契約当事者の事情の変更などによって、契約内容を変更することは珍しくありません。既に交わした契約書(以下「原契約書」)の内容を変更する方法は、「原契約書を失効させて、新たな契約書を交わす方法」と「原契約書は有効としたままで、変更する内容だけを定めた『覚書』などを交わす方法」とがあります。どちらの方法で変更しても法的効力に変わりはないので、相手方と話し合って決めましょう。
また、「想定していた品質の商品が納品されない」「頻繁に納期が遅れる」といったように、相手方が契約義務を履行しないなど、場合によっては、契約の終了や解除を検討することもあるでしょう。こうしたときの対応は、契約内容によって異なります。
この記事では、契約内容の変更や、契約を終了・解除する際に注意すべき点などを紹介します。

1 締結済みの契約内容を変更する方法
1)変更する内容の重要性や変更する箇所の多さなど
原契約書の重要な内容を変更する場合や変更箇所が多い場合は、新たな契約書を交わすほうがよいでしょう。
新たな契約書を交わす場合、もう一度、内容の厳格なチェックがなされるため、変更内容について勘違いをしたり、契約書を紛失したりするリスク(覚書を締結する場合は、原契約書と覚書の2通を管理する必要があるため、紛失リスクが生じる)は低くなります。ただし、新たな契約書ということで、確認や承認には時間がかかります。
2)覚書で変更する回数や紛失のリスクなど
初めて原契約書の内容を変更するときや、これまで締結した覚書が少ないときは、覚書を交わす方法で問題ありません。原契約書をベースにした覚書なら、確認や承認などがスムーズに進みやすいと考えられます。
ただし、過去に何度も覚書で原契約書を変更している場合は保管が煩雑になります。また、それまでの経緯を知る担当者が異動することもあります。その結果、どれが最新の契約内容なのかが分かりにくくなったり、覚書そのものを紛失したりしてしまうリスクが高くなります。
3)印紙税の負担
契約書が印紙税法上の課税文書に該当する場合、新たな契約書を交わすと、あらためて印紙税を納めなければなりません。覚書の場合、内容によっては課税文書に該当しないため、印紙税が不要になることがあります。印紙税については、「【再監修】図解 印鑑の意義、契約書への印鑑の押し方、印紙の貼り方」で詳細をご確認ください。
2 押さえておきたいポイント
1)新たな契約書を交わすとき
新たな契約書を交わすときは、新旧の契約書が併存しないように、原契約書を失効させなければなりません。具体的には、新たな契約書の前文に「本契約の成立により、甲乙間で○○年○月○日に締結した『□□に関する契約書』は失効するものとする」と定めたり、別途「合意解約書」を交わしたりして、原契約書を失効させます。
2)覚書を交わすとき
覚書を交わすときは、どの原契約書に関する覚書なのかを明確にしなければなりません。具体的には、覚書の前文に「甲と乙は、甲乙間で○○年○月○日に締結した『□□に関する契約書』の●●に関する定めを変更する目的で、以下の通り、覚書を締結する」などと定めます。
3 新旧対照表の作成
契約書の内容を変更するとき、変更箇所を分かりやすく示すために、次の通り、「新旧対照表」を作成することがあります。新旧で変更のない条項については「第○条(略)」などとして内容の記載は省略します。また、変更のある条項については、全文を記載した上で、変更した文言に下線を引いて、変更した部分が一目で分かるようにします。

4 契約終了の基本的な流れ
1)まずは契約書や取引状況を確認する
契約終了を検討するときは、契約書で定められている「契約期間」「契約終了後も効力が残る『残存条項』」などを確認します。
例えば、秘密保持義務については、契約終了後も一定期間は残存するのが通常です。また、いわゆる“掛(かけ)”で取引をしている場合は、契約終了後も債権・債務が残ることがあります。このような注意点を洗い出した上で、契約終了を検討します。
2)契約終了が決まったら、まずは相手方に連絡
自社で契約を終了させるという方針が正式に決まったら、相手方に終了の意向を伝えます。相手方に配慮し、こうした連絡は早めにすることが大切です。
3)契約を終了させる
1.契約期間に自動更新の定めがあるとき
契約書に自動更新の定めがあるときは、「契約期間は、○○年○月○日から○○年○月○日までとする。ただし、契約期間満了日の3カ月前までに、甲乙いずれからも解約の申し出がないときは、本契約と同一の条件でさらに1年間更新されるものとし、以後も同様とする」というように、契約期間と併せて解約申し出期間(上記の場合は、契約期間満了日の3カ月前まで)が定められています。
この場合は、解約申し出期間内に、相手方に解約する旨の申し出をします。契約書に特段の定めがなければ申し出方法に決まりはありませんが、解約を申し出た証拠が残るように、「内容証明郵便」(「誰が、いつ、誰に、どんな内容の文書を送ったのか」について、日本郵便が証明する制度)を使ったほうがよい場合もあります。
2.自動更新に関する定めがないとき
自動更新に関する定めがなく、「契約期間は、○○年○月○日から○○年○月○日までとする」といったように、契約期間のみが定められているときは、特段の手続きをとらなくても、契約期間の満了とともに契約は終了します。
3.上記以外で契約を終了させたいとき
「解約申し出期間が過ぎてしまったが、契約を解約したい」「契約期間の満了を待たずに契約を解約したい」などといった場合、契約書に基づいて契約を終了させることはできません。このときは、相手方と合意した上で、契約を終了させなければなりません。
4.交渉と合意解約書の締結
契約書の内容や債権・債務の状況などを踏まえ、契約終了に伴う手続きなどについて、相手方と話し合います。話し合いが終了したら、その結果をまとめた合意解約書などの書面を交わすほうがよいでしょう。
合意解約書には、契約の終了日の他に、残存条項の内容を変更する場合はその旨を定めます。また、債権・債務がないときはその旨を、債権・債務があるときは、「清算に関する事項(金額、返済期限、返済方法など)」を定めるのが一般的です。
合意解約書は、契約を終了させるための必須事項ではありませんが、後のトラブルを防止するためには有効な手段です。
5 契約が履行されないときの対応
相手が契約義務を履行しないときの対応は、契約内容によって異なります。以降では、相手方が経営不安に陥り、商品の代金が期日までに支払われなかった場合の債権回収について考えてみましょう。
1)最初に確認・検討すること
1.消滅時効の確認
債権を行使する権利は、法令で定められた手続きをとらなければ、一定期間が過ぎると消滅してしまいます。これを消滅時効といい、債権の種類などによってその期間は異なります。必ず対象となる債権の消滅時効の期間を確認しなければなりません。なお、民法改正により、今後は短期消滅時効が廃止される等、消滅時効期間が見直されていますので、一度確認しておくとよいでしょう。
なお、相手方に催告をすることで、時効の完成が6カ月間猶予されます。この猶予は催告後6カ月以内に、裁判上の請求や支払督促の申し立てなどを行うことが前提ですが、時効が迫っているものの、解決までにはさらに時間がかかるような場合は有効でしょう。催告をする方法に特段の定めはありませんが、催告をした事実を証拠として残すために、内容証明郵便を使うことが一般的です。
2.消滅時効の完成猶予または更新する方法
消滅時効の完成猶予または更新するための比較的簡単な方法は、「相手方に債務の存在を認めてもらう」ことです(債務の承認)。これにより消滅時効までの期間はリセットされ、債務の承認を行った日から再度消滅時効までの期間を計算し直すことができます(時効の更新)。「債務確認書(債務がある旨や、その金額などを記載したもの)」を作成して、相手方に記名押印をしてもらうことで、債務の承認の証明が容易になります。
3.契約解除
債務不履行に基づく契約解除を検討します。事案が契約書の解除事由に該当する場合は、それに基づきます。一方、契約書の解除事由に該当しない場合は、慎重な対応が必要です。契約を一方的に解除すると損害賠償を請求される恐れがあるからです。なお、民法改正によって、今後は、債務不履行の原因(帰責性)が相手方(債務者)にある必要はなくなり、相応の期間を定めて催告を行い、それでも債務が履行されない場合は、契約書に定めがなくても、相手方に契約解除の意思表示をすることで契約を解除できるようになります。
なお、次の記事では、解除条項の定め方や、改正民法によって契約解除の考え方で変更される点をまとめているので、参考にしてください。
2)話し合いをする
債権を回収できないことが分かったら、まずは話し合いによる解決を目指します。支払いスケジュールや支払い方法の変更、相手方が持つ資産の売却や債権譲渡などによる支払いの可能性など、債権回収のための調整を行います。
相手方の経営不安が原因の場合、支払いが滞っているのは自社に対してだけではありません。そこで、債権回収の可能性を高めるためには、できるだけ早く相手方との話し合いの場を持つことが大切です。
ただし、資産保全をするために債権等の仮差押えが必要な場合は、悠長に話し合いをすることが望ましくないケースもあります。そのため、個別具体的に債務者との関係や資産状況等を勘案して、対応を検討する必要があるでしょう。
3)内容証明郵便
相手方が支払いに応じない場合は、内容証明郵便を送付する方法があります。内容証明郵便を送付することで、当方の債権回収に対する意気込みが伝わり、相手方に「支払わなければ」という心理的なプレッシャーをかけることができます。さらに、後に裁判になった場合に、文書の内容およびその文書を出したことの有力な証拠となります。
内容証明郵便には所定の書式があるため、取り扱い郵便局などで確認するようにしましょう。
4)調停や和解
調停は裁判官または調停官と、民間の有識者等から選任された調停委員および契約当事者が一緒になって話し合って、解決を図る制度です。裁判と比べると手続きが簡単で、柔軟な解決方法を探ることができることがメリットです。調停によって合意が成立し、調書に記載されると、その内容には確定判決と同じ効力が生じます。
また、既に相手方との間で合意がほぼ成立している場合は、簡易裁判所に対して和解の申し立てを行い、和解内容を調書に記載してもらう即決和解という方法もあります。和解が成立し、調書に記載されると、確定判決と同じ効力が生じます。
5)訴訟や強制執行
訴訟や強制執行は、他の方法では解決できないときの最後の手段です。訴訟とは、いわゆる「裁判所に自分が相手方に実現してほしいことを訴える」ことです。調停や和解は相手方との合意が前提となりますが、訴訟では双方の主張を聞いた上で、裁判所が公正な判断(判決)を下します。判決には拘束力があるため、債権回収の可能性は高まります。
また、強制執行は、いわゆる「差押え」といわれるものです。相手方の財産を差押えて、強制的に債権回収をします。例えば、代金を支払う旨の判決が出たにもかかわらず、相手方が支払いに応じないといったときは、強制執行を実施して債権回収を図ることができます。
ただし、訴訟や強制執行は、他の方法に比べて労力や時間、費用がかかるものです。また、この段階に至っても代金を支払わないのは「支払いたくてもお金がなくて支払えない」ケースであることが多く、訴訟や強制執行でも債権回収ができない可能性もあります。
訴訟や強制執行を実施するか否かを検討するときは、こうした点も踏まえることが大切です。
6)公正証書
公正証書とは、公証人が法律に従って作成する公文書のことです。原則、契約書を公正証書とする必要はありませんが、契約書を公正証書とすることには3つのメリットがあります。
1つ目は、裁判所の判決を待たずに強制執行を実施できることです。「納品したのに、相手方が代金を支払ってくれない……」。こんなときの対策の1つに、相手方の財産を差押えたり、支払いをさせたりすることができる強制執行があります。通常、強制執行を実施するためには、裁判で勝訴の判決を得る必要があります。しかし、一定の内容の契約については、「本契約に違反したときは直ちに強制執行をされても異議を申し立てない」といった、強制執行認諾文言を盛り込んだ契約書を公正証書にすると、勝訴の判決は不要で、直ちに強制執行が実施できます。
2つ目は、高い証明力です。公正証書は、文書の成立について「真正である」(その文書は作成名義人の意思に基づいて作成されたものである)との推定を受けるため、高い証明力を持ちます。また、公正証書に書かれた日付は確定日付としての効力が認められます。確定日付は、契約当事者が後になって変更することができず、その日にその書面が存在していたことを証明するものです。契約においては、日付の改ざん防止のためや債権譲渡について第三者に対抗するために、この確定日付が重要になることがあります。
3つ目は、書面の保存性の高さです。作成した公正証書は契約当事者に1通ずつ交付されますが、原本は原則として20年間、公証役場に保管されるので紛失の心配がありません。
公正証書の作成には費用や手間がかかるので、全ての契約書を公正証書にする必要はありませんが、金銭の支払いを目的とした契約で金額が大きくなるものは、公正証書としたほうがよい場合もあるでしょう。
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以上
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