一般的に、生命保険は個人の病気や入院などに備えて加入するものです。この記事のテーマとなる「法人保険」も基本は同じで、経営者や従業員の万一に備えるものですが、この他にも経営者の退職金の準備など独特の機能を果たします。
 ですから、加入を検討する際に保障内容を確認するのは当然ですが、その他に、支払った保険料の税金の取り扱いや、解約した場合に戻ってくる解約返戻金についても注意することが大切です。例えば、

法人保険の保険料が損金になるかどうかは、保険の種類や解約返戻金の割合などで、大きく変わってくることをご存じでしょうか?

この記事では、

「定期保険」「第三分野保険(医療保険やがん保険など)」「養老保険」「終身保険」

の順番で、損金のルールを分かりやすく解説していきます。

1 定期保険

    ポイント

    支払った保険料の合計額に対する解約返戻金の割合を「解約返戻率」といいます。この解約返戻率がピークになるときの割合(最高解約返戻率)ごとに、損金になる割合や時期が違います。

定期保険の税務上の取扱を示した画像です

1)最高解約返戻率が50%以下の商品

支払った保険料の全額が損金になります。契約年齢や保険期間の長さも関係ありません。

2)最高解約返戻率が50%を超え70%以下の商品

保険期間を3つの期間に分け、取り扱いが決まっています。

最高解約返戻率が50%を超え70%以下の場合を示した画像です

1.保険期間初めの4割の期間(例えば、保険期間が20年であれば8年)

支払った保険料の40%が資産に、残りの60%が損金になります。

2.上記1.の期間後から保険期間の7.5割までの間(例えば、保険期間が20年であれば9~15年)

支払った保険料の全額が損金になります。

3.保険期間の7.5割を経過した後(例えば、保険期間が20年であれば15年経過後)

支払った保険料の全額が損金になります。また、上記1.の期間中に資産とされた部分は、残りの保険期間中に均等に取り崩します。

4.例外

最高解約返戻率が70%以下で、かつ、被保険者1人当たりの年換算保険料相当額(支払保険料の総額/保険期間。以下「年間保険料」)が30万円以下の保険については、全ての保険期間を通して支払った保険料の全額が損金になります。

3)最高解約返戻率が70%を超え85%以下の商品

保険期間を3つの期間に分け、取り扱いが決まっています。

最高解約返戻率が70%を超え85%以下の場合を示した画像です

1.保険期間初めの4割の間

支払った保険料の60%が資産に、残りの40%が損金になります。

2.上記1.の期間後から保険期間の7.5割までの間

支払った保険料の全額が損金になります。

3.保険期間の7.5割を経過した後

支払った保険料の全額が損金になります。また、上記1.の期間中に資産とされた部分は、残りの保険期間中に均等に取り崩します。

4)最高解約返戻率が85%超の商品

保険期間を4つの期間に分け、取り扱いが決まっています。

最高解約返戻率が85%超の場合を示した画像です

1.保険期間初めから10年目まで(図中の(A)期間)

払った保険料のうち、次の計算式で算出した金額は資産に、残りは損金になります。

支払保険料×(最高解約返戻率×90%)

2.11年目以降から、最高解約返戻率となる期間等の終了の日まで(図中の(B)期間)

払った保険料のうち、次の計算式で算出した金額は資産に、残りは損金になります。

支払保険料×(最高解約返戻率×70%)

3.上記2.の期間経過後から、解約返戻金額が最も大きくなる日まで(図中の(C)期間)

支払った保険料の全額が損金になります。

4.上記3.の期間経過後から、保険期間の終了日まで(図中の(D)期間)

支払った保険料の全額が損金になります。また、上記1.の期間中に資産とされた部分は、解約返戻金額が最も大きくなる日から保険期間の終了日まで均等に取り崩します。

2 第三分野保険(医療保険やがん保険など)

    ポイント

    第三分野保険のうち、定期と終身(全期払い)のものは、定期保険と同じ取り扱いになります。終身(短期払い)のものは、年間保険料によって取り扱いが異なります。

1)終身(短期払い)、年間支払保険料が30万円を超えるもの

保険料の払込期間中と、払込期間終了後で取り扱いが変わります。

1.保険料払込期間中

支払った保険料のうち、次の計算式で算出した金額は損金に、残りは資産に計上します。

「年間保険料 × 保険料払込期間 ÷ 保険期間」(以下「算式A」)

なお、終身タイプの第三分野保険の「保険期間」は「116歳-契約年齢」で計算されます。例えば、35歳で契約した場合には、81年(116歳-35歳)となります。

2.保険料払込期間終了後の期間

上記1.の期間中に資産とされた部分を、116歳になるまで、算式Aで計算した金額と同額を「保険料」などとして損金にします。

2)終身(短期払い)、被保険者1人当たりの年間支払保険料が30万円以下のもの

支払った保険料の全額が損金になります。なお、解約返戻金がごく少額な第三分野保険も同じ取り扱いになります。

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3 養老保険

    ポイント

    死亡保険金の受取人・満期保険金の受取人が、「会社」か「被保険者やその遺族」かで取り扱いが違ってきます。

1)死亡保険金の受取人は「会社」、満期保険金の受取人も「会社」のケース

支払った保険料は、全額を資産に計上します。
 なお、資産計上していた支払保険料を「雑損失」などで処理し、損金になります。満期保険金と資産計上した支払保険料の差額は「雑収入」などで処理され、益金(税務上の収益)として課税の対象になります。

2)死亡保険金の受取人は「被保険者やその遺族」、満期保険金の受取人も「被保険者やその遺族」のケース

支払った保険料は損金になります。ただ、被保険者個人に支払う「給与」とみなされるため、支払った保険料は給与同様に所得税の源泉徴収が必要になります。

3)死亡保険金の受取人は「被保険者やその遺族」、満期保険金の受取人は「会社」のケース

支払った保険料のうち半額は資産に、残り半額は「福利厚生費」として損金になります(全社員が加入しているなど一定の要件を満たした契約に限る)。
 なお、資産計上していた支払保険料を「雑損失」などで処理し、損金になります。満期保険金と資産計上した支払保険料の差額は「雑収入」などで処理され、益金(税務上の収益)として課税の対象になります。

4 終身保険

    ポイント

    支払いの際は資産に計上し、解約返戻金の受け取りの際は損金になります。

支払った保険料は、全額を資産に計上します。そして、資産とされた部分は、解約返戻金を受け取ったときに全額を取り崩します。もし、支払った保険料の総額(支払保険料総額)と解約返戻金額(保険金受取額)に差額が生じた場合の取り扱いは次の通りです。

  • 支払保険料総額<解約返戻金額(保険金受取額)の場合は、差額が益金になる
  • 支払保険料総額>解約返戻金額(保険金受取額)の場合は、差額が損金になる

5 契約時には改正が入っていないか、要チェック!

法人保険を取り巻く税金の取り扱いについては、数年ごとに改正が入っています。特に2019年6月に行われた改正により、今までの税金対策の中心であった定期保険と第三分野保険の損金ルールが見直され、上記で解説してきた通り、その効果はかなり小さなものとなっています。
 2019年6月より前に加入していた法人保険の見直しをする際や、今後新たに契約を検討する際には、支払った保険料の損金ルールが現在どうなっているのかを確認することが大切です。

以上

(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年2月28日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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