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第25回 【後編】弁護士が教える起業〜資金調達前の中小・スタートアップ企業がおさえておくべき法務のポイント/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

日本情報マート

2021.04.30

 スタートアップブームが訪れているといわれる現在。大手企業によるCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の設立、公共機関や大学・研究機関と民間の連携によるスタートアップ支援プログラムなど、スタートアップを取り巻く環境は、日々変化しつつあります。

 前編の「共同創業における株式配分と、ストックオプションについて」に続き、今回の後編では「資金調達にかかわる契約の注意点」を、スタートアップ支援を得意とする弁護士・佐藤有紀氏に解説していただきます。

1 投資契約書の締結に向けて、注意すべきポイント

 スタートアップ企業において、「自己資金を潤沢に有している」というケースは非常に稀です。

 多くのスタートアップ経営者は、会社を運営し、事業を軌道にのせるため、どのように資金を確保するかという問題に、日々頭を悩ませているのではないでしょうか。

 また、資金調達の話が具体化した際に投資契約、株主間契約、優先分配合意書といった投資関連契約が大きな壁として立ちはだかります。特に、銀行やVC、投資家などから出資をしてもらう場合には、経験豊富な彼らを相手に、契約締結に向けた交渉を進めていかなくてはなりません。

 スタートアップ企業や創業者といったスタートアップ企業側が投資関連契約を結ぶ上で、どのような点に気をつけなくてはならないのでしょうか。

1)表明保証条項の中でも、特に人事労務関連は要確認

 投資関連契約を締結する前にチェックするポイントの1つ目は、投資関連契約では投資家とスタートアップ企業側でリスクの分担を定めた表明保証の条項が設けられていることが一般的です。

 会社が適法に設立されているかなど内容はさまざまですが、特にスタートアップ企業においてよく問題となるのは、人事労務関連の条項。

 例えば、「残業代の未払いはない状態であること」のような文言が当然のように記載されていることがありますが、社内の事実確認をしないで投資関連契約を締結してしまい締結後に残業代の未払いで従業員と揉めてしまい投資家ともトラブルとなってしまうケースがありますのでご注意ください。

2)事前承諾条項で、投資家がどの程度経営に参与するかを確認

 投資関連契約を締結する前にチェックするポイントの2つ目は「投資家が、どの程度まで経営に携わってよいものとするか」です。

 投資関連契約には、会社の経営における重大な決定をする場合には投資家の事前の承諾を得ることを定めた「事前承諾条項」が含まれます。

 事前承諾を必要とする内容や範囲によっては、スタートアップ企業側が自分たちだけで経営上の意思決定ができなくなることもあるため、注意が必要です。

 一方で「経営のアドバイスや人脈紹介、ハンズオンでの支援はありがたい」ということであれば、「事前承諾条項」と別に、投資家側が経営に関与するような枠組みを設ける内容に調整することも考えられます。

3)みなし清算条項は、さまざまなケースをシミュレーションして交渉を

 みなし清算条項とは、「会社がM&Aで売却されたらどうするか」などを定める条項です。

 外部投資家は、通常、スタートアップ企業がM&Aで売却されるのであれば「自分が投資した分のお金を創業者(優先株主の場合であれば、さらに普通株主よりも)優先的に回収したい。」というニーズをもっています。

 また、投資家が優先的に回収したい金額は、必ずしも当初の投資金額と同額とは限りません。日本国内でも投資金額の1.2や1.5倍、海外では3〜4倍もの金額に、契約で設定されていることもあるのです。

 「会社を売却して初めて内容を理解した」というケースに陥らないよう、みなし清算条項については、あらゆる展開を想定して、交渉に臨むのが良いでしょう。

 投資関連契約全体に共通することですが、契約内容をきちんと理解し、作成していくことが重要です。

 スタートアップ企業において契約書の作成は難しい面もあると思いますが、自社が主導権を握って資金調達をするということは、自分たちの立場を強くするだけでなく、ゆくゆくは既にスタートアップ企業に投資している投資家のためにもなります。

 従来の資金調達においては、VCや投資をする側が契約書の雛形を持ち、「私たちと契約をする際は、基本的にこの契約書に従っていただきます。」というスタンスを取ることが大半でした。そのため、「A社とはこの条件で、B社とはこの条件」といったように、各投資家との間の契約内容にバラつきが出てしまっていました。

 また、スタートアップ企業側が各投資家との間の契約内容を正確に把握していない場合、「A社との契約に従っていることで、B社との契約に抵触している。」という事態が起こる可能性もあります。

 最初に投資家との間でしっかりとした投資関連契約を作成し、次に別の投資家から投資を受ける際に前回の契約と条件を揃えるようにすれば、そうした後々のトラブルを未然に防ぐことができるのです。

 また「他の投資家とはこの条件にしている」と説明できるようにすることで、交渉をよりスムーズに進めることもできます。契約の内容や交渉ポイントが把握しきれない場合には、顧問弁護士に相談しましょう。

2 海外からの投資を受ける際の注意点

 続いて、海外から投資を受ける際のポイントについて解説します。

 2019年・2020年に外為法の改正が施行され、海外企業が日本企業へ投資する際の規制が厳しくなりました。

 改正の大きなポイントは、「海外投資家が日本の情報処理・ソフトウェア開発に関する企業・事業に投資をする場合、日本銀行経由で事前承認を取らなくてはならない」というルールが制定されたこと。

 元々、安全保障に関わるような事業については事前承認が必要でしたが、今回の改正により、日本のスタートアップの大半を占めるIT領域が対象となったことは大きな変化と言えます。

 事前承認に時間を要することもあるため、これまでのように、「では、1カ月後に投資します」といったスピーディーな対応が難しい場合も。

 VCについては、2020年の改正法施行により、1.外国法人や外国居住者などによる出資比率が50%以上であるか、2.GPの過半が外国法人や外国居住者などであるファンド以外であれば「外国投資家」に該当しないものとされましたが、海外から投資を受ける際には、スケジュールに余裕を持っておくと良いでしょう。

3 機密情報の取り扱いに関して

 資金調達はもちろんのこと、全ての事業活動に関連する情報として、機密情報の適切な取り扱いについても解説していきます。

 昨今では機密保持契約書(NDA)を結ばずに事業のディスカッションなどをしてしまったことで、「アイデアを盗用された」といったトラブルに発展するケースも増えています。

 トラブルを未然に防ぎ、適切に情報交換を行っていくためには、当事者自身が情報を適切に取り扱うことが非常に重要です。

 日本では、NDAを締結していない場合でも、不正競争防止法によって、営業秘密の漏洩に関する罰則が設けられています。しかし、それが適用されるのは、あくまでもその情報が「秘密情報」として管理されている場合に限られます。

 書類であれば鍵をかけて保管をすること、IDやパスワードで厳しく管理すること、口頭であれば事前に「これは機密情報である」という意思を明確に示すことが有効です。

 また、佐藤先生が実際に直面したケースとして、NDAの締結を要求した際、相手方よりそれを拒否されたため、情報開示を取りやめたケースがあったと言います。

 事前確認を行なうことで、相手方の情報の取り扱いに関する方針や考え方を確認することができ、自社で対策を取ることもできるということが分かる実例と言えるでしょう。

4 弁護士から見た、健全なスタートアップとは

 冒頭で触れた通り、昨今のスタートアップを取り巻く環境は、昔とは大きく変化しています。

 スタートアップブームの弊害として、時価総額は大きいが売上や利益の少ない企業が生まれるようになったり、資金調達方法の多様化によってデット(負債)やエクイティ(投資)の本質と危うさを理解しきれていない企業が増加したりしているといった問題点も指摘されています。

 最後に、弁護士の佐藤先生から見た「健全なスタートアップ」とはどういったものなのか、スタートアップ企業へ向けたメッセージと共に伺いました。

「スタートアップブームの危うさ、問題点への指摘に関してはその通りだと思います。しかし、2020年から発生したコロナ禍により、バリュエーション(企業価値評価)が適正化されていくのでは、という見方もあります。

新型コロナウイルスによる経済的な打撃は大変なものですが、その分スタートアップの方々の中でも意識の変化が大きく、これからは地に足のついたビジネスが増えてくると考えます。

『スタートアップは危ない』という見方をする人は、日本社会ではまだまだ一定数いらっしゃいますが、私はそうは思いません。

成長するスタートアップは不正が起こらないような仕組みづくりをされていますし、アクセルとブレーキのバランス感覚が良いことが多いのです

まだまだ大企業などと比較すれば、スタートアップは小さな市場。
しかし、GAFAもはじめは小さなスタートアップでした。

日本からも、世界を変えるようなスタートアップ企業が出てくることを期待していますし、全力で応援しています。」

5 最後に

 創業者間での株式配分、ストックオプション、資金調達における各種契約書の準備……。いずれも、多くのスタートアップ企業にとっては初めての経験であったり、経験があっても「これでいいのか不安」と思われたりするものではないでしょうか。

 記事中にもあった通り、契約や法務への正しい理解は、自分たちやステークホルダーのために大切なことです。前後編で学んだことが、読者の皆様のお役に立てば幸いです。

 佐藤先生、貴重なお話を愛りがとうございました。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年4月30日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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●佐藤有紀(さとう ゆき)
創・佐藤法律事務所パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。
2000年一橋大学法学部私法課程卒業、2011年南カリフォルニア大学ロースクール修士課程修了。2005年弁護士登録後、ホワイト&ケース法律事務所/White & Case LLP外国法共同事業アソシエイト、弁護士法人虎門中央法律事務所(現弁護士法人苗村法律事務所)パートナー、King & Wood Mallesons法律事務所・外国法共同事業パートナー等を経て、2019年より現職。
AI、VR/AR、IoTなど各種テクノロジーベンチャー企業の支援(資金調達、IPO支援)、ファンド組成(PEファンド、VC、CVC等)、投資・M&Aを多く扱う。近時の著書として「Q&A 投資事業有限責任組合の法務・税務 改訂版」ファンド法務税務研究会著(税務経理協会・2020年5月)(共著)がある。

●森若幸次郎 / John Kojiro Moriwaka
イノベーションプロバイダー、ファミリービジネス二代目経営者、起業家、講演家、コラムニスト

山口県下関市生まれ。19歳から7年半単身オーストラリア在住後、家業の医療・福祉・介護イノベーションを目指す株式会社モリワカの専務取締役に就任。その後、ハーバードビジネススクールにてリーダーシップとイノベーションを学ぶ。約6年間シリコンバレーと日本を行き来し、株式会社シリコンバレーベンチャーズを創業。近年はNextシリコンバレー(イスラエル、インド、フランスなど)のエコシステムのキープレーヤーとのパートナーシップと英語での高い交渉力を活かし、スタートアップ支援やマッチングを行う。「日本各地でのイノベーション・エコシステムの構築方法」や「どのように海外スタートアップと協業しオープンイノベーションを起こすか」を大企業、銀行、大学などで講演、病院ではリーダーシップセミナーを行う。国内外アクセラレーター支援、スタートアップイベント運営、ピッチ指導(英語・日本語)等も行う。

株式会社シリコンバレーベンチャーズ代表取締役社長 (兼) CEO
株式会社モリワカ専務取締役(兼)CIO
情報経営イノベーション専門職大学 客員教授
MIB Myanmar Institute of Business 客員教授
Startup GRIND Fukuoka ディレクター

著書「ハーバードのエリートは、なぜプレッシャーに強いのか?」

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