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銀行は決算書のどこをチェックしているのか?

日本情報マート

2018.09.07

 (注)読者の皆様へ:このリポートの記載内容は、あくまでも執筆者個人の見解であり、りそな銀行の見解を代表しているものではないことにご留意ください。

 今回は、銀行や信用金庫など金融機関の融資審査において、決算書をどのようにチェックするのか、知っていただきたいことを解説します。

1 決算書は審査において重要な意味を持つ

 2015年以降、金融庁から地域金融機関(例えば、地方銀行や信用金庫など特定地域を主要な営業基盤とする金融機関)に対して、「企業の事業性を評価すべき」という指針が出されています。いわゆる「事業性評価」と呼ばれるもので、基本的には財務情報だけではなく、企業の事業内容や将来性を評価して融資の判断を行うものです。

 昨今、この事業性評価が注目されていますが、銀行等の融資審査においては、決算書が重要な意味を持つことに変わりはありません。企業の維持力や返済力を判断する上で有効な資料だからです。

 私は日本政策金融公庫で、中小企業の融資審査に携わっていました。政府系金融機関なので、民間金融機関が踏み込みにくい中小企業へ融資することもあります。そのため、以前から事業性評価の観点を重視した審査を行っていました。

 しかし、事業性が高いと評価できる企業であっても、決算書に問題がある場合は、融資後のデフォルト(債務不履行)のリスクが懸念されます。つまり、決算書に問題がある企業の場合、事業性評価で融資ができる範囲は限定的にならざるを得ないということです。

2 決算書でチェックされるポイントとは

 今やほとんどの金融機関で、決算書をコンピュータで分析して「信用格付」を行っています。膨大な量のサンプルデータと比較するなど、高度な統計手法を用いてプログラムされたシステムが使われており、「返済できなくなるリスクの高さ」が数値化されます。

 とはいえ、これは決算書の数字を定量的に分析しただけであり、それだけで決められた「信用格付」は正確でない場合があります。中小企業の決算書は千差万別で、必ずしも実態を十分に表していない可能性があるからです。

 そこで、金融機関の審査担当者は、経営者へのヒアリング、補足資料の提出依頼、企業への訪問調査など、実態を把握するための材料を集めた上で、修正入力を行うなどして最終的に判定します。

 優秀な審査担当者は、決算書3期分を短い時間眺めただけで、融資可能かどうかを見極めることができます。その際の主なチェックポイントは次の通りです。

1)売上・利益の推移

 売上、売上総利益、営業利益、経常利益の推移を見て、増加傾向か減少傾向かなどをチェックします。急増や急減がある場合には、その要因について経営者にヒアリングします。

2)自己資本

 純資産の金額や、自己資本比率(純資産÷資産)、増資の有無などをチェックします。一般的には自己資本比率が高いほうが「リスクが低い」と判断されます。

3)現預金の残高

 現預金の残高が、増加傾向か減少傾向かをチェックします。また、売上規模に見合う水準か(少ない場合は資金繰りがひっ迫している可能性がある)、預金ではなく「現金」が過大ではないか(粉飾の可能性がある)、預金口座はどこの金融機関にあるかなどについてもチェックします。

4)売掛金の状況

 売掛金が平均月商に対して何カ月分あるか、3期分の売掛金明細を比較して残っている先がないか、売上の回収条件から算出される推定有高と比較してどうかなどをチェックします。

 推定有高とは、例えば回収条件が「月末締め翌月末振込」で、決算期末が月末の場合、「月商の1カ月分の売掛金があると推定される」ということです。これらは、架空の売掛金計上による粉飾決算の可能性や、回収が長期化している先がないかをチェックする手法です。回収困難な売掛金は含み損として認識され、自己資本から差し引きます。

5)棚卸資産の状況

 棚卸資産が急増していないか、回転期間( 棚卸資産/(売上原価÷12))(分母に平均月商を使う場合もあります)が長期化していないかなどをチェックします。特に、不良在庫の有無や発生可能性などについて入念にチェックします。

6)買掛金の状況

 売掛金と同じく、月の平均仕入額に対する倍率、増減、仕入の支払い条件から推定される有高との整合性などをチェックします。多い場合は、資金繰り難による支払繰り延べなどの可能性があるからです。

7)固定資産と自己資本との比較

 固定比率(固定資産÷自己資本)が100%以下か、含み益や含み損はないかなどをチェックします。含み益や含み損については、その場で判断するのは難しいので、経営者に資料の提出を求めるなどして、後日調査することもあります。例えば、不動産を時価評価して簿価との差額をチェックするといったことです。

8)借入金の状況

 借入金については、シリーズ第3回「銀行の『融資審査』で準備しておきたいこと」で解説した「債務償還年数」の計算のほか、増減、借入先の変化などについてチェックします。個人など金融機関以外の借入先については、借入に至った経緯などをヒアリングします。

9)雑勘定

 いわゆる「雑勘定」の状況をチェックします。雑勘定とは、「仮払金」や「短期貸付金」などを指します。一般的に雑勘定は、審査においてネガティブにとらえられるので、できるだけ決算書に残らないようにするのが好ましいです。中小企業でよく見られるのが、代表者への貸付金ですが、金額や内容によっては問題視されることもあるので要注意です。

10)減価償却費の計上

 償却資産に対して適正に減価償却費が計上されているか、税務申告書の「別表16」でチェックします。償却不足の場合は、利益を水増ししているといった見方をされます。

3 決算書のコンピュータ分析の仕組み

 審査担当者に、決算書を分析するコンピュータシステムの仕組みや内容について質問しても、詳しくは教えてくれないでしょう。企業秘密ということもありますが、高度な統計手法を使ったシステムなので、簡単に説明できるものではないからです。しかし、これでは中小企業が経営や決算書を改善する方法が分かりません。

 そこで参考として「経営自己診断システム」(独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営)を紹介します。

 この自己診断システムでは、自社の財務データ(決算情報)26項目を入力することにより、自社の財務状況を点検することができます。また、CRD(中小企業信用リスク情報データベース)に蓄積された同業他社の大量データと比較することで、業界内における自社の各財務指標値の位置を把握することもできます。

 この自己診断システムの活用法ですが、例えば、業界標準値より劣っている指標の改善に注力し、改善が実現した場合には、審査担当者からの評価が好転する可能性も期待できます。また、自社の財務状況の点検結果を材料として、審査担当者と意見交換することも有意義かもしれません。

4 融資を受けられる決算書を目指す3つのポイント

1)本業の業績を高めて自己資本を厚くする

 身も蓋もない話になってしまいますが、企業は本業について工夫と改善を行い、利益を増やすのが王道です。利益が増えてくると、しだいに自己資本も厚くなり、安全性の評価が高まります。

2)自社の決算書の内容をしっかり把握する

 自社の決算書に無頓着な経営者もいるようです。しかし、それでは審査担当者からの質問に的確に回答できません。前述のチェックポイントを意識して、自社の決算書を自己分析し、常に自信をもって説明できるようにしましょう。

3)決算書は税理士任せにせず能動的に関わる

 決算書の作成は、税理士任せにするのではなく、経営者が能動的に関わることが重要です。税理士の主な仕事は税務申告であり、金融機関融資を含む企業の資金調達を意識していないことがあります。決算期が近くなってからでは修正できる範囲も限られてきます。そのため、決算月の数カ月前から、雑勘定を極力なくすなど、経営面でも意識した取り組みが必要です。

 なお、融資申込みのタイミングが、決算月から半年以上経過していると、「合計残高試算表」の提出も求められます。合計残高試算表を作成する際も、早めに税理士へ資料を提供して、経営実態を正しく示せるものにすることが重要です。

 融資を受けるか受けないかにかかわらず、決算書は「会社の通信簿」といえます。経営者は、日頃から財務データを意識した経営を行うことが重要です。

 次回は、「円滑に資金調達するための事業計画書」というテーマを予定しておりますので、どうぞお楽しみに。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年9月7日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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執筆:上野光夫
株式会社MMコンサルティング 代表取締役・中小企業診断士
1962年鹿児島市生まれ。九州大学を卒業後、日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)に26年間勤務し、主に中小企業への融資審査の業務に携わる。3万社以上の中小企業への融資を担当した。融資総額は約2,000億円。
2011年4月にコンサルタントとして独立。起業支援、資金調達サポートを行うほか、研修、講演、執筆など幅広く活動している。
リクルート社『アントレ』などメディア登場実績多数。
著書に
 『起業は1冊のノートから始めなさい』(ダイヤモンド社)
 『「儲かる社長」と「ダメ社長」の習慣』(明日香出版社)
 『事業計画書は1枚にまとめなさい』(ダイヤモンド社)
などがある。

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