチームの作り方やプロジェクトの動かし方について教えて頂けますか。

どのようなチームもそうですが、メンバーそれぞれの個性を理解してチーム作りをして、仕事の分担の振り分けをしていくことが大事だと思います。あとは、風通しのよいチームにしていくということも重要ではないでしょうか。

John

適材適所を意識したチームづくりですね。チームの風通しを良くするために、具体的にどのようなことを心がけていらっしゃいますか。

さまざまなやり方があると思いますが、私のやり方は、メンバーとフランクな付き合いをするというものです。体育会系みたいに上から下まで厳しい関係を作るのも1つのやり方ですし、否定はしません。それでチームが効果的に機能するのであれば、よいと思います。しかし、私の場合、そのやり方は私のキャラに合っていないので、やりません。私は場を盛り上げていくタイプですから、冗談を言いつつ、話しやすい雰囲気を作っています。

John

さすが、轟さん、素晴らしいですね! 普段から話しやすい雰囲気がないと、相談もしにくくなりますし。問題を若手の方が一人で抱える事になると、解決までに時間がかかり、会社にとっても望ましくないと思いますね。轟さんの方法は、若い方々に取っても安心して一緒に働きやすいと思います。

ありがとうございます。若い人たちも、やりやすいと言ってくれたり、一緒に仕事をしたいと言ってくれたりしていますね。嬉しいことです。

自分で言うのも変かもしれませんが、組織内で私は、「パートナー」という肩書がついたことで「雲の上の存在」だと言われ、若い人が近寄り難くなってしまいました。雲の上じゃなくて、若い人みなさんの隣にいますよ、と言いたいです。

John

「I’m your partner.」ですね!

そうですね! まさにそうなのです。私の発言というのは、自分が思った以上に強く受け止められてしまうので、柔らかく言うようにしています。そこが会社勤めの管理職や責任者の怖いところ、気をつけるべき点だと思いますね。

John

パートナーになって、轟さんの中で何か変わりましたか?

責任の重さといいますか、プレッシャーはものすごくあります。逆の意味で言うと、自分の裁量が増えるのは楽しいです。自分で物事を動かせますので。

John

自分の意思決定の範囲が広がることは、モチベーションにも繋がりますね。私も、自分で考えて新しい取り組みを行うことが好きなので、そのお気持ちはよくわかります。

2 「『学問とは自分のためではなくて、世の中で使うもの、役立つものを学ぶものではないか』と思うようになりました」(轟)

John

轟さんが公認会計士になった経緯についてお聞きしたいと思います。なぜ、公認会計士になろうと思われたのでしょうか。

私は平凡な学生時代を過ごしていました。ただ、将来どうしようかなと考えたときに、好奇心は旺盛なので、失礼な言い方になるかもですが、一つの会社でずっと過ごす会社員は向いていなといと思いました。そのときにたまたま出会ったのが、会計や簿記だったのです。

John

会計や簿記が面白いと感じられたのですね。

はい、面白かったですね。高校の数学は覚えることが多くて面白くなかったのですが、小中学校の算数の世界は楽しいと思っていました。数字合わせみたいで、パズルのようですから。簿記の世界も同じで、すごく論理的なので、好きになりました。学生時代は勉強が大嫌いだったのですが、簿記はすんなりと頭に入ってきて、面白かったですね。

個人的な意見を言わせてもらえば、僕らが受けてきた教育は「なってない」と思います。何のために数学を学ぶのか、歴史を学ぶのかといった、学ぶ意味を教えてくれなかったのです。「勉強しなさい」とだけ言われても、「なぜ?」との疑問が生じてやる気にはなれません。私の場合、表立っては反抗していませんが、心の中ですごく抵抗していました。

John

私も10代の時は、「何のために勉強するのか」がわからず、ボクシングや絵画にばかり打ち込んでいる時期がありました。どうして良いのか分からずに、光となる出口を求めていましたね。明確な目標を立てるには、心がワクワク、ドキドキする真の目的が必要ではないでしょうか。

轟さんにとっては、もやもやした中で会計や簿記がしっくりきたのですね。

はい。会計や簿記を学んだときに、これは商店や会社で使うものだし、実際の世の中の役に立っている学問だと分かったのです。

John

勉強が無駄にならないと。自分が学ぶ事によって、世の中の役に立てるんだという実感が得られたわけですね。しかも、会計や簿記は論理的で、轟さんの性格にも合っていたのですね。

そうです。貸借対照表は、左右で数字が一致するので検証もできます。当時は経営が何なのかは分かりませんでしたが、商店や会社が自分たちを表現するものとして数字、簿記を使うということは分かりました。簿記が実際にどのように使われているかも理解していませんでしたが、何のためにこれが存在するのか、ということは分かりました。

John

健康診断表が人の健康状態を表すように、貸借対照表は会社の状態を表しますよね。

そうなのです。そう思ったときに初めて、「学問とは自分のためではなくて、世の中で使うもの、役立つものを学ぶものではないか」と思うようになりました。

John

「自分のためではなく、世の中のために学ぶ」というのは素晴らしいお考えですね。学問は、世の中を見渡すツールだということですね。

その後、公認会計士の資格を取得されたわけですが、これから公認会計士を目指す人達に向けて、良い勉強法や必要な考え方などのアドバイスを頂けますか。

公認会計士は難関資格と言われますので、合格するためには根気強く取り組む必要があります。知りたい意欲、つまりモチベートを高め続けていくことが大切です。試験に受かりたいというモチベートもあると思いますが、私は試験に受かりたいだけではなく、「会計の学問や商業が面白い」というモチベートがありました。簿記は馴染みやすく会計学や財務諸表論は面白かったですし、経済学も世の中のことの分析なのかなと思い比較的面白かったですね。

John

面白いというのはいいことですね。子どもの頃から会計を学ばせることは、ビジネスマインドが養われて良いかもしれませんね。

そうですね。簿記は中学校くらいからみんなに教えてもいいかもしれませんね。

John

学んだ知識を活用してお小遣いのやりくりを考えても面白いかもしれませんし、身近な事と繋げて会計に関する知識を学び、「稼ぐ」という感覚が身につけられると良いと思います。私は3歳の時に、母の作った料理が美味しかったので、それを箱に詰めて近所の小料理屋の大将に売りに行きました。その時の体験が、自分でビジネスを生み出す楽しさや、人を喜ばせることがビジネスに繋がるということに気づかせてくれました。子どもだからといって、ビジネスの話はまだ早いと思わずに、世の中の役に立つ会計などの勉強や体験をどんどんさせてあげたら良いと思います。

3 「世の中やビジネスが変わるきっかけになるような新しいテクノロジーが出てくるという情報は気になります」(轟)

John

現在、轟さんはさまざまな会社を支援されていらっしゃいますが、どのような場面でやりがいを感じますか?

私は単純で小さなことでも感動するタイプなので、仕事で携わる多くの会社でやりがいを感じます。
本当なら、既に大企業からスタートアップまで様々な会社を見てきているので、公認会計士になった頃と比べると、新しく担当するクライアントから得られるものは小さいし、喜びも少ないはずなのですが、実際はそうではありません。

轟氏の画像です

例えば、メーカーのビジネスモデルや業務内容については過去の経験上、このメーカーであればこうだろうと、ある程度想定できてしまいます。「大人の変な先入観」で見てしまうわけですね。でも実際にその会社に行ってみると、「在庫管理はこうしているのか」「この商品はこうやって出来ているのか」といった、細かいことかもしれませんが、知らないことや、感動があります。ですから、いまだにどのような仕事でも、やりがいを感じます。

John

それはとても素晴らしいことだと思います。経験を重ねるごとに、感動するポイントは変わっても、常に新鮮な驚きがある。心がピュアなのですね。

ありがとうございます。そうですね、おそらくピュア、単純だと思います。
ただし、感動のレベル感は会社によって異なります。イノベーションのような、全く新しい世界を見聞きたときのほうが、感動のレベルは圧倒的に大きいですね。例えば、Fintech、宇宙ビジネス、5Gを使った動画ビジネスといった、今までになかった世界の将来像を知ったときには、監査そっちのけで話を聞いてしまいます。

John

轟さんご自身でクライアントを発掘することもあると思いますが、どのようにして良いスタートアップ企業を見つけていらっしゃるのですか?

一番多いのは、信頼できる知り合いの方に紹介していただくケースですね。自分の目利きは完璧だとは思っていませんので、いろいろな人の話を聞きます。そして、「そういう考え方もあるのか」と感じたものを、自分なりに幾つか重ね合わせていくと、この分野は面白そうだとかスケールしそうだとかというのが見えてくるのです。

John

今はどのようなビジネスが1番面白いと感じられますか。

Fintechや、AIを使ったビジネスなどに興味がありますが、個人的に今、1番面白いと思っているのは宇宙ビジネスです。

私は子供の頃から宇宙に対して憧れがありましたし、つい数年前までは宇宙の分野は国を挙げて研究をしている段階で、ビジネスとは程遠いものでした。ところが、イーロン・マスク(スペースXの共同ファウンダー兼CEO)などが出てきて、宇宙の分野に新興企業が携わる時代が少し出てきたときに、私は「絶対にこれだ」と思いました。

これまで、電力会社やガス会社などのインフラ産業の監査も担当してきましたが、そうしたインフラ産業の世界にもいずれはベンチャーやスタートアップが入ってくる時代が必ず来ると思っていました。実際に現在はそのような時代になってきていますが、壮大な夢物語みたいな宇宙の分野にベンチャーがビジネスとして取り組みはじめたのはわくわくしています。

John

私も宇宙プロジェクトに携わったことがあり、未来を作ってると思うととてもワクワクしますが、膨大な資金が必要ですので、事業化させることは非常に難しいですね。

サステナブルにならないとビジネスとしては成り立ちません。今は、新たなビジネスがいろいろと出てきていていますが、その中でも、例えばシェアリングビジネスはみんなが便利に継続して使えるといったサステナブルだからこそ広がっているのではなかいと思います。

宇宙分野も、かつては皆がビジネスから程遠い世界だと思っていました。しかし、イーロン・マスクが出てきた後にマネタイズのモデルがいくつか出てきてますので、私は宇宙ビジネスもいよいよサステナブルになると思いました。

John

宇宙ビジネスは今はステップ1で、これからが本番、夢がありますね。

先ほど、スタートアップを発掘する際も、いろいろな人から話を聞くようにしているとおっしゃっていましたが、情報収集する際に一番気をつけている点は何でしょうか。

既成概念で物事を考えるのでなく広くいろいろな方の話を聞き面白いと思えることを見つけるようにしています。特に、単純に自分の興味でもありますが、世の中やビジネスが変わるきっかけになるような新しいテクノロジーが出てくるという情報は気になります。例えば、5Gによって通信速度が格段に変わるという話を聞くと、どのように生活やビジネスに影響するのかが気になります。

4 「誠実でも、アグレッシブでないとダメですよね」(John)

John

轟さんがお手伝いをしてIPOまでたどり着いた会社については、最初から会社の組織づくりなどを手伝われていたのですか?

そういう会社もありますし、途中から手伝っている会社もあります。

John

スタートアップを手伝っていて感じた、良い会社とはどのような企業でしょうか。また、上場したほうがよいのか、中堅でオーナーシップを保ったまま経営したほうがよいのか、判断が難しいですよね。

会社の経営者がどこを目指すのかによると思います。オーナー企業のまま上場しなくても、資金調達が円滑で、ブランド力もあり、海外への足がかりもあるという会社は、良い会社だと思います。

一方で、IPOを行うことで新規にマーケットに出ていった会社は、信頼・信用が上がるので、新規の取引や人材募集の際に大きく有利になり、IPO前とは全然違うのではないかと思います。

以前、IPOのお手伝いをしたある社長に、「上場して何か変わりましたか?」と聞いたときに、その社長が1番嬉しそうに言ったのは、「従業員が喜んだことです」でした。ある従業員は、「親から、『一流大学に入れたのに、よく知らない、いつ潰れるか分からないベンチャーに勤めてたけど、上場会社に勤めることになったんだ』と、すごく喜んでくれました」と言っていたそうです。考え方はそれぞれだと思いますが、上場会社には、上場しているという信頼度がある。上場すると、会社のステージが変わるのですね。

John

上場=持続可能になると、家族は思うのでしょうね。「上場会社なら、リストラや倒産はほとんどない。安心だ」というように。

まさにそうですね。親御さんだけでなく、従業員の配偶者も喜ぶそうです。IPOした社長からそうした話を聞くと、「やはり会社が成長しIPOするってことはいいな」と思います。

John

そういう見方もありますね。本当は会社の大きさではなく、その人にとって本当に仕事が楽しくて、自分の価値を活かせて、働きに見合った対価がもらえているかどうか。それが大切だとは思うのですが。

そうですね。価値観だと思います。昭和の時代からの人たちは、世の中の大きな存在として大企業があり、いわゆる「3高」の時代でした。でも今は時代が変わっていますから、その価値観が合わなくなってきています。

John

逆に、IPOがうまくいかなかった会社の失敗から学んだことはありますか? 例えば、公認会計士の目線で見て、このようにやればよかったのでは、と思うこともあるのでしょうか。

よく話していることですが、IPOが目的になってしまうと失敗だと思います。真の目的意識が薄いまま「IPOができるときにしておくべき」と考えるのは、会社、創業者、社会またマーケットにとっても、メリットはないと思います。それよりも、本当にIPOが必要で、IPOのメリットをしっかりと分かった上で、IPOをしたほうがよいと思います。IPOには、やるべき時期というものがあります。

John

IPOは出来るからするというものではなく、目的を達成するために必要だからするものなのですね。ちなみに、「やるべき時期」にきた会社とは、どのような会社だとお考えですか。

次のステップに行くために資金や人材といったリソースが必要な会社だと思います。それには、将来のビジネスの種がちゃんと会社の中にあることが重要です。「今はこのビジネスで会社が回っているけれど、ここの開発の部分に資金や人材を加えると売り上げが10倍に膨らむ」という将来像を描けていることが必要になるわけです。

会社にとっては、特に資金調達のための多様なツールを持っているのは有効なことです。金融機関から借入による資金調達もできるし、IPOをしてマーケットからの資金調達もできるという、「武器」をたくさん持っている方が、会社としてはよいわけです。

John

ビジネスの将来像を描けていないと、IPOがプラスに働かない可能性もありますね。どのような会社がIPOをすると、デメリットが強く出てしまうと思われますか。

会社にIPOをするメリットがあるのか分からないのに、ブームに乗ってIPOをした会社や、投資家にどうしてもIPOをするべきだと言われてIPOをした会社などですね。次のビジネスがない、もしくはあっても不確実性が高い会社がIPOをしてしまう場合です。IPOをする前のビジネスだけでその後が続かない会社は、頭打ちになってしまいます。

John

ナンバー2以下がどんどん辞めていって会社が不安定な状態になってしまったり、いろいろなアライアンスを組んで無理矢理プレスリリースを出すけれども、何もサービスは生まれないという会社もありますね。

たくさんの上場支援をされてきた轟さんが感じた、上場できるスタートアップ企業の条件を教えていただけますか。

会計士目線でいうと、経営者の誠実性は絶対に必要な条件だと思います。いい加減な人は、ビジネスの管理にしても、人との付き合い方にしてもいい加減になりがちです。こういう会社は、どこかでほころびが出てくると思います。ただし、誠実性と保守的であることとは違うと思います。

John

経営者は、誠実かつ、アグレッシブという二面性があると良いですね。私も父から「仕事には誠実さが大切である」と教わりながら育ちました。経営者に誠実性がなければ、その企業は本当の意味で社会に貢献することは難しいとも思います。中小企業の経営者にも、有名ではなくても誠実に働いている方々がいらっしゃいますし、経営者として素晴らしいことだと思います。

そうですね。そして、経営者や会社、製品やサービスの魅力も大切です。取引というのは、1人がお金を払って、1人がお金をもらうわけですよね。お金をもらう人が嬉しいというのは分かりやすいと思いますが、お金を払う人にどのような喜びがあるのかというのが大切だと思います。お金を払った人も喜べないと、ビジネスは成立しないわけです。例えば、私はAppleの商品をたくさん愛用してますが、買っただけで嬉しいです。こういう買う人も喜ぶ製品やサービスを創れる人・会社は、やはり魅力的なのだと思います。

John

使いたい、身につけたいと思わせる魅力を自社サービスに与えられるということは凄いことですよね。「買っただけで嬉しい」と感じさせるなんで、人を幸せにする魔法みたいです。魅力を生み出す能力は、経営者に取って重要ですね。

そうです。上場できるスタートアップ企業の経営者は、まさに魅力的なのです。誠実性があって、魅力的なことを話す経営者には、私も惹きつられますし、周りの人たちも惹きつけられることで社内外によいチームができています。こうした会社・チームには、「将来、IPOまで行けるな」と思わせるものがあります。

John

成功するスタートアップ企業のファウンダーやCEOは、皆さん尖っていて、一度会うだけで忘れられなくなる強い印象を与えてくれますね。

魅力的ですし、こだわりもありますし。確かに忘れられないですね。

対談の画像です

5 「潜在意識の中にビジネスやオープンイノベーションのマインドを植え込まないと、変わらない」(轟)

例えば、語弊があるかもしれませんが、大阪の商人は面白おかしくお金を稼ぎますよね。ビジネスはあれでいいと思うのです。

John

ワイワイガヤガヤというイメージでしょうか?

そうです、ワイワイガヤガヤ、楽しくでいいと思います。日本人の一部には、お金を稼ぐのは悪みたいな考え方がまだあると思います。そういう考え方はナンセンスだと思っています。

John

私の実家は自営業をしており、世のため、人のためのビジネスであれば、お金は後からついてくるという考えがあります。「まずはギブ、ノーテイク」くらいの感覚でお客さんのために尽くすと、自然と後からお金や名誉など、様々なものが返ってくるものだと思います。

私もそれがビジネスの基本だと思っています。私の父は銀行員で堅いと言われる仕事でしたが、祖父母は自営業をやっていました。今のJohnさんの話は、祖母が言っていたことと似ています。祖母は、いま儲からなくても「みんなのためにできることをやってれば、必ず返ってくるから、それでいいのよ」と言っていました。

John

そうですね。そうしていれば、同じ感覚を持つ仲間もたくさん出来ますね。

大人になって、IPOなども見るようになってビジネスのことを知ったら、「おばあちゃんの言っていたのは、これだ!」と思うようになりました。祖母はビジネスを理論的に学んでいたわけではないと思いますが、ちゃんと商売の基本が身に付いていましたね。

John

おばあさまは何のご商売をされていたのですか?

魚屋です。地域にある昔ながらの個人商店の魚屋でした。

John

そうでしたか、私がお会いしたことのあるスタートアップ企業のファウンダーは、親御さんが経営者が多いですね。やはり遺伝もあるのかもしれません。ビジネススクールに行くのも良いですが、商売をしている親御さんの姿を間近で見て育つことが、1番勉強になるのかもしれませんね。ノウハウだけではなく、ビジネスに対する考え方も伝わりますし、良い時悪い時も肌で感じることが出来ます。

そうですね。遺伝と環境が大きいと思います。それを考えると、どうしても教育に行き着きます。IPOを増やしたいと言っていても、それを実行するのは人間です。IPOを目指すような商売感覚を持った経営者が増えていかないと、IPOは増えません。そういうマインドを持った人たちの裾野を広げていかないと、良い経営者も出てこないと思います。

John

IPOの話が、小学校、中学校のときから当たり前のように出てくることは、普通の環境だとなかなかないですよね。自分の親が上場企業の社長という人は、ほとんどいないわけですから。だからこそ、今IPOに関わっている自分たちが、若い人たちにIPOの話を伝えなければいけないと思います。

そういう意味でも、教育というのは重要です。我々が持っているIPOの知見を若い世代に伝えたいのですが、「時代が変わらないと難しいのでは……」という懸念もあります。
というのも、今の若い世代の両親は会社員であることが多く、スタートアップ企業に対する理解が必ずしもあるとは言えません。もちろん会社員として働くことも大いに成長の機会がありますが、せっかく本人に起業マインドがあってもご家族が反対して終わってしまうのは大変残念です。私たちが何もアクションを起こさなければ2世代、3世代分くらい時間が経たないと、日本は変わらないのではないかとも思います。そこで、若い世代でちょっと尖った人たちのために、とにかく私たちでIPOを盛り上げ認知度を上げていきたいのです。

John

よく分かります。それで私もエンジェルアクセラレーターを作ったのです。若い人たちに、「みんな賢いけど、ただ周囲から良いって言われるから大手企業に行くの?」と問いかけるわけです。「それが本当にやりたいことなの?自分たちで会社を作れるかもしれないよ、試してみたらどう?」と。若い人たちに起業するチャンスを与えたいし、誰もが挑戦できるカルチャーを、この日本で作りたいです。ダメだったらそれでいい。でも、まず試してみる、ということをやってみてもらいたいのです。もしかしたらできるかもしれないし、できなくてもやり続ければいいのです。一人一人が本当に望む事に挑戦できる社会を作りたいですし、自分自身の人生を切り拓き「人生の上場」を目指して欲しいと、若者に伝えたいと思っています。

ただし、そのための教育としては、単に起業家になれば良いというわけではなく、「世の中をよりよくするため」に、起業家となるのだということを教えることも大切だと思っています。そのため、エンジェルアクセラレーターでは、「愛のあるリーダーの育成」を目標として掲げました。経営者になるということは、責任も伴うのだということを自覚し、自らの人間性を磨いていくことも大切だと思います。

轟さんは、起業家育成は、どのような教育を、何歳くらいから始めればよいと考えられていますか。

私が教えられるのは、ビジネスマインドと会計です。ビジネスマインドという感性を教えるのは、幼稚園、小学校くらいから必要ではないでしょうか。

これは聞いた話なのですが、米国にはビジネスの絵本があり多くのお子さんが読んでるそうです。レモンを加工してレモネードにして高く売っていく、という話だったと思います。そういうマインドは、幼稚園から教えておく必要があると思います。

John

その絵本は、人を喜ばすと見返りがあるということを教えているのかもしれませんね。自分で価値を生み出すことが大事で、待っているだけでは何も変わらない。前に進む精神を教えているのが素晴らしいと思います。そして、子供のころにたくさんの成功事例、成功体験をさせてあげたいですね。

そう思います。そしてその成功体験を持った上に、しっかりとした知識が必要ですね。

John

それがあると鬼に金棒で、日本人もビジネスマンとしてのレベルが上がります。それだけでなく、人間力が育ち、留学する人も増えるでしょうね。
私は山口県下関市出身ですが、同じ山口県出身の吉田松陰先生の松下村塾は、現代でいうアクセラレーターだったと考えています。実際に松陰先生が教えたのはたった2年程でしたが、高杉晋作、久坂玄瑞、伊藤博文をはじめとする多くの人財を輩出していますし、海外に留学した門下生もいます。海外に出ていくマインドというのは、若い頃しか植え付けられないと思うのです。

大企業でオープンイノベーションについて講演させていただくこともあり、幹部の方ともお話をさせていただきますが、社会人だけではなく、やはり若者、そして子どもの教育から考えていかないと、日本は変わらないと思います。

インタビューする森若氏の画像です

子供の頃から潜在意識の中にビジネスやオープンイノベーションのマインドを植え込まないと、変わらないですよね。大企業の会社員になってベンチャーの発想でプロジェクトを回すときにも、ビジネスやオープンイノベーションのマインドが潜在意識にあれば、きちんと取り組めるのではないでしょうか。

John

その通りですね。ビジネスやオープンイノベーションのマインドが潜在意識にあれば、会社員になっても、中小企業の跡取りをしても、スタートアップを起こしてもいいのです。自分の性質や情熱を活かして、世のため人のために力を発揮すること。そして、それを共に喜んでくれる家族や仲間がいれば、「人生の上場」を果たすことが出来ます。社会的な上場という成功も素晴らしいですが、自分達の目指すビジョンを達成をすることも素晴らしいことです。

6 「私はイノベーションのきっかけは好奇心だと思います」(轟)

John

それでは、最後に、轟さんにとって、イノベーションの哲学とは何かを教えてください。

その質問はとても難しいですね。表現すると長くなってしまうのですが、私はイノベーションのきっかけは好奇心だと思います。好奇心が、今はない、次の何かにつながっていくのではないでしょうか。

ただ、それだけではイノベーションは生まれないとも思っています。見たものを、現実のものに置き換えることが必要です。これには、「世の中を良くしたい」「楽しさを演出したい」といった、物事へのこだわりが関わってくると思います。好奇心から入って、「これは面白い」「空間が心地よい」などと感じたことに対して、それを実現するためのこだわりが必要だと思います。

John

その通りですね。テクノロジーとマーケティングが掛け合わされ、世界中のユーザーに広まる事でイノベーションが起きると思います。人が使えないテクノロジーは、ただのテクノロジーですからね。

そうなのです。先ほどの宇宙ビジネスの話ではないですが、研究で終わってしまうのではもったいないと思います。

John

それを使えるまでに落とし込まないといけないということですよね。

そうです。その実用化、普及までのこだわりです。社会に貢献したり、社会に影響を与えたりといった、そのこだわりが重要ですよね。イノベーションとは、皆が使えて、面白い、楽しい、楽になった、社会の効率がよくなるといった、そういうものですよね。シェアリングなどもそうです。

言葉にするのが難しいのですが、自分が面白い、楽だと思っているものも、他の人が面白い、楽だとは思わないかもしれない。それが面白い、楽だと皆が思うように改良し広めることが必要だと思います。イノベーションは、いわば「好奇心の一般化」ということでしょうか。

John

好奇心を自分だけのものにせず、こだわりを持って大衆に浸透させていくことで、社会に影響を与えるイノベーションになるのですね。

ここでいう「一般化」はゼネラルではなくて、ポピュラーの意味です。好奇心にこだわりを持って、それを人気あるものに育て上げる。やはり、好奇心だけでもなく、こだわりも必要です。こだわりを持って一般の人たちに普及させることが大事なのだと思います。

John

「好奇心の一般化」。シンプルで分かりやすいですね。確かにそう思います。

今日は、お忙しいところ、たくさんのお話を聞かせて頂き、とても勉強になりました。
愛りがとうございました!

轟氏のイノベーションの哲学を示した画像です

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年5月27日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

●轟芳英(とどろき よしひで)
有限責任 あずさ監査法人(企業成長支援本部 パートナー/公認会計士)
監査法人入社後、大企業や中堅・新興企業の会計監査を主に担当しながら、IPO支援アドバイザリーや官公庁/自治体向けアドバイザリーなどの幅広い業務を経験。
現在は、IPO監査を通じてスタートアップ企業の支援を多く担当し、新規性や成長性が高い分野に注力しながらベンチャーエコシステムやオープンイノベーションを推進。

●森若幸次郎 / John Kojiro Moriwaka
イノベーションプロバイダー、ファミリービジネス二代目経営者、起業家、講演家、コラムニスト

山口県下関市生まれ。19歳から7年半単身オーストラリア在住後、家業の医療・福祉・介護イノベーションを目指す株式会社モリワカの専務取締役に就任。その後、ハーバードビジネススクールにてリーダーシップとイノベーションを学ぶ。約6年間シリコンバレーと日本を行き来し、株式会社シリコンバレーベンチャーズを創業。近年はNextシリコンバレー(イスラエル、インド、フランスなど)のエコシステムのキープレーヤーとのパートナーシップと英語での高い交渉力を活かし、スタートアップ支援やマッチングを行う。「日本各地でのイノベーション・エコシステムの構築方法」や「どのように海外スタートアップと協業しオープンイノベーションを起こすか」を大企業、銀行、大学などで講演、病院ではリーダーシップセミナーを行う。国内外アクセラレーター支援、スタートアップイベント運営、ピッチ指導(英語・日本語)等も行う。

株式会社シリコンバレーベンチャーズ代表取締役社長 (兼) CEO
株式会社モリワカ専務取締役(兼)CIO
情報経営イノベーション専門職大学 客員教授
Startup GRIND TOKYO コーチャプター ディレクター

著書「ハーバードのエリートは、なぜプレッシャーに強いのか?」

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