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第22回 【レクチャー編】東証市場・上場について/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

日本情報マート

2020.12.02

 30年以上、東京証券取引所の主に発行市場で働かれている勝尾修氏に、上場とは何か、これからの日本に必要なことについて、これまでのご経験を交えて教えて頂きました。
 前回の「【体験談編】東証の上場推進部課長の勝尾氏の仕事についての体験談(私感・私見)」今回の「【レクチャー編】東証市場・上場について」の2部に分けてお伝えいたします。

1 東証の市場構成は?

 東京証券取引所では、コンセプトの異なる5つのマーケットを運営しています。
 まず、個人投資家も参加可能な市場には、

1.市場第一部(大企業向け市場)
2.市場第二部(中堅企業向けステップアップ市場)
3.Mothers(成長企業向けステップアップ市場)
4.JASDAQ(多様な業態・成長段階の企業向け市場)

の4つのマーケットがあります。

 さらに、JASDAQは、ある程度の実績が必要なスタンダード市場と実績よりも特色のある技術やビジネスモデルを重視するグロース市場の2部構成になっています。

 次に、プロ投資家向け市場に、

5.TOKYO PRO Market(多様な企業向けの新しい市場)

というマーケットがあります。

 国内の上場企業数は約3800社程度ありますが、そのうち東証第一部は2165社、東証第二部は483社、マザーズは325社、JASDAQスタンダードは665社、JASDAQグロースは37社、TOKYO PRO Marketは33社あります。

国内の上場企業数を示した画像です
【図】国内の上場企業数は約3,800社程度

 では、まずは個人投資家も参加可能な市場について学びましょう。

2 上場するってどういうことですか?

 上場とは、企業が資金調達手段の多様化等を図るために、証券取引所において発行する株券等を不特定多数の投資家に対して投資対象物件として提供することを言います。中でも、未上場(未公開)の株式を証券取引所で売買できるようにする新規上場、新規株式公開をIPO(Initial Public Offering)と言います。上場株式には、価格が常に提示されること(価格発見機能)と株式が常に売買可能であること(流動性供給機能)が求められ、上場審査基準に反映されます。

3 上場までのプロセスは?

 上場に向けて、上場希望会社では以下のようなステップを踏むことが多いです。

Step1: 経営者が自社の成長を志向
Step2: 収益基盤の強化、社内体制の整備
Step3: 人材確保
Step4: 資金調達

 これらを行いながら、主幹事証券会社、監査法人、株式事務代行機関(信託銀行)等のサポートを受け、申請準備を進めていきます。
 審査期間は市場第一部・第二部では3カ月で、上場申請後に3~4回のヒアリングや実地調査、面談、社長説明会などを経て、上場承認となります。

上場までのスケジュールを示した画像です
【図】上場までのスケジュール

上場審査の流れを示した画像です
【図】上場審査の流れ

 上場審査基準は、主に定量的な側面を形式的に確認する基準である「形式要件」と主に定性的な側面を確認する基準で、東証審査の中心である「実質基準」がありますが、マーケットによりこれらの内容は異なります。

各市場の形式要件を示した画像です
【図】各市場の形式要件

各市場の実質基準を示した画像です
【図】各市場の実質基準

 上場審査基準は東証ホームページからもご覧いただけます。

 また、設立した会社が成長期に入った時点で新興市場に上場し、さらに事業拡大を図る際に、東証第一部へステップアップしていくこともあります。

4 東証第一部、東証第二部、マザーズ、JASDAQを比較すると?

1)最近のIPO企業の規模比較(2017年〜2019年までのIPO企業)

最近のIPO企業の規模比較を示した画像です
【図】最近のIPO企業の規模比較

 上の図を見ると、マーケットごとに企業規模に大きな開きがあることがわかります。
 また、2019年は94社が上場を果たしましたが、そのうち63社はマザーズでの上場でした。2012年から現在まで、市場別シェアが最も高いのはマザーズです。1999年11月に開設されたマザーズは、上場基準が東証第一部や第二部よりも緩和されており、先行投資などにより赤字決算の企業も上場することができます。近年はサブスクリプション方式のビジネスモデルを展開する企業が増加している影響もあり、2019年にマザーズに上場した企業のうち約25%は申請直前期の決算が赤字の企業でした。

国内IPO件数の推移を示した画像です
【図】国内IPO件数の推移

2)最近のIPO企業の業種比較(2017年〜2019年のIPO企業)

 業種比較では、東証第一部及び第二部では、業種の偏りはほとんどありません。しかし、新興市場を見ると、マザーズに最近IPOした175社のうち、情報・通信業が69社、サービス業が57社、JASDAQに最近IPOした38社のうち、サービス業が10社、情報・通信業が6社と、共に「サービス業」「情報・通信業」が多いことがわかります。

最近のIPO企業の業種比較を示した画像です
最近のIPO企業の業種比較を示した画像です
【図】最近のIPO企業の業種比較(2枚)

3)マーケットごとの投資家の比較

 どの市場にも個人投資家と海外投資家がいますが、東証一部は過半数を超える61%が海外投資家であることがわかります。

最近のIPO企業の業種比較を示した画像です
【図】東証 投資部門別 株式売買代金

5 上場のメリット・デメリットは?

 メリットとしては、1.資金調達、2.知名度向上、3.信用力向上、4.社内管理体制の構築、5.従業員の士気向上、6.人材採用などがあります。
 実際に、2013年~2017年にIPOした会社のCEO等に、上場後半年~1年程度で行ったアンケートによれば、「知名度や信用度の向上」や「人材の確保」、「社内管理体制の強化」といった面で特にメリットを実感していました。具体的には、業務提携などの引き合いや大手企業との取引の増加、人材採用時の量・質の向上、社員の家族からの評価や住宅ローンの組みやすさの向上、経営状況(予実管理・労務管理など)が可視化され経営判断を行いやすくなった、社内の法令遵守の意識やリスクに対する感度の向上、社長自身の株主への説明能力の向上などの声が寄せられました。

 しかし、デメリットとして、同アンケートでは、人材採用時に上場前と比べて「ベンチャーマインドの高い人」の募集が少なくなった、単なる資金調達手段としては調達コストが高い、上場準備期間に失敗を恐れて経営が萎縮してはならないと感じた、株主総会で苦労した、インサイダーやフェアディスクロージャーの配慮から情報発信に過度に慎重になった、心理的なプレッシャーが増した、M&Aを決断するに当たってより多角的な視点で検討しなければならないと感じ、躊躇してしまうことがあるなどの声もありました。
 上場コストが重荷となって負のスパイラルに突入してしまわないように、上場すべきかどうかの判断をしなければなりません。上場はあくまでビジネスを拡大させるための手段であり、目的とすべきものではありません。

 ここまでが、個人投資家も参加可能な市場についてお伝えさせて頂きました。
 次に、プロ投資家向け市場について学びましょう。

6 TOKYO PRO Marketとは?

 市場参加者をリスク許容度の高いプロ投資家に限定した、形式的な上場基準のない自由度の高いマーケットです。
 プロ投資家とは、適格機関投資家(金融機関など)のみでなく、国、日本銀行、上場会社、資本金5億円以上の株式会社、日本国内に住所または居住を持たない個人、法人など幅広に定義しています。また、上記以外の株式会社、一定の要件に該当する個人(純資産の合計額/金融資産の合計額が3億円以上と見込まれ、1年以上の取引経験を有すること)も、証券会社への申出により、プロ投資家として市場に参加可能です。

 また、TOKYO PRO Market(以下、文中では「TPM」)では、ロンドン証券取引所の運営するロンドンAIMにおけるNomad制度を参考として「J-Adviser 制度」を採用し、上場審査から上場後の継続的な助言・指導サポートまでをJ-Adviserが行っています。

特徴①:プロ投資家向け市場を示した画像です
【図】特徴①:プロ投資家向け市場

特徴②:自由度の高い上場基準を示した画像です
【図】特徴②:自由度の高い上場基準

特徴③:アドバイザー制度を示した画像です
【図】特徴③:アドバイザー制度=J Adviser

7 TOKYO PRO Market 上場までのプロセスは?

 取引所は、J-Adviserに対して上場適格性の調査状況を確認します。

〈上場適格性要件〉

  • 新規上場申請者が、当取引所の市場の評価を害さず、当取引所に相応しい会社であること
    • 法律体系・会計体系・税制等を理解しているか
    • 予算統制(年次/半期/月次等)が整備されているか
    • 上場予定日から12カ月間の運用資金が十分であるか
  • 新規上場申請者が、事業を公正かつ忠実に遂行していること
    • 関連当事者取引や経営者が主体的に関与する取引の状況を把握し、牽制する仕組みを有しているか
    • 代表取締役社長及び役員の資質面に問題がないか
  • 新規上場申請者のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること
    • 社内規程が整備され、適切に運用されているか
    • 事業運営及び内部管理に必要な人員が確保されているか
    • 法令遵守のための社内体制が整備され、適切に運用されているか
  • 新規上場申請者が、企業内容、リスク情報等の開示を適切に行い、この特例に基づく開示義務を履行できる体制を整備していること
    • 上場後の開示態勢が整備され、開示規則・開示義務に対して十分な理解があるか
    • 内部者取引及び情報伝達・取引遂行行為防止のための体制が整備されているか
  • 反社会的勢力との関係を有しないことその他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項
    • 反社会的勢力との関係を有していないか
    • 反社会的勢力排除のための社内体制が整備されているか
    • 設立以降からの株主の移動状況を把握しているか

 J-Adviserによる調査・確認後、東証への意向表明、J-Adviser面談、上場申請、上場承認、上場日という流れになります。

上場までのステップを示した画像です
【図】(参考)上場までのステップ

TPM上場にかかる主なコストを示した画像です
【図】TPM上場にかかる主なコスト

8 TOKYO PRO Marketの特徴

 TPMには、マザーズやJASDAQと比較して小規模の企業が多く上場しています。

TPMに上場している企業の特徴を示した画像です

 2020年2月現在、TPMに上場している企業は34社ありますが、その資本金を見ると10社が1億円以上10億円未満、残り24社が1,000万円以上1億円未満です。
 また、株主数、社歴、従業員数を見ても、小規模の企業が多く上場していることがわかります。

TPMに上場している企業の株主数、社歴、従業員数を示した画像です

 2011年以降、上場会社数は増加基調で、2019年は9社が新規上場しましたが、これは単年ベースでの新規上場会社数として過去最多です。近年では、TPMを経由してマザーズやJASDAQといった一般市場への上場を果たす企業も出てきました。
 また、現在上場している34社中24社が東京以外の地域の企業であり、各地域の活性化に繋がると期待が高まっています。

9 TOKYO PRO Marketへの上場メリット

 一般市場への上場と同じように、1.資金調達、2.知名度向上、3.信用力向上、4.社内管理体制の構築、5.従業員の士気向上、6.人材採用などのメリットが考えられます。したがって、TPMは、市場における株式の流動性を背景に発行市場における公募増資などの直接金融の道が開かれる、地域企業の国内の全国展開や海外展開が行いやすくなる、M&A/業務提携等の経営判断が迅速になるといった上場のメリットを活用頂くことによって、地域企業の成長を支えています。

 また、「TPMならでは」のメリットとして、以下が挙げられます。

上場までのハードルの高さが低い

  • 上場前の監査期間は最低1期間のため、一般市場に比べて短期間での上場も可能
  • 上場にあたって一般市場で求められるJ-SOX対応やマザーズ市場で求められる高い成長可能性は不要
  • 目利きができるプロ投資家市場のため、親子上場も可能

支配権を維持した状態での上場ができる

  • 必ずしも新株発行/売出しの必要がなく、支配権を維持した状態での上場が可能
  • 上場後も資本政策の自由度を維持することが可能

上場維持コストの負担軽減

  • 一般市場では適時開示が必要な書類の一部が任意(四半世紀開示等)、かつ開示に関してJ-Adviserがサポート
  • 一般個人株主対応が不要

 最後に、実際にTPMに上場した企業の経営者の声をお届けします。


  • 「上場はゴールではなくて、会社が成長するためのジャンプ台=ツールだと思うようになりました。上場したら新商品開発とか新しい販路とか、海外進出とか、良いことについても地元紙、経済紙が取り上げてくれます。それから、上場したら皆が自立して、一度発表した数字には責任を持たなければならないということがわかり、その達成のためには自分がどうしたら良いか考えて行動しています。」

    「上場すると、すぐにその効果を実感しました。以前から注目していた口腔内スキャナーの販売計画が、上場をきっかけにとんとん拍子で進みました。上場をきっかけに営業拠点として東京本部を設置しました。ここで数多くのスペシャリストを確保し、営業部門・管理部門を充実させています。上場前は全社で50人程度だった従業員数が、上場後の2016年3月現在、80人程度まで膨れ上がった。これもまた、上場の大きな効果と言えます。」

    「TPM上場時に資金調達を行いましたが、その過程は自分が経営者として他者からどのように見られているかを試す格好の機会にもなりました。不特定多数の目に見えない株主と向き合うよりも、関係性のある取引先や金融機関など『目に見える株主』との間で、安定的に経営できるTPMは、さらなる成長を目指す準備として最適な市場です。」

 以下のリンクから、その他の声もぜひご覧ください。

●上場会社トップインタビュー「創」
https://www.jpx.co.jp/listing/ir-clips/interview/index.html

10 最後に

 今回のインタビューでは、現在、ベンチャー企業が、経営の一つの目標としている東証上場の現状をお話ししました。
 一方、並行して、東証市場は、昨年末に公表された金融審議会グループ報告書「~令和時代における企業と投資家のための新たな市場に向けて~」での検討事項を踏まえ、5つの市場区分を見直し、新たに2022年4月1 日を一斉移行日と予定(新型コロナウイルス感染症の影響で見直し中)で、“プライム市場”、“スタンダード市場”及び“グロース市場”の3つ(仮称)の市場区分に再構成される方針が示されています。
 この背景には、一言でいえば、時代が重厚長大社会からIT社会に大きく変貌を遂げ、そこから生まれるニュービジネスにも大きな変化が生じたことから、市場の役割の調整が必要になったと言えるでしょう。
 詳細については、森若さんと相談の上、別途、ご説明の機会を得ることができればと考えています。

※図は東証セミナー配布資料より

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年12月2日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】 inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト http://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

●勝尾修
大学卒業後、キヤノン株式会社に入社。
カメラ製造の主管である福島工場で名物“鬼”経理課長の下、徹底的に「原価は工場の敷地内にあり」を叩き込まれる。
その後、東京証券取引所へ移り、上場審査で新規上場する成長性のある企業の審査を担当しながら、ビジネスの成功の秘訣と、成長の秘訣が違うことに気がつき、上場企業の価値を理解。
いくつかの部署を経験したが、マザーズ市場創設時には、新規上場ベンチャー企業のIR活動のサポートを担当。
一時、大手町の経済団体にも出向し、産学官連携推進による産業振興や中国経済との関係強化による産業振興も担当し、現在は、そこで得た視点を交え、地方創生支援とスタートアップ支援を担当(現上場推進部所属)。

●森若幸次郎 / John Kojiro Moriwaka
イノベーションプロバイダー、ファミリービジネス二代目経営者、起業家、講演家、コラムニスト

山口県下関市生まれ。19歳から7年半単身オーストラリア在住後、家業の医療・福祉・介護イノベーションを目指す株式会社モリワカの専務取締役に就任。その後、ハーバードビジネススクールにてリーダーシップとイノベーションを学ぶ。約6年間シリコンバレーと日本を行き来し、株式会社シリコンバレーベンチャーズを創業。近年はNextシリコンバレー(イスラエル、インド、フランスなど)のエコシステムのキープレーヤーとのパートナーシップと英語での高い交渉力を活かし、スタートアップ支援やマッチングを行う。「日本各地でのイノベーション・エコシステムの構築方法」や「どのように海外スタートアップと協業しオープンイノベーションを起こすか」を大企業、銀行、大学などで講演、病院ではリーダーシップセミナーを行う。国内外アクセラレーター支援、スタートアップイベント運営、ピッチ指導(英語・日本語)等も行う。

株式会社シリコンバレーベンチャーズ代表取締役社長 (兼) CEO
株式会社モリワカ専務取締役(兼)CIO
情報経営イノベーション専門職大学 客員教授
MIB Myanmar Institute of Business 客員教授
Startup GRIND Fukuoka ディレクター

著書「ハーバードのエリートは、なぜプレッシャーに強いのか?」

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