IPOのメリット・デメリット、ちゃんと理解していますか?

IPO(Initial Public Offering: 新規株式の公開)を1つのゴールにしているスタートアップ企業やベンチャー企業が少なくありません。実際、IPOの件数も増加傾向にあり、2018年9月末時点で56社のIPOがあります。「年間100社上場」となる日も遠くはないかもしれません。

「自社のIPOを検討してみたい」「IPOがゴール!」と考える経営者は、まずIPOの基本的なメリットとデメリットを理解する必要があるでしょう。IPOによって資金調達などがしやすくなる一方、経営の自由度は低くなるなどの影響が出ます。ポイントを整理していきましょう。


あわせて読む
シリーズ・IPO

こちらはIPOシリーズの記事です。
以下の記事もあわせてご覧ください。

IPOのメリット

1)資金調達ができ、事業機会の拡大や成長投資が可能に

IPOの大きな目的は資金調達です。間接金融や経営者個人の裁量で調達してきた企業も、上場することで広く投資家から出資を募り、返済が不要な自己資本を増強することができます。上場により資金調達の選択肢を増やすことができるということは、それだけ事業機会の拡大や研究開発などに必要な資金調達が可能であるということにつながります。なお、近年は未上場企業の資金調達が活発であり、一概にIPOがもたらすメリットとは言い切れない面もあります。

2014~2018年9月13日の間にIPOをした企業の公募・売出しの合計額の中央値は、次のようになります(日本取引所グループウェブサイト)。仮にマザーズに上場した場合は、11億円程度の資金調達ができる可能性があります。

  • マザーズ:11億円(最大値は1307億円、最小値は1.5億円)
  • JASDAQスタンダード:7.2億円(最大値は40億円、最小値は3.5億円)

調達した資金の使い道は企業によって異なりますが、新サービスリリースに必要となる人材獲得費用・研究開発費用・設備投資など、さらなるステップアップのためにさまざまな資金の用途があります。

2)信用度や知名度がアップ

上場に当たっては証券取引所の厳格な審査をクリアすることが必要なため、上場が認められると対外的な信用度がアップします。多くの人に自社を知ってもらえるというメリットもあります。信用度や知名度がアップすることによって、新たな顧客や取引先の獲得につながる企業は多いようです。

3)パブリックカンパニーへのステップアップ

上場時の審査はもとより、上場を維持していくためにも内部統制の整備が重要になります。上場に向けての準備、そして上場後もパブリックカンパニーとして多くの注目を集めることによって、自社の体制は洗練されていきます。

4)社員のモチベーションアップ・優秀な人材の確保

社員は、上場企業の一員としての誇りや自覚を持ちます。また、信用度や知名度がアップすることによって、顧客や取引先が増えるだけでなく、優秀な人材の確保にもつながります。最近は、「オヤカク(親の確認)」「嫁ブロック(妻の反対で内定を辞退)」など、これまで以上に家族の意向が就職・転職に影響を与えていますが、上場企業であれば本人だけでなく、家族の安心感も増します。

5)キャピタルゲインの獲得

創業者(経営者)にとっては、保有する株式を売出してキャピタルゲイン(創業者利益)が獲得できる点も見逃せません。キャピタルゲインとは、創業者の頑張りに対する評価の1つでもあります。シリアル・アントレプレナーと呼ばれる、複数回の起業に成功している人たちのなかには、キャピタルゲインを新たな起業への資金としている人もいます。

メールマガジンの登録ページです

IPOのデメリット

1)経営の自由度がダウン

株主と経営者が同一(または親族など)であれば、基本的に経営者の意思で経営ができます。しかし、上場企業となれば株主を選ぶことはできません。短期的な利益を求める株主だけでなく、中長期の成長を願う株主もおり、その意向をある程度くみ取る必要があります。こうした点を嫌い、一時は上場していても、MBO(経営陣による買収)によって非上場化を選ぶ企業もあります。

また、上場企業は広く投資家の資金を募って事業活動を行う面があるため、投資家に対して持続的な成長を示し続けることも必要になります。自社の成長戦略をどうアピールし、それをどのように実現していくのか、企業の実力が問われることになります。

2)情報開示に関する大きな負担

上場企業となれば、決算公告や有価証券報告書などの法定開示に加えて、コーポレートガバナンス・コードや、さまざまな立場のステークホルダーへの対応、個人・機関投資家へのIR活動など、多くの情報開示に関する活動が増えます。

これらの活動は重要であり、対応するための人員・組織の整備は決して小さな負担とはいえません。

3)上場維持のためには1億円!? 多額の管理コストが必要

上場を維持するためには管理コストが必要です。企業規模などによって異なるものの、1億円程度かかるともいわれます。産業能率大学の倉田洋教授は、ご自身が実際に在籍していたIT企業を例に、上場維持のためのコストを次のように示しています。

上場維持コストの内訳を示した画像です

IPOにはメリットもデメリットもあるので、よく理解した上で、自社に合う成長のための方法を選ぶことが欠かせません。「資金調達」という目的であれば、IPO以外にも複数の手段があります。例えば銀行では、一般借入以外にもさまざまな資金調達手段を提供しています。

IPOをきっかけに自社をネクストステージへ!

負担があるといっても、IPOには多くの魅力があり、実際に次の成長につなげている企業もあります。IPOはゴールではありませんが、IPOへの準備、上場後の過程も含めて自社を成長させる良い機会になります。

では、IPOを成功させるためには、どのような準備が必要なのでしょうか。次回は、上場までのスケジュールの目安や、主幹事証券会社や株式事務代行機関など、IPOまでの活動を支援してくれるさまざまな機関の役割などについて紹介します。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年10月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

提供
執筆:グローウィン・パートナーズ株式会社
「プロの経営参謀」としてクライアントを成長(Growth)と成功(win)に導くために、(1)上場企業のクライアントを中心に、設立以来400件以上のM&Aサポート実績を誇るフィナンシャル・アドバイザリー事業、(2)「会計ナレッジ」「経理プロセスノウハウ」「経営分析力」に「ITソリューション」を掛け合わせた業務プロセスコンサルティングを提供するAccounting Tech® Solution事業、(3)ベンチャーキャピタル事業の3つの事業を展開している。
大手コンサルファーム出身者、上場企業の財務経理経験者、大手監査法人出身の公認会計士を中心としたプロフェッショナル集団であり、多くの実績とノウハウに基づきクライアントの経営課題に挑んでいる。

関連するキーワード

PickUpコンテンツ