2019.9.12Q-Board単独上場の際の写真((株)ピー・ビーシステムズ証券コード4447)

新しい生活様式の導入により、都心部から地方へ移住をする“コロナ移住”が関心を集めています。

働き手が東京一極集中から脱却していく中、企業はどのように都市部からの脱却や、地方経済への参入を考えていけばよいでしょうか。

今回はそのヒントとするために、九州周辺エリアの経済活性化を目指し、中小・ベンチャー企業支援に取り組む、福岡証券取引所 三橋 真樹氏にお話を伺いました。

三橋さん、貴重なシェア、愛りがとうございます!(愛+ありがとう)

1 福岡証券取引所は、地域経済活性化を目的とし、独自のシステムを持つ証券取引所

福岡証券取引所の地域経済活性化の施策について触れる前に、まず福岡証券取引所の基本情報をご説明します。

1)福岡証券取引所の概要

福岡証券取引所(以下、「福証」)は、1949年設立。2020年度中の売買代金は203億円、2021年3月末現在での上場社数は107社。上場している企業のうち82社は東京証券取引所などの他の証券取引所にも上場している、いわゆる「重複上場」で、25社は福証のみの「単独上場」となっています。

市場区分は、一定の企業規模・利益実績を有し、今後さらなる拡大を目指す企業に向けた「本則市場」と、九州周辺に本店があり(あるいは九州地域周辺での事業実績があり)、新しい技術やユニークな発想を持つ新興企業向け市場「Q-Board(キューボード)」の2つに分かれています。これらは、東証でいうところの「東証一部」や「東証マザーズ」のようなものと思っていただくとわかりやすいかと思います。

2)上場における基準

■本則市場

  • 上場時株主数 300人以上
  • 流通株式数
    流通株式数2,000単位以上かつ上場株式数の25%以上または、上場日の前日までに公募または売出しを1,000単位または上場株式数の10%のいずれか多い株式数以上を行うこと
    または、流通株式数2,000単位以上かつ上場株式数の25%以上
  • 上場時価総額 10億円以上
  • 事業継続年数 3年以上
  • 純資産の額(上場時) 3億円以上(単体:正)
  • 利益 最近1年5,000万円以上

■Q-Board

  • 上場時株主数 200人以上
  • 流通株式 500単位以上の公募
  • 上場時価総額 3億円以上
  • 事業継続年数 1年以上
  • 純資産の額(上場時) 正

3)上場費用

■本則市場

-イニシャル

  • 上場審査料 100万円
  • 新規上場手数料 定額300万円
  • 定率 公募総額の万分の2、売出総額の万分の1

→合計 400万円+α

-ランニング

  • 年賦課金 単独:42~60万円、重複:6~24万円
  • 追加上場手数料 調達額の万分の2

■Q-Board

-イニシャル

  • 上場審査料 50万円
  • 新規上場手数料 定額150万円

→合計 200万円

-ランニング

  • 年賦課金 単独:42~60万円、重複:6~24万円
  • 追加上場手数料 調達額の万分の2

4)福証の特徴

福証の2つの市場には、それぞれのコンセプトに応じて異なる審査基準が設定されていますが、Q-Boardでは「地域経済の活性化」を大きな目的とし、地元に根づいた企業と地元の投資家の方々を意識して作られているのが大きな特徴です。

上場にかかる費用が他の市場よりも比較的安価なのもそのためで、これは、多くの企業が上場し、元気になってもらうため、上場にかかる費用を少しでも抑えてもらいたいという想いからです。

また、営業部員は九州エリアの主要企業の出身の出向メンバーが多いことも福証の特徴。
三橋さんの所属する営業部は、福岡銀行、西日本シティ銀行、九州電力、西部ガス、西日本鉄道などの出身者から成り立っています。

地元・福岡経済界に強力な地盤を築く企業群と、新たに参入・拡大を目指す企業との橋渡し役を、福証が果たしているのです。

2 福岡証券取引所の強みは、複数の企業・機関と連携したサポート力

福証で上場するメリットとして、大きく以下の4つが挙げられます。

  • 信用力の向上
  • 発信力の向上
  • サポート力
  • コスト

1.に関してはどこの市場に上場しても同様なのでは? と思われるかもしれません。しかし、「地元企業を、地元の証券取引所が審査する」という信頼は、やはり地域においては特別なもの。

発信力に関しても同様で、福証は地元メディア・地元経済界との強固なネットワークを築いています。これは、「地元エリアで今後成長していきたい」「認知度向上を図りたい」と考える企業にとっては、大きなメリットとなっています。

そして、福証の最も大きな強みは3つめの「サポート力」。福証は、九州経済の中心地・天神に位置しており、多くの企業にとってアクセスがよく、相談事などにもスピーディな対応が可能です。

もちろん立地などのハード面だけでなく、支援内容などのソフト面も充実しており、福証は独自のさまざまな取り組みを行なっています。
具体的な支援活動は以下の通りです。

1)九州中小・ベンチャー企業IPO支援プロジェクト(QSP)

福証では、2005年3月に福岡県ベンチャービジネス支援協議会・九州ニュービジネス協議会・中小企業基盤整備機構九州本部・福岡証券取引所の4つの団体からなる「九州中小・ベンチャー企業IPO支援プロジェクト」(以下「QSP」)を創設しました。

監査法人や証券会社といった企業のIPOに向けた具体的支援を行う「IPOサポーター」、行政や一般財団法人・公益財団法人などの「地域サポーター」とも連携し、上場準備・上場検討段階の企業のサポートを行なっています。

IPOサポーターは、QSP独自の審査基準をクリアした企業のみで構成されており、2021年3月末時点で81社にのぼります。(IPOサポーターへの登録料は無料)

「福岡証券取引所への上場を目指す、地元企業を支援する」というコンセプトに共感している企業がサポーターとなっているので、IPOに関するセミナーの開催や、検討段階の企業の相談事などを可能な範囲で、無報酬で対応しています。

さまざまな企業・機関と連携したIPO支援というのは他の証券取引所でも見られるものの、組織として本格的に取り組んでいるのは、全国的にも非常に珍しいケース。

2)九州IPO NAVIGATE

九州IPO NAVIGATEとは、福証のホームページ上にある上場を目指す企業に向けたプラットフォームのことです。

IPOサポーターが主催しているセミナーやイベント情報の発信を日々行っている他、上場に興味がある企業が気軽に相談できる、オンライン上の相談窓口を設置。相談内容に応じて、IPOサポーターとのマッチングも行なっています。

上場経験のない経営者にとって、上場というのは未知のもの。身近に相談相手がいない場合も多く、「誰に、どのように相談したらよいのか?」「まず何から着手すればよいのか?」と悩む方も多いため、そうした不安の解消に利用してもらうことを想定しています。

3)九州IPO挑戦隊

上場を目指す企業に対し、より実践的なサポート活動として2009年に創設されたのが、「九州IPO挑戦隊」です。

九州IPO挑戦隊は、今後3~5年での株式上場を目指す企業に対し、2年程度かけて、実践的な知識の習得と企業力を高めるためのサポートを行う組織。

参加できる企業は選抜制で年度ごとに4~5社程度まで、毎年6月頃にスタートして、独自のプログラムを受講してもらいます。入会料やセミナー費用は無料です。

1年目は上場に向け必要な知識を蓄える準備期間、2年目は各社の状況に応じた上場準備の具体的なサポートをスタート。2年間のプログラム修了以降も、企業の状況や要望により、引き続きサポートを継続しています。

過去の九州IPO挑戦隊の入会者数はのべ63社、九州7県の他、沖縄県や山口県、広島県、京都府、東京都の企業からも参加者が集まっています。

また、選抜企業向けのクローズドなセミナー以外にも、上場に関心のある企業に向けたオープンセミナーを別途開催しており、そちらも好評です。
(※2020年度は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、開催なし。2021年度は、選抜制セミナー・オープンセミナー共に規模を最小限に抑えて開催中)

九州IPO挑戦隊入会式の画像です

2021.6.16第13期 九州IPO挑戦隊入会式

3 地元企業と投資家をつなぐ福証IRフェア。認知度向上のメディアとの橋渡し役も担う

企業にとって、上場はゴールではなくスタート。
福証では、上場後の企業へもさまざまな支援活動を行なっています。

その一例が、企業の魅力を投資家へ伝える、「福証IRフェア」。
福証IRフェアは、150~160名の投資家の方々を一堂に招いて、上場企業にプレゼテーションをしてもらうイベントです。

参加企業からは「個人投資家と直接やりとりができ、非常に勉強になる」といった声も上がり、人気を博しています。
(※2020年度以降は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、オンライン開催)

また福証では、上場企業支援の一環として「福証IRNAVI」という企業の情報発信を行なっています。

掲載されるのは、福証に単独上場している企業のグループ「単独上場会社の会」のメンバーのみで、Web上での閲覧が可能。福証IRNAVIは、地元での知名度向上はもちろん、掲載企業にとっての社内報のような役割も果たしています。

そしてもう1つが、企業にとってもメリットの大きい「メディアの活用」
福証が入居しているビルには、福岡金融・経済記者クラブという記者クラブが。あります。

福証に上場した企業は、同ビル内で、福岡金融・経済記者クラブを招いて「上場式」を。開催しています。

「自分たちは何をしている企業で、どのような想いで上場したのか、今後どのように成長していくか」などを記者たちの前で語り、その様子が多くの地元メディアで取り上げられるのです。

先述の「九州IPO挑戦隊」の入会式や、決算発表なども同様にメディアを招待して行われ、企業の知名度の向上に大いに役立っています。

4 地元経済界の厚い支援を受ける福証。その成り立ちとは?

ここまで見てきた通り、福証は地元経済界、IPOサポーターや地域サポーター、地元の有力メディアなど、さまざまな地域の力が集結することで、上場企業を応援するエコシステムを作り上げています。

では、どのようにその確固たる地域のネットワークを築いたのでしょうか。

その背景には、「福岡証券取引所活性化推進協議会」という1998年に設立された組織があります。

福岡証券取引所活性化推進協議会が発足した1998年は、テクノロジーの進化などにより、証券取引に関するさまざまな規制が緩和された時期でした。

例えば、規制緩和以前には「企業は、本社のあるエリアの証券取引所で上場しなくてはならない」といった決まりがありましたが、それが撤廃されました。
 また、インターネット上での証券の売買なども始まり、「エリア」という概念がなくなりつつあったのです。

エリアの概念がなくなったことで、各企業が目指す先は東証に集中し、福証をはじめとする各地方市場は衰退傾向となっていきました。

神戸・新潟・広島・京都といった地方市場は、次々と合併や閉鎖となり、現在残っている地方証券取引所は、札幌・東京・名古屋・福岡の4つとなっています。

このような状況下で、「福証は九州の中心地。資金調達の場としての機能を維持していかなくてはならない」という考えから、福岡の地元経済界・行政が一体となって、福岡証券取引所活性化推進協議会を立ち上げたのです。

協議会は今日も活動しており、企業間での情報交換の場を設けたり、IPO挑戦隊企業・新興企業などの紹介を行ったりするなどして、地元経済界の交流を活性化させています。

その他、福証ではさまざまな金融機関と「地域における企業の株式上場に向けた成長支援に関する協力協定」を締結しており、金融機関から福証への企業紹介や、福証から行員に向けたIPOセミナーなどの開催など、相互に交流を図っています。

5 「地元企業を、地元の証券取引所が審査する」。福証で上場するメリット

東証と比較すると、売買高も少ない福証。
企業にとって、福証に上場することに、どのようなメリットがあるのでしょうか。

1.福証で基礎を築き、さらに大きな市場を目指せる

福証へ上場した数年後、東証マザーズなどへの重複上場をするケースも見受けられます。

福証への上場をさらなる成長へのプロセスと捉え、企業力を蓄える。
地元企業の成長を第一に考える福証は、そうした活用方法も歓迎しています。

2.地元における知名度・信頼度の向上

福証の地元企業や金融機関などにおける認知度は非常に高く、信頼度の向上、資金調達力の向上に寄与しています。

3.優秀な人材の確保・採用における優位性

地元の証券取引所に上場していることにより、地元での知名度が向上し、「以前よりも、優秀な人材を採用しやすくなった」という企業はとても多いです。

2021年4月に公表された帝国データバンクの第24回「株式上場意向に関するアンケート調査」でも、企業が上場を目指す目的として、「知名度や信用度の向上(172社)」「優秀な人材の確保(149社)」「資金調達力の向上(132社)」などが上位に挙げられています。

上記のような成果を期待する多くの企業にとって、福証の「地元企業を、地元の証券取引所が審査する」スタイルは、大きな魅力と言えるでしょう。

6 福岡からアジアへ。福証の今後の展望

昨今、福岡を中心に、経済界・行政を巻き込んで、スタートアップやベンチャーのエコシステムが構築され始めています

こうした流れに伴って、「福証で上場したい」という地元企業が増え、今後ますます大きな役割を担う組織となっていくことを期待しています。

特にアジア圏から見た場合、九州・福岡は地理的な優位性があります。アジア圏の企業が、日本進出の第一歩として福証に上場して地盤を築き、その後東証を目指すという展開もあると考えています。

海外企業の福証上場という事例は今のところありませんが、ボーダレス化が加速していく中で、福証として海外企業が上場できる制度も整えています。

福証は今後も、地元企業を元気にし、地元経済の発展に貢献してまいります。

三橋さんの画像です

2019.9.12Q-Board単独上場の際の写真((株)ピー・ビーシステムズ証券コード4447)

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年12月6日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

提供
●福岡証券取引所 営業部長 三橋真樹(みはしまさき) ●森若幸次郎 / John Kojiro Moriwaka
●福岡証券取引所 営業部長 三橋真樹(みはしまさき)
1963年生まれ、福岡県出身。
(株)福岡銀行入行後、計10支店での勤務を経て、(株)FFGフィナンシャルグループで事務系の管理・企画・支店への指導に従事。また、新店開設準備業務も経験。
2016年支店での勤務を経て、2018年福岡証券取引所へ出向。現在に至る。

●森若幸次郎 / John Kojiro Moriwaka
イノベーションプロバイダー、ファミリービジネス二代目経営者、起業家、講演家、コラムニスト
山口県下関市生まれ。19歳から7年半単身オーストラリア在住後、医療・福祉・介護イノベーションを目指す株式会社モリワカの専務取締役に就任。その後、ハーバードビジネススクールにてリーダーシップとイノベーションを学び、卒業生資格取得。約6年間シリコンバレーと日本を行き来し、株式会社シリコンバレーベンチャーズを創業。スタートアップ、中小企業、大企業、アクセラレーター、ベンチャーキャピタル、CVCの支援を行う。シリコンバレーやNEXTシリコンバレー(イスラエル、インド、フランス等)をはじめとする海外のエコシステムのキープレイヤーとのパートナーシップや英語での高い交渉力に定評がある。講演(「世界のスタートアップエコシステムから学ぶグローバルオープンイノベーション」等)、イノベーター育成研修、スタートアップイベント運営、ピッチ指導等、実績多数。
株式会社シリコンバレーベンチャーズ代表取締役社長兼CEO
株式会社モリワカ専務取締役兼CIO
情報経営イノベーション専門職大学 客員教授
MIB Myanmar Institute of Business 客員教授
Startup GRIND Fukuoka ディレクター

著書「ハーバードのエリートは、なぜプレッシャーに強いのか?」

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