現在の新卒採用市場において、企業にとっても学生にとってもインターンシップが「活動の起点」になってきました。しかし、実施するのに手間のかかるインターンシップは人事担当を専任で置くことさえままならない中小企業においては、ハードルの高い取り組みでもあります。本連載では、はじめてインターンシップに着手しようという中小企業の視点に立って、「超現実的なインターンシップの導入ノウハウ」について解説していきます。

第2回の本稿では、過去数年間の傾向と2022年卒学生の動きから「インターンシップの最新動向」について解説いたします。いくつかのデータに基づいて、インターンシップがいかに採用に直結しているかという事実、その流れが中小企業の新卒採用にもたらすプラス面とマイナス面、についてきちんと直視していただきます。やや焦る気持ちになるかもしれませんが、それがいまの新卒採用をとりまく現実です。そんな環境の中でも勝機はあります。自社のインターンシップを設計していくうえでの予習だと位置づけてご一読ください。

1 2016年卒採用から大きく変わった

学生にとって、もともと自己分析・業界研究・企業研究といった「就職活動の準備を行う」ための一つの手段だったインターンシップ。それが年々、就職先を発見し採用選考を受ける「就職活動に直結した」手段としての存在感を増してきています。

人材サービス大手マイナビは、就職活動とインターンシップについて多岐に渡る調査を行っていますが、まず「内定先を発見する手段」に関する調査結果について見てみます。内定先を発見する手段は、「就職サイト」「合同説明会」「企業ホームページ」「インターンシップ」といった就活時に利用するツールに大別されます。その各々のツールの活用度合いが2016年卒から2021年卒までどう推移しているのか、について調べたものです。ざっくりまとめると、「合同説明会」は低減傾向、「就職サイト」「企業ホームページ」が横ばいで、この6年間において唯一伸び続けているのが「インターンシップ」です。
これは、就職活動のスケジュールが変化したことが大きく影響しています。前回もお伝えしたように、2016年卒を境に、それまで12月だった企業の「広報活動解禁」=実質的就活解禁日が、3月へと後ろ倒しになりました。この就活解禁の後ろ倒しによって、インターンシップの役割が大きく変化したのです。

2 インターンシップから採用選考受験という図式

同じくマイナビの調査から、学生のインターンシップ参加率を見ると、2015年卒では32.7%だったのが、3月に後ろ倒しになった2016年卒では58.2%と1.8倍増加しています。2016年卒採用のルール変更によって、インターンシップに参加する学生は過半数を超え、その後も右肩上がりとなり、2021年卒の学生では85.3%まで増加しました。
学生のインターンシップ参加率が増加する一方で、採用広報解禁以降にナビサイトにエントリーする数は右肩下がりで減り続けています。就活ルール変更で当然ナビサイトのオープンも3月となりました。ナビサイトがオープンしていない以上、その前から企業と接触し始めるには、インターンシップに頼るのが手っ取り早いわけです。
そもそも3月への後ろ倒ししたのは、“学業への影響を配慮してほしい”という国からの要請を受けてのことでした。しかし学生はルールに従っていたのでは遅いと感じているわけです。結果的に就活ルールの変更がもたらしたのは、「学生の就活時期の変化」ではなく「学生の就活手段の変化」だったということになります。

そしてインターンシップ参加企業への採用選考受験率も増加していきました。多くの学生は、インターンシップに参加した企業の採用選考を受けるようになり、2021年卒の学生に至っては、その率はおよそ9割に上ります。「インターンシップ参加→採用選考受験」という図式は、もはや就職活動における鉄板の流れといってもいいでしょう。

3 明らかに採用充足に寄与

企業のインターンシップ実施率も年々上昇し続けています。マイナビの調査によると2021年卒時点では6割弱の企業がなんらかの形でインターンシップを実施。従業員規模別でみると、1000人以上の規模で81.3%、300~999人規模で73.8%、300人未満規模で46.7%と、やはり大きい企業ほど、実施率が高くなっています。実施率の伸びでは300~999人規模が高く、この層のインターンシップの実施率は今後も増加し、いずれは大手企業並みとなるでしょう。

企業からみて、インターンシップが新卒採用にポジティブな効果をもたらしていることを示すデータもいくつもあります。まずは採用活動の出来不出来とインターンシップの関連性について。2021年卒の採用活動を振返り、採用活動の自己採点が高い企業と低い企業で比較した時、自己採点の高い企業は自己採点の低い企業より、インターンシップの実施率が1.5倍となっています。つまりインターンシップの実施が採用活動の満足度にプラスの影響を与えているのです。
またインターンシップの実施有無による採用充足率を比較したデータもあります。インターンシップを実施している企業のうち、「予定していた採用予定数をクリアできた(=100%充足できた)」と回答したのは17.1%。一方でインターンシップを実施していない企業では8.0%。またインターンシップを実施している企業で「全く採用できていない」のが23.7%なのに対し、インターンシップを実施していない企業では55.4%に上ります。いずれのスコアもおよそ2倍の差があり、インターンシップを実施している企業の方が採用充足している割合が明らかに高いことがわかります。

まとめ①

  • 2016年卒の就活ルール変更が契機となりインターンシップが就活の起点となった
  • 学生も企業も、インターンシップ→採用直結という流れを確立していった

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4 サマーインターンから内定に

インターンシップの時期についてもデータで見てみましょう。採用選考を受けた企業のインターンシップに参加した時期を月ごとに並べてみると、次のようになっています。

採用選考を受けた企業のインターンシップの参加時期の画像です

8~9月の「サマー期間」と12~2月の「直前期」に2つの山があって、この2つの時期に参加したインターンシップから採用選考に進むという傾向が見てとれます。
スコアはやや「直前期」のほうが高いのですが、まさに就活本番直前の時期だと考えると、むしろ「サマー期間」のスコアの高さに注目すべきでしょう。従来は、サマーインターン=企業研究、秋冬インターン=採用の前哨戦という位置づけだったのが、昨今では、サマーインターンから採用に直結するという流れが鮮明になっています。それほど、サマーインターンシップの実施が重要になっていることがわかります。

では2022年卒学生の動きはどうなっているのでしょうか。まず挙げられるのは、就職活動を開始する時期のさらなる早期化。なんと大学3年生の4月~8月の期間に就職活動を開始したと回答している学生が70%を超えており、例年にも増して学生の動きが早まっていることがわかります。

インターンシップに応募する目的も「インターンシップ参加企業の選考を有利にするため」「選考試験の練習・経験のため」という声が多く、インターンシップの先に”選考を見据えている”のが、ここでもはっきり見てとれます。
その結果、2022年卒学生の内定率は過去最高のペースで推移しており、就活解禁の3月1日時点ですでに20%を超える学生が内定を保有していました。内定を得た企業の内訳は7割以上がインターン参加企業となっており、インターンシップが内定に直結していることがわかります。

まとめ②

  • サマーインターンシップ→採用選考→内定という流れがより鮮明になってきた
  • サマーインターンを実施するマンパワーが足りない中小企業にとってこの流れはマイナス

5 インターンシップの参加社数は頭打ち傾向

一方で、インターンシップの参加者と一人あたり参加社数は頭打ち傾向にあります。ここ数年間のインターンシップ応募経験と参加経験の推移をみると、次のような傾向にあります。

  • 応募率は2021年卒92.4%→2022年卒92.5%
  • 参加率は2021年卒85.3%→2022年卒84.5%と横ばい
  • 学生一人当たりの応募社数は2021年卒7.7社→2022年卒9.4社
  • 参加社数は2021年卒4.9社→2022年卒5.1社

注視すべきは、1人当たりの応募社数が2割増加しているのに、参加社数がほぼ増えていない点。応募しても参加できない。つまりインターンシップの選考が厳しくなってきているのです。

実は「大手企業のインターンシップに応募したが落ちた」と嘆く学生の声がかなり増えてきています。これまで述べてきたように、インターンシップがここまで採用に直結するようになると、より合理的にインターンシップを活用したいという力学が働くのは、ある意味当然でしょう。
“参加者の中からいい学生に目をつける”から“参加時点からいい学生を振るいにかける”へ、インターンシップは、採用直結モードのギアをさらに一段あげたことになります。
中小企業の新卒採用という視点に立つと、この傾向はウエルカムです。大手企業のインターンシップが狭き門になったことで、優秀な学生であっても選考に漏れるケースが増えてきているわけです。インターンシップの選考に落ちた学生の失意感はそれなりです。自社の秋冬~直前期のインターンシップは、そうした学生を呼び込むチャンスなのです。そこで学生に、なんらかのインパクトを残すことができれば、採用に至る可能性も高まります。

ここまでのまとめ

  • 大手企業のインターン選考厳選化で一人あたり参加社数は頭打ち傾向
  • 選考に漏れた学生を自社のインターンに呼び込める。中小企業にとってこの流れはプラス

インターンシップ起点の新卒採用が一般化する中、サマーインターンも採用直結型へと変わってきている。この流れによって採用活動の早期化に拍車がかかっている。本稿を読んでいただいているこの時期、世は大学3年生を対象にしたサマーインターンシップ真っ盛りです。冒頭でも言いましたが、この現実だけはご理解しておいてください。
だからといって、焦る必要はありません。ここから自社にふさわしいインターンシップを設計し、秋冬から直前期に実施できれば、勝機はあります。ではどんなインターンシップを実施すればよいのか。次回から一緒に考えていきましょう。


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以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年8月31日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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執筆:平賀 充記(ひらが あつのり)
株式会社ツナググループ・ホールディングス エグゼクティブフェロー 兼 ツナグ働き方研究所所長。1988年(株)リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)に入社。「FromA」「タウンワーク」「はたらいく」などリクルートの主要求人媒体の全国統括編集長。2012年(株)リクルートジョブズ・メディアプロデュース統括部門担当執行役員に就任。2014年ツナグ・ソリューションズ取締役に就任。2015年ツナグ働き方研究所を設立、所長に就任、いまに至る。
著書に『非正規って言うな!』(クロスメディアマーケティング)、『神採用メソッド』(かんき出版)、『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』(アスコム)がある。

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